第51話 シーカースクールの実技授業 空を飛びたいお年頃

 こちらも没ネタです。



「では皆さん、各自、技のトレーニングを始めてください」


 ある日の実技授業で、担任真白の指示通り、1年10組の面々は技のトレーニングを始めた。青空の下、広いグラウンドでは生徒ごとに魔法の新技を試している。


「さてと、じゃあ俺はヴォルグレネードでも練習するか」


 マグマに含まれる金属成分の砲弾を噴火力で飛ばすのがヴォルカノン。次に大和が目指すのは、砲弾が相手に被弾すると同時に炸裂して周囲に無数の弾丸を放つグレネード弾だ。


「大和」


 背後から声をかけてきたのは、栗毛の長いワンサイドアップが愛らしい、けれど気の強そうな目をした美少女だった。大和と同じ中学から入学したライバル(?)、御雷蕾愛だ。


「あんた、空、飛べるようになったのよね?」

「ヴォルスターのことか?」


 去年まで、大和はヴォルカンフィストという爆発パンチしか使えなかった。


 そのせいで、蕾愛からは一芸バカと文字通りバカにされていた。


 けれど真白の特訓を経て、今では手足から噴火力をジェット噴射のように使い、自由に空を飛べるようになっている。


「そうそう。なら、あたしと飛行訓練でもしてみる? 空中戦の先輩として、アンタの実力、見てやるわよ」


 宙に浮かびながら、得意げに見下ろしてくる蕾愛に、大和は気分を害することなく頷いた。


「そりゃ助かる。ていうか、お前のそれってどういう理屈で飛んでいるんだ? 磁力で飛んでるらしいけど、周りに金属製のものなんてないだろ」

「水分は強力な磁力を加えると浮くのよ。アタシは近くの空間に磁場を作れるから、体の水分を浮かせているってわけ」

「いいぞ。けど、スピードなら負けねぇからな」


 言って、大和が靴底から赤い炎を噴射すると、金髪碧眼の美少女、アメリアが縦ロールヘアを揺らしながら歩みよってきた。


「なら、ワタクシも参加させて頂きますわ。貴方がたには、誰が真のナンバーワンか知らしめたいと常々思っていましたもの」


 言うや否や、アメリアは靴底から水を噴射し、その反作用で宙に浮かんだ。


「なら、おい蜜也! お前も空、飛べたよな?」

「うん、ハチにできることなら全部できるよ」


 離れたところに立っていた蜜也の背中に四枚の羽が構築されるや否や、超高速で羽ばたきながら、蜜也はこちらに飛んできた。


「それならボクも飛べるよ」


 いつも蜜也と一緒にいるLIAは、無重力空間であるかのように浮かび、等速直線運動で迫ってきた。LIAの適性は、髪と重力の二つらしい。

「いいなぁ、みんな空を飛べて」


 大和、蕾愛、アメリア、蜜也、LIAの様子に、宇兎がうらやましそうな声を漏らした。


「安心しろ宇兎、私も飛べない」


 と言う勇雄に、宇兎はしどろもどろになった。


 そもそも魔力がない勇雄と比べられても困るのだが、それを口にするのは勇雄に失礼な気がして何と言ったらいいのかわからない。そんなところだろう。


 宇兎の気遣い力に、大和は胸がキュンとした。


「じゃ、じゃあ宇兎、一緒に飛んでみるか?」

「え、いいの?」


 ちょっと声を弾ませながら、宇兎は一歩近づいてきた。


「実戦じゃ要救助者を運ぶ場面もあるかもしれないしな」

「えへへ、やった」


 ちっちゃくガッツポーズを作る姿を可愛いと思っている間に、宇兎は両手を広げた。


「じゃあ、はい」


 ――え? それは、俺に抱き着けってことか?


 合法的に好きな女の子を抱きしめられるまさかの事態に、大和は軽くパニックになりながら一秒間の間に100回以上も自問自答した。


 結局は宇兎自身が望んでいるから構わないだろうと言うことで、後ろから彼女を抱えた。


「大和。お腹だけじゃなくて、スカイタイビングのハーネスみたいにわきの下も抱えて」


 言われるがまま、左腕はウエストに回したまま、右腕で彼女を脇の下から抱えた。すると、宇兎も安全バーを保持するように、大和の両腕を握ってきた。


 かつてない密着感と共に、あらゆる刺激が襲い掛かってきた。ウエストの細さと制服越しに感じる体温、それから鼻腔をくすぐる宇兎の優しい匂いに、心臓と脳味噌からドキドキという音が聞こえてきそうだった。


 それは宇兎も同じらしい。彼女の背中から心臓の鼓動が響いてくるし、耳が真っ赤だ。


 どうやら、男子に抱きしめられるという事実を、今さら恥じらっているらしい。

 飛行レースの結果は、当然ながら大和の惨敗。人一人抱えただけで減速するなんて情けないと蕾愛とアメリアに散々責められるも、大和は幸せ過ぎて右から左だった。


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