第二十三話「襲来」
「見えました! モンスターの群れです!!」
「いよいよか」
モンスターの群れが現れたのは、スタンピードの迎撃準備が完了してから半日後のことだった。王都から地平線を一望できる高さを持つ城壁の中心部に佇むのは、押し寄せるモンスターを迎え撃つべく配備された一万の兵を指揮するレイオールとそれを補佐するガストンたちだ。
時刻は日が高く上った昼を少し過ぎた時間帯で、天上から地上へ燦々と太陽が照りつける中、少しだけ汗ばむ気温だったが、すぐにその汗が引っ込んでしまうほどのモンスターの大群が姿を現す。
先行して斥候が調べていた情報通り、モンスターの総数は目視で確認できただけでも数万単位という大規模なものであり、圧倒的な数の暴力がそこに存在していた。
「第一弓部隊、並びに第二弓部隊に通達。迎撃射撃の準備」
「はっ。第一、第二弓部隊、矢を番えよ!!」
レイオールの指示をガストンが全軍に伝え、その伝令を受け千を超える弓兵たちが矢を番える。当初の予定通り、王都にある東西南北の門のうち東側の正門を除いた西南北の門にそれぞれ1600人ほどの兵を配置し、万が一正門以外の場所にモンスターが襲ってきた場合の備えとしている。
まずは正門に突撃してくるモンスターの総数を減らすため、遠距離で攻撃できる弓での一斉射撃を行い一匹でも多くのモンスターを倒す。
それに加えて、第一と第二の弓部隊の射撃後、すぐに第三と第四の弓部隊が間髪なしに追加の射撃を行ってさらにモンスターに追撃をするというのがとりあえずの作戦だ。
さらに弓での攻撃が終了したのち、続いてはもう一つの遠距離攻撃として、魔法での広範囲魔法による殲滅戦を展開する予定だ。
レイオールの見立てでは、この作戦によって全体の約七割から八割程度のモンスターを排除できると踏んでおり、残りの二割は剣や槍などの接近武器による白兵戦で殲滅が可能という結論を出した。
しかしながら、モンスターとはいえ初めての実際の戦闘ということで、その予想もあてにはならず、詰まるところ出たとこ勝負の博打な部分が否めない。
それでも、そのまま何もせず黙ってモンスターの蹂躙を受け入れるわけにもいかないため、現状の戦力でできることを模索した結果、最良と言える指示を彼は無意識に選択することができていた。
「接近してきます」
「まだだ。十分に引きつけろ」
「さらに接近します」
「まだだ。まだ早い」
「弓の射程圏内に入りました」
「っ! 今だ! 放てぇぇぇぇええええええ!!」
レイオールの叫びと同時に放たれた千の矢が、弓なりに天を舞う。重力に逆らえず、その矢は次第に地面に向かって降下を始め、それは狙い通りにモンスターの先頭集団に降り注ぐ。
モンスターは、緑色の肌を持つファンタジーでお馴染みのモンスターであるゴブリンや、二足歩行を主体とする犬の顔をしているコボルトといった低級だが数が揃うと厄介なモンスターたちがメインだ。
一匹辺りの脅威度は、こちらの兵士一人の力量と比べてもかなり劣るが、それが五匹や十匹ともなってくればその脅威度は一匹の時よりも比ぶべくもない。
そんなモンスターたちだが、兵士たちの放たれた矢によって尽く討ち取られており、やはり一匹の力は大したことはない。だが、モンスターの規模が規模だけに千程度の矢を放ったところでその被害は軽微に留まっており、討ち漏らしたモンスターたちが門に向かって突進してきている。
「第三、第四弓部隊射撃用意! ……放てぇぇぇえええええ!!」
最初に放った弓部隊と入れ替わりに次の弓部隊が追加の矢を放つ、再び降り注ぐ矢の雨を受け、モンスターたちはその数を確実に減らしていく。
ここでさらに後方から新たにモンスターが現れる。それはワイルドドッグという犬型のモンスターで、低級の部類に入るものの、その脅威度はゴブリンやコボルトよりも上だ。
前者のモンスターよりも悪知恵が働くらしく、押し寄せる矢を掻い潜る個体もおり、その討伐数は明らかに減少していた。
弓部隊による一斉射撃による攻撃はモンスターたちにかなりの被害をもたらし、全体の三割強がその被害を被る結果となった。
これが人間同士の戦争であれば、この時点で被害を受けた軍は全滅状態で敗走しているのだが、モンスターたちには逃げるという選択肢がないため、続けて後続のモンスターがやってくる。
「殿下、弓部隊の矢が無くなりました」
「了解だ。これより魔法殲滅戦に入る。魔法兵部隊は所定の配置につけ!」
続いては、魔法使いまたは魔導師と呼ばれている者たちによる魔法を使った戦闘が始まる。地球では戦闘といえば弓や剣などの原始的な武器以外では、機関銃やミサイルなどといった銃火器を使用したものが一般的だが、この世界に銃は存在していない。
その代用としてファンタジー世界らしく魔法による戦術が取り入れられており、その重要度はかなりのものとされている。
この世界では、魔法を使える者というのは珍しくはなく、簡単な初級魔法であれば個人差はあれども習得するのは比較的簡単にできてしまう。
そんな中でも魔法兵になるためには、少なくとも中級以上の攻撃に特化した魔法を習得する必要があり、そのためにはそれなりの努力と才能が必要である。
それが証拠に、現在正門を護っている兵士一万の内、六千が近接武器を用いた通常兵で、三千が弓兵であり、残りの千が魔法兵という内訳となっている。
これだけで見ても、兵士の十人に一人しか魔法兵がいないという高い割合となっているのだが、魔法の中でも攻撃魔法が扱えるという人間というのは稀な存在であるため、千という数の魔法兵は決して少なくない数なのだ。
「各属性のアローを使え! 詠唱開始!!」
レイオールの指示によって魔法兵たちが一斉に魔法を発動するための詠唱を開始する。数秒後全員の詠唱が完了したのを確認したレイオールが、攻撃開始の号令を掛ける。
「放てぇぇえええええええ!!」
「ファイアーアロー」
「ウォーターアロー」
「ウインドアロー」
「アースアロー」
「ライトアロー」
「ダークアロー」
それぞれの属性の矢の形をした魔法が、先ほどの弓部隊と同じくモンスターに降り注ぐ。その効果は覿面で、ここで低級のモンスターが一掃されることとなった。
だが、後に控えているモンスターはゴブリンやコボルトよりも上位種のモンスターであり、現在進行形でこちらに進撃していた。それは二メートル前後の巨体に、豚の顔をした醜悪な見た目のモンスター。そう、オークである。
「ブモォォォォオオオオオオ」
「ちっ、オークか。殿下」
「範囲魔法用意! 私も攻撃に加わる!!」
レイオールの号令と共に、魔法兵たちが新たな呪文の詠唱に入る。先ほどよりも複雑な詠唱を終え、彼の指示を待つ。
「放て!! ファイアーボール」
「ファイアーボール」
「ウォーターショット」
「ウインドカッター」
「アースバレット」
先ほどよりも大規模な攻撃により、オークたちに小さくない被害が出ている。だが、低級モンスターよりも上位種であるモンスターだけあって、その被害はゴブリンやコボルトの時よりも軽い印象だ。
この時点でモンスターの残りは半分以下にまでなってはいるものの、そのほとんどはオークなどの侮れないモンスターばかりであり、ここは正念場といったところだ。
「モンスターの被害軽微。さらに進撃してきます」
「魔力の残りに注意を払いつつ、各個魔法で殲滅せよ!!」
「殿下、このままではモンスターが正門に到達するまでに魔法兵の魔力が尽きてしまいます」
「わかっている。俺に考えがある。ここは任せてくれ」
各魔法兵が魔法を乱射する中、レイオールはとあることを試すべく、次の行動に出ることにした。
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