第3話 ファンタジー系主人公の女勇者

「あれ何のコスプレだ?」


 脳内メモリからあらゆるゲームや漫画、アニメやラノベのデータを引っ張りだすが彼女が着ている衣装に該当するモノは無い、自作のオリジナル衣装だろうか?


 などと凛一が考えていると反対の左側の木々から今度は和装の青年が現れた。


 二十歳になるかならないか程度に見える青年は素肌に直接袖の無い白い羽織を着た涼しげな格好で下は袴で裸足、下駄(げた)や草履(ぞうり)は履(は)いていない。


 ヒジから手首までの間に包帯を巻きつけ腰から垂れた帯とぶら下げた瓢箪(ひょうたん)が印象的だが、それ以上に太い腕と割れた腹筋や分厚い胸筋に目が止まった。


 格闘ゲームのキャラクターのような筋肉はおそらく袴の下まで広がっている事だろう。


 精悍(せいかん)な顔立ちと闘気に満ちた目は先程の金髪美少女に向けられてまだ凛一の存在には気付いていないようだ。


「その姿、貴様大陸の者か?」


 途端に拳を固める青年に少女は問い返す。


「大陸? 確かにあたしはこのファルガム大陸出身だけど貴方人間よね? 安心しなさい、あたしは勇者ロトギスとその守護天使エリエルの娘でハーフエンジェル勇者エリスよ」


 エリスの話を聞いた途端、青年は怪訝そうな顔をしてさらに警戒を高める。


「破(は)亜(あ)腐(ふ)炎(えん)磁(じ)得(え)流(る)? なんだそれは?」

「だからハーフエンジェルよハーフエンジェル! 人間と天使の間に生まれた子で天に仕える存在なの!」


 語気を強めて説明するエリスだが青年にはまるで伝わっていないらしく、青年も語気を強める。


「珍妙な言葉を使うな、生憎とそんなモノは知らん! まして自ら天に仕えるだと? 貴様は狂言師か何かか? 言っておくが俺はそんなモノには惑わされんぞ」


 爆発した。


 本当に、なんの前触れもなくエリスの周りの空気が膨張して突風が巻き起こり、いつのまにか彼女の背中から純白の翼が生えている。


 その様子に凛一は言葉を失って体が硬直した。


「狂言? そんなモノは知らない? なるほどね、よく分かったわ、魔族側に寝返った人間はいるし人間と魔族の間に生まれた子には人とほとんど同じ姿もいるって聞いたわ」


 全身に異形の力をまとい、エリスは腰の剣を抜いて右手で構える。


「投降する気は?」


 怒りの込もった声に青年はさらなる闘気で返す。


「その言葉で核心した、貴様大陸の犬だな……大和最強の武術家神谷(かみや)喜助(きすけ)の弟子、神谷道場が一人、神谷(かみや)竜輝(りゅうき)、参る!!」


 二人が同時に駆けた。


 二人が立っていた地面が大きく抉れて一瞬で距離が無くなり一帯のど真ん中で激突して大気が震える。


 エリスは左腕に嵌(は)めた小型の盾で竜輝の右拳を防ぎ竜輝はエリスが持つ金色の剣を左手で受け止めている。


 そう……手で受け止めている。


「なっ!? 神の金属(オリハルコン)でできた勇者の剣(セラフブレード)の刃を素手で……あなた、やっぱり魔族、それもかなり高位の存在ね」


 エリスが驚くのも無理は無い。


 彼女の持つ金色の剣こそは最上級天使熾天使(セラフィム)の名を冠し、世界のあらゆる伝説の聖剣の中でも最強レベルに位置し先代勇者の父が神より直々に賜(たまわ)り先代魔王を打ち倒した掛け値なしの勇者の剣。


 当然神の金属オリハルコンで出来たその刃を生身で受け止めるなど馬鹿らしいにも程があるのだが、竜輝は白刃取りの要領で威力を軽減させたとはいえ確かに生身の手で刃を受け止めていた。


「何を驚いている? たかだか剣ごときが武術家の皮膚を傷つけられるわけがないだろう、それに魔族? ふんっ、背中に羽など生やして、お前の方こそ物の怪の類(たぐい)ではないのか?」


「単語の意味は分からないけどあたしを馬鹿にしてるって事だけは良く分かったわ!!」

「魔族の意味は知らぬがそれはこちらも同じだ! 武器を使うなど手加減のつもりか!」

「「殺す!!!!」」

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