動物が美少女化した異世界で戦争に巻き込まれます
鏡銀鉢
第1話 僕は動物が大好きだ
もう一度言う。僕は動物が大好きだ。
ネズミやウサギみたいに、ちっちゃくてちょこちょこ動く小動物が好きだ。
猫や犬みたいな、もっふもふの動物が好きだ。
馬や鹿みたいにカッコイイ、草食動物が好きだ。
ライオンやトラみたいな、勇ましい肉食動物が好きだ。
カバやサイ、クマやゾウみたいに、強いけどのんびりしている動物が好きだ。
不思議生命体の両生類も好きだ。
モンスターチックでイカした姿の爬虫類が好きだ。
動物なら、絶滅した古代生物や、最強の動物恐竜もロマンがあって好きだ。
何よりも、意味も無く他人を傷つけない動物が大好きだ。
「みんなー、ご飯だよー」
僕の肺が、ゆっくりと土と草の香りに満たされた。
放課後。僕はいつも通り高校の飼育小屋に来ると、ウサギの餌箱に餌を入れてあげる。
そうするとみんな集まってきて、仲良く餌箱に顔を突っ込んでご飯を食べ始める。
その間に僕は、飼育小屋の中の掃除を始めた。
糞や汚れている土、草をバケツの中に入れて、外に捨てに行く。それから新しい土と草をまいていく。
それから濡れた雑巾で金網や柱を拭いて、最後にウサギが登って遊ぶ用の足場を綺麗に磨く。
寝床の草を確認すると、まだ交換しなきゃいけないほど汚れてはいなかった。
寝床からはウサギの可愛い匂いがして、僕はこの匂いが好きだ。
僕はまだ、夢中になってご飯を食べている子達の下へ戻る。
何羽かのウサギが満足したのか、餌箱から離れて、僕の足下にすりよってきた。
「よしよし、いいこいいこ」
僕はしゃがむと軍手を脱いで、ウサギ達の背中を直接なでであげる。
そうするとウサギ達は、みんな気持ちよさそうに目を細めて『もっと』と要求するようにして、自ら背中を僕の手にこすりつけてくる。
ウサギの毛はふわふわで温かくて、触るとすごく癒される。
生きたぬいぐるみ、ううん、体温を感じるこの子達は、ぬいぐるみよりもずっと可愛かった。
僕は動物が好きだ。
動物は他人を傷つけない。
お腹がいっぱいになったライオンは、目の前をシマウマの群れが通っても気にしない。シマウマも、お腹がいっぱいのライオンには無警戒に近寄る。
自分が生き残る為に擬態して相手を騙す事はあっても、それで他人を傷つけることはしない。
それに動物は、自分で自分の子供を殺さないし、意図的に仲間を殺す事もしない……
「ねぇあれみて、ウサギなんかと遊んでる~」
「しょうがないよ。あんな奴、寂しがり屋のウサギさんしか相手にしてくれないんだから」
「ダサ。早く行こ」
飼育小屋の前を、クラスメイト達が通り過ぎて行く。
その背中から視線をはずして、僕は暗い気持ちになってしまう。
せっかく可愛いウサギと一緒なのに、笑顔が冷めていくのが解る。
僕は動物が大好きだ。
でも逆に、いわゆる普通の子供が好むモノに疎い。
スポーツや俳優、アイドルや歌手に興味の無い僕に、学校で居場所なんて無かった。
小学校の頃、とある有名球団が日本一になってクラス中大騒ぎの時『僕野球見た事無いから解らない』と言った時の、男子達の顔が忘れられない。
中学生の頃、授業中に国民的な人気アイドルグループの話題になって『それ何?』と僕が聞いた時の、女子達の顔が忘れられない。
この高校に入学した時、先生が自己紹介で自分の名前と好きな歌手や俳優女優の名前を言うように言うから『好きな歌手や俳優さんはいません』と言った時の、みんなの顔が忘れられない。
人間という動物はものすごく非合理的な生き物で、趣味趣向が違うだけで、群れに迷惑をかけるわけでもない固体を排除しようとする。
小学四年生の頃から高二の今年まで、八年連続で飼育委員の僕は、小学校の頃から絵に描いたようないじめられっこだった。
中学で陸上部に入って運動を始めてもその扱いは変わらなかった。
小学校の時の階級、クラスカーストで最底辺、いじめられっ子に属した僕は中学や高校に入っても元クラスメイトが初対面の子らに僕の事を話した。
すると初対面の子らも、じゃあ俺も、と僕をいじめ始める。
「君達は可愛いね」
一話のウサギを抱きかかえると、僕はその黒い瞳を覗き込んだ。
耳のつけねを指先でかいてあげると、気持ちよさそうに『ちぃちぃ』と鳴いてくれるのが嬉しくて、僕はつい念入りに可愛がってしまう。
動物は、趣味が違うからっていうだけの理由で僕をいじめない。
動物は、みんながやっているから自分も、なんて理由で僕をいじめない。
人間と違って必要以上に欲張らない。
欲張って他人を騙したり、盗んだり、傷つけたり、まして殺したりなんてしない。
当然……戦争なんて絶対にしない……
「じゃあね、みんな」
ウサギ達に別れを告げて、僕は名残惜しそうに飼育小屋のカギを閉める。
僕はペットを飼っていない。
僕は動物が好きだけど、だからこそ、ペットが死んだ時が辛すぎるから。
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