第47話 英雄VS令和男子!

「どうした? ヤドリギ以外で傷つくのは初めてか? これで形勢逆転だな!」

「…………」


 バルドルはやや顔をしかめると、癇癪を起こすようにして溶岩の壁を砕いた。


 上半身と言わず、全身を現したバルドルに、だが秋雨は容赦なく斬りかかった。


 上段から振り下ろした二撃目は、バルドルの上半身を袈裟切りに裂いた。


 二度の流血に、バルドルは秋雨の攻撃が偶然ではないことを学習したらしい。


 表情には警戒の色が見て取れる。


 それでも、戦意を失うまでには至らない。


「喰ラウ……ソノ力ヲ……」

「やれるもんならやってみやがれコピー野郎!」


 勝機を見出した秋雨は全身を過熱させるような勢いで魔力を滾らせると、ヴォルスターで加速しながらバルドルに斬りかかった。


 バルドルはソードバリアを両腕で受け止め、腕を切られながらバックステップをする。

 それを利用して、秋雨はヴォルスターの推進力で一気にバルドルを背後に押し込んだ。


「はぁっああああああああああああああああああああああああああああ!」


 バルドルは両足を床に突き立てるが、熱で液化した床は深いわだちを刻むだけだった。

 圧倒的な加速力と推進力のおもむくがまま、二人はまとめてビルの外まで飛び出した。


「落ちな!」


 ヴォルスターで空を飛びながら、秋雨は最後の一撃とばかりにバルドルの顔面にソードバリアを叩きつけた。


 赤い血の尾を空中に引きながら、バルドルは無抵抗に地面に落下した。


 地上100メートルからの落下の衝撃はすさまじく、下にいたネームレスのアポリアたちに激突したバルドルはコンクリートを砕いて埋まった。


 不運なネームレスは即死だった。

 秋雨の眼下で黒い霧が散った。

 だが、バルドは健在だった。


 生物無生物からの攻撃を無効にする能力は、どうやら地面への激突にも効果を発揮するらしい。

 それでも、秋雨の闘志は消えない。


 秋雨は地上に降り立つと、荒ぶる怒りを込めて吐き捨てた。


「なら直接ケリつけてやるよ! いきなり出てきて、先輩を傷つけて、タダで済むと思うなよ!」

「イケ」


 バルドルの合図で周囲からネームレスたちが一斉に飛びかかってきた。


「うぜぇ」


 それを秋雨は、全方位への容赦ない噴火で蹴散らした。

 360度へ噴き上がった爆炎と熱波はジャックと戦った時の比ではない。

 ネームレスたちは近い個体か順に、黒い霧になることも許されずに灰燼に帰した。


「来いよ。タイマンだ!」

「喰ラウ……オマエヲ、喰ラウ!」


 初めて感情的な声を出して、バルドルは両手に光を集めながら襲い掛かってきた。

 秋雨も、草壁のソードバリアを手に、イラプションアーツで斬りかかった。


 バルドルが接近戦を選んだのは間違いではない。

 剣の秋雨には遠距離戦を布くべきだが、遠距離光線が秋雨に避けられるのは証明済みだ。

 なら、手の動きを読まれにくい接近戦にこそ勝機があると、バルドルは判断したのだろう。

 事実、秋雨はやや追い詰められる。


 バルドルの手に魔力が集中して光り輝き、光線の発射体勢に入ったところで、手の向きから逃げればいいのだが、近距離戦ではバルドルの手が視界の中に納まらない場合もある。


 まして、秋雨は剣の素人だ。

 正当な剣術など望むべくもなく、ただ棒切れのように振り回すだけだ。

 常にバルドルの両手の平に注目しながら剣を振るうのは至難の業だった。


 それでも、秋雨は諦めなかった。


 ここで自分が負けたら、きっと大勢の人が犠牲になる。

 それ以前に、草壁を傷つけたこいつを許しておけない。

 最大限の警戒心と集中力をそのままに、秋雨は勇敢に過去の英雄へ肉迫し続けた。


「アポリアだかなんだか知らねぇが、ここは俺らの星だ! 出ていけ!」

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