未だ9歳だと言うガイの言葉に、私は信じられない思いでいた。

 どう見ても成人男性の体格なのに何でなのか?

 その疑問は当の本人から語られることになる。


「僕が大人なのが不思議なんだね。別に、今に始まった事じゃないから気にはしないよ。地下で産まれて地上を知らずに育った僕は、サンプルなのさ……ほら」


 フードを捲ったシンの姿を見て、私は思わず息を呑んだ。

 その姿は、どう見ても老人の姿に他ならない。

 僕というのがこれ程、似つかわしくない人物も居ないだろう。


「サンプルとは……何なの?」


「サンプルはサンプルだよ。能力を産まれながらに使える様、年老いて産まれた。能力の成長と共に若くなる。しまいには赤子になって全て忘れて死ぬ。僕に枷られた運命なんだよ。何で泣くんだい?」


 シンは辛くないのだろうか? 成長と共に大切なものを亡くしてしまうのに。

 楽しかった事や好きだった人の記憶さえ消えてしまう。

 私だったらとても耐えられなくて発狂してしまうだろう。

 そう、マサキやカリン達、お母さんの事を忘れるぐらいだったら生きていくのさえ難しい。

 唇が震えて上手く声が出せない。私には、ただ泣くことしか出来ない。


「君は優しいんだね。僕の為に泣いてくれる人なんか、ただの一人も居なかったよ……」


「ねえ、お涙頂戴は良いけど。早く帰らないといけないんじゃない?」


 この場で泣いてない冷静なサラが、ヤレヤレとばかりに首をすくめて言ったのを、ガイが睨んだ。


「ヘイヘイ、お嬢さんよ。冷静な判断ありがとよ。実の妹が死んだ時にさえ、泣かなかったんだからな。『氷の眠り姫』サラさんよ」


 ガイの辛辣な皮肉にも、サラは顔色1つ変える事はなかった。


「そうだね。そろそろ帰らないと厄介な事になる。近付いて来てるよ。政府の人間が……」


「ちょ、それを早く言ってくれよ! シン。事は一刻を争う。行くぜ、地下に!」


 私はカスミを抱きしめ頷き、地下へと行く決意をしたのだった。




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