第20話 親が偉大だから自身も偉大なのではない。偉大な親に恥じぬよう、己を磨き人は偉大になるのです。
――何だ、何が起こったんだ?
白い霧の中、大和は走馬灯を見るように目の前の出来事を脳内でリフレインしたが、理解できなかった。勇雄の腕が水球に触れた途端、何かが爆発したようだが。
「勇雄! 大丈夫か勇雄!」
大和の心配に拍車をかけるように、一陣の風が霧を晴らした。
背後では、蜜也が背中から蜂の翅を生やして、高速で羽ばたかせ風を起こしていた。
勇雄の姿は見えない。代わりに、表情を歪めたアメリアが姿を見せた。その眼差しは、まるで汚い虫を見るような侮蔑のソレだ。
文句の1つも言いたいが、大和は勇雄の安否確認を優先した。
「し、獅子王くん……」
怯えるような望月の視線を追った。最初の立ち位置より、10メートルも離れた場所に勇雄は倒れ、動く気配が無かった。
「「「勇雄!」」」
大和、蜜也、望月は慌てて勇雄に駆け寄った。
すかさず蜜也が回復魔術をかけると、推薦男子たちが歓喜の声を上げた。
「よし、ハワードの勝ちだ!」
「流石、アメリオン合衆国州チャンピオンの名前はハッタリじゃないですね!」
「頭の悪いお前らにも教えてやるよ。今のはボイルドボムって言って、触れると水蒸気爆発を起こす超高熱の過熱水なんだよ!」
「ガードや受け流しは自殺行為ってわけだ!」
「魔力もない欠陥品が、オレらのエースに勝てると思ったかよ」
「汚い口を閉じなさい」
最後の強い言葉は誰でもない、アメリア自身が吐き捨てた物だった。
「勇雄はだいじょうぶ、僕の魔術で治るよ」
「頼んだぞ蜜也」
勇雄の無事を確認してから大和が首を回すと、アメリアはさっきの侮蔑の視線を、クラスメイトである男子たちに向けた。
「アナタがたが、実力を隠している真の強者がいると言うからわざわざ来ましたのにこの程度。ただアナタたちが彼未満だっただけでしょう。恥を知りなさい!」
鋭利な言葉でバッサリと切り捨てられ、必死に言い訳の言葉を探している様子の5人に、アメリアは追い打ちをかけた。
「獅子の威を借るハイエナとはまさにアナタたちのことですわ。親の権力を自身のモノだと勘違いし、無能の分際で自分が何者かであるかのように振舞う典型的な親の七光り」
萎縮する男子たちに、アメリアは怒りの炎をあらわに、さらに威圧した。
「親が偉大だから自身も偉大なのではない。偉大な親に恥じぬよう、己を磨き人は偉大になるのです。故に、アナタがたのような紛い物が、上流階級全体の品格を下げるのです」
声音は徐々に冷たく、言葉はみるみる熱く、アメリアは女帝の風格で5人を圧倒した。
「それに、ワタクシはエースの座を取るつもりですが、まだ証明はしていません。アナタがたのような紛い物風情に、ましてワタクシの威を借りる為に語られる覚えはなくってよ」
その迫力に、5人は悲鳴を上げて逃げ出した。
アメリアは、いかにも時間を無駄にしたという不機嫌な顔で、5人の背中を睨んでいた。
15歳とは思えない自負と、勇雄を一撃で倒した強さに、大和は戦慄を覚えた。
――あれが、本物の推薦生の実力なのか。
無様に逃げていった5人を基準に、推薦生の強さを考えていた己の不明を恥じながら、大和は歯噛みした。
勇雄は、自分よりもずっと強い。その勇雄を、アメリアは秒殺した。
あれが1組のエース、いや、それならまだマシなほうだ。
もしも、アメリア級が何人もいたら、さらにその上がいたら。考え出したら止まらなかった。
甘かった。
憧れの浮雲秋雨、その息子さんにスカウトされて有頂天になっていた。
多少の誤解はあったものの、自分が魔術音痴の落第生なのは事実だ。勇雄や蕾愛など、格上は何人もいる。なのに、ちょっとコツをつかんだ程度で、入試を免除された推薦生たちのエースに勝とうなんて、妄想が過ぎた。
厳し過ぎる現実と挫折に、大和は自然、悔しさを押し殺すように握り拳に力が入った。
◆
無力感に打ちひしがれている大和を、真白は校舎の窓から見つめていた。
一部始終を観察していた真白の顔に笑顔は無く、その口からは冷淡な声が漏れた。
「計画通りですよ、父さん……全ては、シナリオのままに」
そう言って、真白は部屋の片隅へと、視線を投げた。
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