第48話 そして少年は神話を超える!

「アポリアだかなんだか知らねぇが、ここは俺らの星だ! 出ていけ!」

「我々ハ星喰イ。星ヲ喰ラウモノ。星ヲ喰ラウ、喰ラウノダ」


 人間の言語を理解したてのロボットのようなカタコト口調のバルドルの光線を避け、秋雨はなおもイラプションアーツを猛らせた。


 攻撃無効能力を抜きにしても、最大魔力はバルドルのほうが遥かに上だ。


 ジャックを超える速力で拳を振るい、手の平でこちらを捉え、要所要所で光線を放って来るバルドルにはイラプションアーツで対抗する。


 戦闘経験も技術も足りない秋雨だが、生死とプライドをかけた極限の集中力は秋雨を秒単位で成長させ続ける。


 一秒前より今が、今より一秒後のほうが、明らかに技がキレている。


 バルドルの攻撃は徐々に当たらなくなり、秋雨は猛攻の間隙を縫いながらソードバリアを叩きつけてやる。


 バルドの体は刻一刻と切り傷が増え、流血し、動きが乱れていく。


 指が飛んだ。

 ヒジの腱を切断した。

 膝の皿が割れた。


 横薙ぎに振るったソードバリアの切っ先が、バルドルの両眼を切り裂き視界を奪う。


「光ガ……」


 暗闇の中、バルドルは両手にまばゆい光を放つが、彼がその輝きを見ることは叶わないだろう。


「終わりだ!」


 左右の前腕全体からイラプションアーツを発動させ、秋雨はソードバリアをバルドルの脳天に叩きつけた。


 半透明の剣身はバルドルの頭頂部から顔、首、胸まで通り抜けて、腹でようやく止まった。


「■■■■■■…………」


 体の断面から黒い霧が漏れ出た。

 バルドルの最期だ。

 体を雲散霧消させながらも、バルドルは何も見えない闇の中で手を伸ばし彷徨わせた。


「……■ノ……チカラ……■■■」


 そして、光の英雄は光を失い黒い霧となって爆散した。


 ――終わった。これで。


 全身を一気に疲労感が襲い掛かり、鉛の鎧でも着せられたように体が重かった。


 今、残ったネームレスたちに襲われたら確実に殺されるだろう。


 常に限界出力を維持していた魔力は、最後の一撃で全て出しつくしてしまった。


 しかし、周囲を見渡すとネームレスたちは群れのボスを失ったケダモノよろしく、一斉に逃げ出した。


 空間に穴を開け、暗闇の中へと殺到していく。

 その光景に、やっと秋雨は安堵の息をつけた。

 ふと、体から力が抜けて無抵抗に背後に視界に傾いた。


 けれど、秋雨は倒れなかった。

 都合よく背中が壁に当たり、体を支えてくれたのだ。


 ――壁? ここは外だぞ?


 不思議に思い首を回すと、それはよく知る半透明の壁だった。


「秋雨!」


 ビルの上から、草壁がバリアの滑り台で一気に滑り降りてきた。

 まだ苦しそうに腹部の火傷を抱えてはいるも、なんとか無事そうだ。


「先輩、ありがとうございます」


 秋雨は安心して感謝をしたのだが、草壁は不服そうだった。


「違うだろ秋雨?」

「え?」


 秋雨がまばたきをすると、草壁はキスの射程距離まで歩み寄り、花がほころぶようにわらった。


「先輩じゃなくて、守里ちゃんだ」

「……、はは、そうだな、守里ちゃん」

「うん♪」


 愛らしく返事をしてから、守里はちょっと顔を傾けキスをしてきた。

 彼女のくちびると舌の感触に幸せを感じながら、秋雨は静かに身を委ねた。

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