第8話


 帰ることも叶わず帰る方法もわからないまま、一週間以上が過ぎた。

 おばあちゃんの家にはテレビやゲームなどの娯楽はなく、周辺に家もないようで訪問者もない。

 私とさくらおばあちゃんとあおいだけの静かで穏やかな時間が流れていた。

 奇跡的に私と一緒にタイムスリップしてきたらしい私の学生鞄に入っていたスマホは、何度試しても電源すら入らない。

 充電器は持っていなかったので、電源が付かなくてはもはや何の役にも立たないただの板でしかなかった。

 まあ、どうせふたりの前でスマホを扱うのは憚られるので、電源がついたとしてもあまり役には立たなかったかもしれないが。

 一方、終業式だったこともあり置き勉していた主要科目の教科書類を鞄にぱんぱんに詰め込んでいたので、仕方がなくそれを眺める日々だ。

 まあ、帰り方がわからないのは大問題だが、あちらでは私は受験生でこの夏は勝負の時間なので、何にも気を取られずに勉強に専念できるのはありがたいと言えばありがたい。

 午後はもっぱら勉強の時間にしていた。

 この数日は広い居間の机に教科書を広げ、黙々と課題を解いていく。

 あの、先生によく似たと思ったあおいは、今14歳で高校受験前の中学三年生ということだ。

 受験、私と一緒じゃん。がんばろうね。と声を掛けたらふん、とそっぽを向かれた。

 やはり相当態度も口も悪い生意気な少年のようで、穏やかで敬語を崩さない先生と同一人物とは到底思えなかった。

 他人の空似だよね、と何度も思ったが、でもなぜかあおいと先生の姿が重なって見えるのだ。

 が、そんな反抗期? 生意気な盛りのあおいは私が居間で勉強をするようになると必ずどこからともなく現れて落ち着かなさそうに座って本を読んだりお菓子を食べたりしていた。

 さらに数日経つと、いつのまにか一緒に教科書を広げて勉強するようになった。

 とくに会話はないが、少しだけ仲良くなれた気がして嬉しい。

「あおいは勉強するの好き?」

「はあ? そんなわけねーじゃん。でもさあ、俺が宿題とかさぼるとさくらばあちゃんが悲しむんだよなあ。ばあちゃんの受験じゃねーんだから放っておいてくれたらいいのに」

「じゃあおばあちゃんが悲しまないようにちゃんと勉強してるんだ? えらいね」

「うるせえな別にえらくねえし。子ども扱いすんな」

「はいはい。可愛くないの」

 さくらおばあちゃんは、そんな私たちを微笑ましそうに眺め、ほおら。ご飯の時間じゃよ、休憩をおし。と冷えたそうめんを持ってきてくれた。

「ありがとう。さくらおばあちゃん。いただきます」

「ありがと、さくらばあちゃん」

「ふたりともお勉強? えらいねえ。だけど、根を詰めすぎてはいけないよ、休憩も大事だから。マイペースに行こうねえ」

「はーい」





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