第26話
車内には夕方のラジオの音だけが小さく響いている。
せっかく結ばれたのだから、話したいことはお互いにたくさんあるはずなのに、何から話すべきなのかわからなかった。
沈黙を破り、先に切り出したのは私だった。
「先生」
「なんですか」
「このミサンガを結んでくれた時のこと、覚えてますか?」
「それは……もちろん。忘れるはずがないでしょう」
「あのとき、先生はどんなお願いをしたんですか?」
「う……」
「先生にとってはあれから10年も経ってるけど、これを結んでもらったのはさっきだし。お願い事、やっぱりまだ叶ってませんか?」
「そうですね、まあ、まだ」
「やっぱり! だ、大丈夫でしたか? 何かこう、本当は数年後くらいに叶ってほしかったお願いだったり、しましたか?」
「まだ叶ってはいませんが、一応叶う目処はついたので、ご心配なく」
「そうですか。それならよかった。で、だから何を願ったんですか?」
「それは……」
「だって私の手首にあるミサンガですよ? どんな願いが込められているのか知りたいじゃないですか」
「……」
「い、言いたくないことなんですか?」
「まったく、聞いた後で引かないでくださいよ」
「もちろんです!」
「……ひまわりが」
「私が?」
タイミングよく、信号が赤に変わり車がいったん停車する。
少し恥ずかしそうに頬を赤らめた先生は、そっぽを向いてぼそりと言った。
「ひまわりが将来、俺と結婚しますように」
「!?」
ぼ、と顔から火が出たのかと思うくらい一気に熱が集まる。
呆然としてミサンガを眺める。
まさかあのあおいが、あのときから私をそんなに好きでいてくれたなんて。
喜びと驚きと嬉しさと恥ずかしさとが混ざり合って、赤くなったままどんな顔で先生を見ればいいのかわからなくて俯いてしまう。
「言ったでしょう。ぼくの愛は重たいんです」
「ひゃっ」
急に耳元で囁かれるものだから、さらには変な声までが出てしまう。
今が暗い夜でよかった。
こんなに真っ赤な顔、絶対に見られたくない。
「あ、おいの意外なとこ、また見つけました。へへへ」
恥ずかしくて、笑ってごまかすしかなかった。
「ほらっ、先生。信号青ですよ!」
「はいはい。でも、ひまわりはぼくのお願い叶えてくれますよね?」
つい今まで照れていたくせに、もう先生モードに戻って平然とハンドルを握っている。
くぅ……これが大人の余裕か。
この一ヶ月は私の方が年上だったからなんとなく優位に立っていた気がしたのに。
今では先生の方が圧倒的に大人なので、その立場が逆転してしまい少し面白くない。
「それはもちろん、そのつもりです……」
「よろしい」
先生っぽい言い方に笑ってしまうと、つられて先生も笑ってくれた。
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