私の体に咲くたくさんの赤い花

花月夜れん

高校三年生

「痛いっ!」

「あ、ごめん」

「まだ終わらないの?」

「もう一個だけ」


 彼のからだに浮かぶ一個の赤いあと。

 私のからだには十個以上ある、それを彼はまだ増やすと言う。


「見えないとこにしてよ。聞かれたら面倒すぎるんだから」


 ただ、見えないところだと、とても痛かったりするんだ。

 彼の頭が私の胸にうまる。


 ◇


 滝みたいな汗をかく夏の部室。昼休みにくるのは私達だけ。鍵は部長の彼しか持ってないから。

 かちゃりと鍵を閉め終わり、いつものようにすました顔になる、さっきまで必死に懇願してきた彼。

 こんなあとをつけなくても、私は彼以外愛していないのに。


「どうしようもなく不安になるんだ」


 一回許したあと、ずっとずっと続いてる。この儀式。


「オレの印をつけたい」

「はい?」


 お互いにつけるという条件で始まった恋人の印。最初はお互いつくかつかないかそんな小さな印だった。


「すぐ消えちゃうね」


 私がそう言うと、彼はもっと強くつけるようになった。


「ねえ、なんで今日男と二人で話してたの?」


 彼は文化祭の打ち合わせでクラスメイトと話しているのを目撃したみたい。


「あれは、ただの打ち合わせで」


 やましいことなんて何もないのに、彼は私の服のボタンをあけはじめ、噛みついてきた。


「いたい!!」

「あ、ごめん」


 歯形がついていた。ぞくりとした私は急いで服をしめ、部室から飛び出す。

 怖いのに彼の悲しそうな顔が、頭から離れなかった。


『日曜日、図書館の公園』


 彼からメッセージがきた。

 会いに行くといつもの彼がそこにいる。何で、部室だと彼は変わってしまうんだろう。


 ◇


「映画楽しかったね。八幡君主人公かっこよかったー! あ、お腹空いたね。ご飯食べに行こうよ!」

「うん、何がいい? あ、カラオケ行こうよ」


 二人きりの個室。私は少し考えたけど、頷いた。

 食い殺されるんじゃないかと思ってしまう。

 首筋、鎖骨、胸、腕、指先。場所を定めるように舌が這う。

 嫉妬しているのだ。彼のこのスイッチは私が別の男を目にしたり、口にしたりすることで入るんだ。

 このままでは、私はどうなってしまうのか。考えて、頭の中が凍りついていく。

 彼を愛している。

 大好きですと告白してくれた。

 彼を愛している?

 今まで男の人と付き合ったことがない私。

 これが恋愛の普通なの?


 ◇


「別れて下さい」


 私は彼に別れを告げた。

 好きな人が出来た。彼に残酷な言葉を投げつける。


「わかった。幸せになって」


 彼は執着してこなかった。

 ……嘘だった。別の好きな人なんていなかった。ただ、私はあなたを愛しているのか自信がなくなって。


「ごめんなさい」


 彼とはそのあと少したって、近況を報告しあったあと、話していない。

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私の体に咲くたくさんの赤い花 花月夜れん @kumizurenka

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