第17話 なぁんだ、そういうことなら、わたしに教えさせて

「お前いっつもこんな練習してんのか?」

「うむ。私は真白師匠があらゆる武芸の実戦で使える技術だけを厳選した超実践型武術、【天手あまて】の全ての型を、毎日左右1000本ずつやることにしている」

「1000本!? 1日24時間じゃ足りないだろ!?」

「足りるぞ」


 こともなげに言うや否や、勇雄は白ランの裾をひるがえして、鉄像に中段突き、いわゆる正拳突きを、左右連続で放ち始めた。


 その連射性たるや、まるでマシンガン、いや、ガトリング砲だ。


 なのに、その1発1発の威力は大砲のソレで、重低音の金属音が、拳の重さと勢いを物語る。


 鉄の像はコンマ1秒ごとにひしゃげ、割れ、千切れ、見るも無残な姿になっていく。

 断面を見るに、公園の偉人像とは違い中身まで鉄が詰まった鉄塊であるにもかかわらずだ。

 望月が、白いツーサイドアップの房が跳ね上がるほど慌てながら両手を突き出して、魔術を使った。ひしゃげた鉄像は上体を起こそうとするが、勇雄の破壊速度のほうが、僅かに上だ。


 そして、カップ麺が出来上がるかどうか、という頃に拳を止めると、勇雄は構えを解いた。


「このように、毎秒11発以上を180秒間、つまり3分で左右2000発打てば良い」


 望月が、重たい溜息をついた。


「しかも1発1発がカノン砲以上の威力だから、鉄像をいくら作っても追いつかないよ……前はサンドバッグどうしていたの?」

「未熟な頃は木を殴っていたが、中学時代は真白師匠が定期的に訪ねてきて地形操作で岩の柱を大量に用意してくれた。魔術で出したものは一定時間で消えてしまうからな」

「先生の適性って土系なのか?」


 そういえば、真白先生の魔術適性知らないな、と今更ながら疑問に思った。


「いや、あの人はイレギュラーだ。適性に関係なく、あらゆる魔術を習得している」

「マジで!?」


 大和が素っ頓狂な声を上げると、勇雄は静かに頷いた。


「適性のない魔術はほぼ使えないのが常識だからな。天才という言葉が陳腐に聞こえるよ。私のように魔力が無い者もいれば、師匠のように万能の天才もいるということだ。そういえばかつて、音楽、建築、数学、天文学、気象学、物理学、飛行力学など最低でも35の分野全ての権威となったレオナルド・ダ・ヴィンチという男がいたな。真白師匠も同類だろう」


 自分を拾い上げてくれた恩人の規格外ぶりに、大和は背筋が震えた。


「真白先生って……底無しに凄いんだな」


 ――流石は秋雨さんの息子だ。


「草薙くんだって凄いよ。爆炎以外にほら、土に石に鉄に、1人でいくつの適性使えるの?」


 望月は少し興奮気味にこちらを見上げてくるも、大和は申し訳なさそうに言葉を濁した。


「あ~、違うんだ。これはマグマ魔術の副産物で、別に複数の適性があるわけじゃないんだ。本当は鉄のマチェットソードを造りたいんだけど……」


 岩土混じりの鉄板きれを拾い上げて、苦笑いを作った。


「これが限界……ていうか俺、昔から魔術音痴で、真白先生に会うまでは魔術1個しか使えなかったんだ」


 大和に非はないのだが、他人の期待を裏切るのが後ろめたくて、大和は謝るような声を漏らしてしまう。


「なぁんだ、そういうことなら、わたしに教えさせて」

「え?」


 望月は、福引で三等でも当てたような笑顔を見せてくれた。


「わたしの適性、金属なんだ。鉄を作るコツ、知っているよ」


 そういえば、鉄像を作っていたな、と大和は思い出した。


「ね、だから手伝わせて」

「そうだな、頼めるか」

「うん、任せて」


 好意的な笑みを見せてから、望月はちょっと口調を引き締め、先生口調になる。


「あのね、鉄を生成する時は熔鉱炉のイメージが大事なんだよ」

「熔鉱炉って、あの鉄がドロドロに熔けて黄色い液体になっているアレか?」

「そうそう。いきなり固体の鉄を作るんじゃなくて、体の中から熔けた鉄が流れ出して、それが鋳型に流し込まれるように形を変えて、冷えて固まるような感覚を想像してみて」

「おう」


 言われるがまま、大和は魔力を鉄に変換しようとするのをやめた。


 マグマのように、熔けた鉄が手から流れ出して、マチェットソード型の器に流し込まれるのをイメージした。


 すると、手から不純物の少ない、サラサラのマグマが溢れて、けれど地面に流れ落ちた。


「草薙くん、マチェットの鋳型だよ!」


 叫ぶと、望月は本当にマチェットの鋳型を生成して、大和に見せつけてきた。

 モノを見ることで、大和の中で、明確なイメージが像を結んだ。

 マグマは地面に垂れることなく、薄く伸びて、形状を保った。

 やがて、マグマは黄色から赤を経て、黒鉄くろがねの輝きを帯びた。


「成功……したのか?」


 くるりと上下を返して、マチェットソードを握ってみる。


「よしっ」


 気合い一閃、大和は林業で培った伐採技術を込めて、マチェットソードを鉄像に叩き込んだ。


 ガギィン、と勇雄ほどではないが、鋭利な金属音を響かせて、鉄像の腕は右肩もろとも地面に落ちた。


 剣身は、悔しいが僅かに刃こぼれしている。だが、初めてにしては十分だ。


「わぁ、すごいよ草薙くん、じゃあ次、鉄を鍛えた、鋼の作り方だよ」


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 魔力出力測定編

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