#024 強襲

 同じ頃、ポートリマス帝国とラーミス領との境にある関所を時速128キロで通過していた。


「待て! 止まれ!」


 関所に居た兵士の声が届くはずもなく、さらに速度を上げて前輪が浮きウィリー状態になるとそのまま加速し2個目の関所をも突破した。


 当然、追跡してくる兵士の数が増してそれを気にする事もなくさらに加速していく。ついには兵士達の姿が小さくなり関所の兵士達は、自分たちが追い付けないことを悟り帝国騎士軍に連絡を入れた。


 そのような事になっているとも分からないアルトリアは、モトリー・〇ルーのKICKSTART MY HEARTを口ずさみながら時速およそ200キロで平原をKLX250で駆け抜けていた。


 平原を抜けると巨大な壁が見えて来たので砂煙を巻き上げて停止すると、「あの場所が、ポートリマス帝国の帝都ポーリスか」と呟いた。


 城壁近くにまで寄り、KLX250を降りると腰に装備していたフックショットガンの銃口マズルを城壁上に向けて引金ひきがねを引いた。すると、発射された鍵縄かぎなわが勢い良く伸びて行きしなっていたロープが張られたのを確認すると音を立てずに安全環あんぜんかんを身体につけて登り始めた。


 城壁上まで登りきると双眼鏡で一瞥しながら「おかしいなぁ・・・。母さんから昔聞いた話では、もっと活気があったはずなのに・・・」と呟いて双眼鏡を終おうとした時、何処からか女性の悲鳴が聞えて来た。


「おや? 女性の悲鳴を聞いた男は、一番に助けるのがセオリーだよな・・・。はぁ・・・」


 悲鳴を聞いてしまった自分を後悔しながら、背嚢はいのうとフルフェイス型で装着式統合目標指定装置ヘッドマウントディスプレイが内蔵されているヘルメットを取り出してそれらを装着している間に、カトリーナから無線が入って来た。


『――アル?! 今どこに居るの!?』

「ゥオッ! ビックリした、カトリーナか・・・。今は、帝都ポーリスの城壁上だ。それがどうかしたのか?」


『あなた、関所を無視したでしょ!』

「え? ああ、あの2つの関所か。 まぁ、確かに通過したけど・・・?」


『指名手配扱いよ、あなたが!』

 マジデスカ・・・。


 まぁ、やってしまった事は仕方が無い。開き直って「警告か?」というと、溜息が聞こえて来た。


『そうよ、まったく・・・』

「分かった、じゃあ・・・まぁ。取り敢えず・・・、母を頼む」


『あっ、まだ話は――!』


 無線を切るとウィングスーツを着て、城壁のふちに移動した。


「まるで、某FPSゲームのバトルロワイヤルに出て来たキャラみたいだな・・・」


 1つだけ深呼吸をして、「よし、行こう!」と自分を奮い立たせて重力に身を任せて自由落下し始めた。そして、民家の屋根より30メートル高い上空で両腕両脚を広げてムササビのように滑空し始めた。


++++++++


 場面は変わって、帝都ポーリスの4番街で煌びやかなドレスを着た少女を、鎧を着た3人の兵士が囲んでいた。


「いけませんなぁ、“元”第二帝女」


「離して!」


「ハハハ!離してと言われて素直に離すわけにも行きませんからなぁ」


 そして、少女を連れて行こうと兵士の1人が右腕を強引に引っ張った時、「ギャははは! 醜いねー!」と傍で笑っていた兵士の頭が爆散した。


「――な、なんだ!?」


「――くそっ、反乱軍か?!」


 刹那、もう1人の兵士の頭が吹き飛んだ。


「――ッ!」


「た、隊長ぉ!」


 少女の頭上を影が通り過ぎた後、兵士は絶望した。


「あ、有り得ない! 人が、ヒトが空を飛ぶなど・・・!――ひ、フギャぁ!」


 地面を転がり着地すると男は立ち上がり少女に手を差し伸べて、「大丈夫か? ん? ああ、怖がるな。俺“達”は助けを求める者の味方だ」と言った。


「――あー・・・事後だが、まぁ。 人の命をどうするつもりだ?もし、拷問にかけようと思って居たのなら、生憎あいにくだな」


「あ、貴男あなたは――」

「ん?」


「だ、誰ですか・・・?」


「・・・名乗る程、有名な人では無いですよ。 ただ・・・、ヒントとして特別作戦傭兵連隊S,O,M,R,の隊長と名乗っておきましょうか」


 少女が男の手を取りゆっくりと立ち上がった時、城門の方から砂煙が迫って来たのが見えたのでアルトリアは、64式小銃を右手に装備して臨戦態勢を取った。しかし、肉眼で見えるほどの距離になった時、敵の増援ではなく味方だと分かったので64式小銃を終った。


 砂煙を掻き分けるようにして姿を現したのは、ヤフォークやリクスが乗った高機動車両HMMWVや九六式装輪装甲車、M2歩兵戦闘車などだった。


『――やっと見つけた!』

「カトリーナか? 要人だ」


『カトリーナか?じゃないでしょ?! まったく、もう!みんなに心配かけて!』

「その件は、・・・すまんな」


『それで?! 一体、どういう状況よ!』


 無線で話していたらキリがないので、“元”第二帝女と呼ばれていた少女を連れて一先ずM2歩兵戦闘車に搭乗した。


 車内で告げられて分かった事だが、彼女はポートリマス帝国の第二帝女であるリリア・ポートリマスで帝国は軍のクーデターで1週間前に崩壊したらしい。さらに、現在皇帝の座に君臨した軍の過激派代表であるオットー・フォーゲル元軍務大臣が主犯らしい。


 俺が皇帝と話したいというと、彼女は「・・・。 皇帝は、親皇派の貴族達と共にオットー率いる兵士達に死罪にされました」と悲しい表情で答えた。


「――ちょっと、・・・ありえないわ!」

「か、カトリーナさん?」


「だって、そうでしょ!? このポートリマス帝国の皇帝は、私達と気が合いそうだったのに! クーデターで死罪って?!」


 リリアが肩を揺すられて困っていると、「彼女に当たっても仕方ないだろ、カトリーナ。 俺達が異変に気が付いていれば、ラーミス領が襲撃される事は防げたはずだ。でも、もう・・・過ぎた事だ」とアルトリアは車内で言った。


「取り敢えず・・・、学院まで。出してくれ」


 その瞬間、ゆっくりと来た道を帰って行く車体の中からリリアは何かを訴えるように皇城の方を見ていた。


++++++++


 3週間後。ポートリマス帝国が国名を変えてフォーゲル皇国となりきさきにはリリアの姉であるサラ・ポートリマスがなった。


 しかし、3週間も俺達は鼻をほじって居た訳では無い。新しく航空輸送機を開発しその機体を使った空挺降下師団を編成。さらに、高高度からの物資や車両などの空中投下という技術も卓越させた。おかげで作戦行動範囲が広がり今まで敵の裏を取るのに時間がかかっていた作戦も空挺強襲により簡単になった。


 だが、問題はある。


 それは今まで一纏めに特別作戦傭兵連隊を名乗っていたが、この度3種類の呼称に分ける事にした。


 前世で言えば、自衛隊が陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊と名乗って居た事を指す。


 この場合、特別作戦傭兵連隊S,O,M,R,は3つの組織からなる連隊となった。


 陸上特別作戦傭兵大隊L,S,O,M,B,海上特別作戦傭兵大隊M,S,O,M,B,航空特別作戦傭兵大隊A,S,O,M,B,という呼称になる。英語で各大隊を表すと陸上特別作戦傭兵大隊はLAND SPECIAL MERCENARY OPERATIONS BATTALIONで海上特別作戦傭兵大隊はMARITIME SPECIAL MERCENARY OPERATIONS BATTALION、航空特別作戦傭兵大隊はAVIATION SPECIAL MERCENARY OPERATIONS BATTALIONとなる。


『――こちらコスモ。コースりょう、コースりょう。よぉい、よーい、よぉい・・・降下、降下、降下!』


 航空輸送機のC-2の機体内では、後部ハッチに向かって一列に並ぶ空挺部隊の第1空挺師団たちが空中投下されていくハンヴィーの後に続いて降下を始めた。

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