第八種接近遭遇
水原麻以
本命彼氏にドタキャンされたから他人とデート。
「約束してたのに、友達がこなくて。連絡したら、スマホの電波を、間違って受信した宇宙人が降りてきた。友達に、ドタキャンされたから、そのまま、宇宙人と1日、過ごした。」
そう話す彼女を、わたしは、見ていた。
「そのまま、地球に戻ったら、宇宙飛行士として、就職してるの?」
と、わたしは彼女に問いかける。
「ううん、宇宙へは行ってない。私は行ってない。それに宇宙飛行士は、みんなわかってない。宇宙人に宇宙で、何したって言うの。何を言っても聞かない。だから私は行く。誰も私に、宇宙の話なんか聴くわけないだろう。そんなことはわかってる。でも私は、この子と話したい。」
「あなた、宇宙の話はしないの?」
「話は出来ない。でも話してみようかな、って思っただけ。」
こんな風に、人の内面には、思ったことを行動に移すことができるから大丈夫かも。
その後、家に帰るまでの間、彼女の話が尽きることはなかった。
しかし、彼女の話を聞こうと思った時、彼の携帯電話にメッセージが入っているのを思い出す。
そのメッセージを見て、わたしは目の前の少女を信じざるを得なかった。
次の日の学校。
教室に入った彼のスマートフォンに、メッセージが着信があった。
「もしもし?」
と、彼に話しかける。
「もしもし、星子君? あの後、どう?」
彼は心配そうに聞いてきた。
「うん。すごく心配してくれたよ。でも大丈夫! 今、学校帰りだって」
と、わたしは彼の心配してくれているのが嬉しくてもう一度同じことを聞いた。
「そっか、よかった。でもよかった? 学校は?」
「うん。今日、休んだ」
「そっか。まぁ、無理しないようにね」
「うん。ありがとう……」
そう言った次の瞬間、彼の言葉が理解できなくなった。
「どうしたの? こんなこと」
「え、いや、なんでもないの。今、学校帰りだって。じゃ、また明日」
そう言うと、彼は「また明日」と言い残してまた去っていった。
「ごめん。ちょっとだけ変かも」
そして、彼の笑顔を見るとまた不安が襲ってきた。
「わたし、今、大丈夫かな? 本当に学校行かなくちゃだよね。あの子のこと、何も言わずに」
「うん。大丈夫だよ。俺は君の彼女じゃないかもしれないけど、ただの友達として、なんでも言うこと聞いてあげるよ」
その笑顔は、嘘が言っているに見えた。「あ、そうだ。星子君さ、もし、私の彼氏になったら、もっと一緒にいてあげれるんだよ?」
「なにそれー。俺、彼女と別れたくないんだけど!」
「……ふっ……ふふふふふふふふふ」
おかしい。
どうして笑っているのかわからない。
「ねぇ、私と一緒にいる時間、楽しい?」
「もちろん。楽しいよ」
「本当?」
「ああ、本当だとも」
「でも、わたしのこと、嫌いなんだよね?」
「そんなことはないってば」
そう言いながら、彼女は、自分の机の上に座ったままの姿勢で後ろに倒れていった。
彼女が倒れる直前、誰かの声が聞こえた気がする。
だけどそれが誰なのかわからなかった。
ただひとつ言えることがあるとすればそれは、彼女の意識がなくなったということだった。
教室の中が騒然となる中、私は教室から飛び出すように抜け出した。
階段を駆け降りていく途中も何度も後ろを振り返るのだが誰も追ってこない。いやまぁ追われても困るのだが……とにかく教室の中にいたらマズイと思った。
何かがおかしい。いや何もかもだ。周囲の光景がモザイク処理されたように大雑把で乱雑だ。こんな日常はありえない。宇宙人の仕業だろうか。それにしては被害が多すぎだ。これじゃあ地球侵略だなんて到底できないじゃないか。私はどこに向かって走ればいいのだろう。もういっそこの世界ごと消してしまえば……。…………違う!私はそんなことをするつもりはない!!そもそもなぜ私が消えなくてはならない!? 混乱しながらも必死になって走り続けた結果なんとか校門が見えてきたのだ。そこで私は違和感を覚えた。この道は知っている。いつも通る通学路であるはずなのに知らない道を走っている感覚に陥る。この感じはなんなのだ。しかし、私にとっては幸いなことであり、気付いたときには目的地まで到着していた。そこは近所の公園であったはずだがなぜか見覚えのない建物になっていたのには驚かされた。一体何が起こったのかわからなかった。まるで自分がタイムスリップでもしたかのように世界が変わってしまった。そして何よりも恐ろしいのがこの世界での記憶が徐々に失われてきていることだ。このままでは記憶がなくなるどころか人格までも壊れてしまうのではないかと思った。だがその時、彼の声が聞こえてきた。
「楽しいかい? これがデートだよ」その瞬間、すべて思い出した。彼がどんな人となりをしてどのような人生を歩んできたのか。
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