第19話「優しさの違い」
「まぁ、何か起きたら俺がフォローするから、いいよ」
先程夏実を悲しませてしまった秋人は、特にツッコミは入れずフォローをする姿勢を見せた。
それに対し、春奈が笑顔を見せる。
「秋人君は、優しいよね」
「えっ?」
急に春奈に優しいと言われたので、秋人はキョトンとしてしまう。
すると、春奈はカァーッと顔を赤くし、俯いてしまった。
「あれ……?」
春奈が急に俯いてしまったので、秋人は戸惑ったように冬貴に視線を向ける。
「俺、何か変なこと言った?」
「いや、今ほとんど喋ってなかっただろ」
「だよな……」
どうして春奈に顔を背けられたのかわからず、秋人は戸惑ったように春奈を見つめる。
しかし、春奈は顔を上げようとはしない。
それにより、隣に座っていたせいで春奈の顔色の変化に気付かなかった夏実も、不思議そうに春奈の顔を覗き込もうとした。
だけど――そのタイミングで、冬貴が夏実へと声をかける。
「まぁ秋人がフォローしてくれるんだったら、夏実も安心して働けるよな?」
「えっ? あっ、そうだね」
不意打ちを喰らった夏実は一瞬反応が遅れたが、冬貴の言葉に笑顔で頷いた。
「じゃあ、夏実のバイト先は秋人の家が開いてる喫茶店で決定、ということでいいのか?」
「あぁ、そうだな。とりあえず母さんにはオーケーもらわないといけないけど……まぁ、夏実なら大丈夫だろ」
昔、よく遊んでいた青葉ちゃんという女の子は、秋人の母親のお気に入りだった。
だから、その青葉ちゃんによく似ている夏実なら、きっと気に入られるだろうと秋人は判断したのだ。
「春奈ちゃんはどうする? もしバイトしてみたいなら、母さんにお願いするけど?」
夏実がアルバイトをするのであれば、春奈もやりたがっているかもしれない。
そう思った秋人が話しかけると、春奈は嬉しそうな表情で顔を上げた。
しかし――。
「やりたいけど……私、冬貴君と違って要領悪いから……アルバイトと塾、掛け持ちはできない……」
自分には無理だ、と判断をして表情を曇らせてしまった。
「それに、お父さんが許してくれないかも……」
「あぁ、春奈ちゃんの家って結構厳しそうだもんね」
厳しいというか、過保護というのか。
春奈の家は門限が決まっており、遊ぶ時は18時までに家に帰らないといけない。
塾の帰りも親が迎えに来ているようで、見た目がかわいくて幼いため、親が子離れできないのだろう。
「ごめんね……?」
折角誘ってくれたのに断ってしまった。
そう思った春奈は、上目遣いで秋人の顔色を窺いながら、申し訳なさそうに謝った。
しかし、そんな春奈に対し、秋人は笑みを返す。
「いや、気にしなくていいよ。もし、春奈ちゃんが働きたいってなったら、声をかけてくれたらいいから。そん時は、母さんに紹介するよ」
「秋人君……ありがとう……」
秋人の言葉を聞き、春奈は嬉しそうに頬を緩ませた。
しかし、その隣にいる夏実は、なんだか不服そうな表情を浮かべている。
「どうかした?」
夏実がジト目を秋人に向けてきたので、秋人は若干戸惑いながら夏実に声をかけた。
「いや、なんとなく前から思ってたんだけど……秋人って、妙に春奈ちゃんに優しくない?」
「えっ、そうかな?」
「うん。声とか、私より少し優しめだし、表情もなんだか柔らかい」
「う~ん……?」
夏実に指摘をされた秋人だが、思い当たる節がないので首を傾げてしまう。
すると、夏実は拗ねたような目でジッと見つめてきた。
「夏実がそう思ってるだけだって。秋人は夏実にも同じような対応してるぞ」
この空気はよくないな。
そう思った冬貴が夏実と秋人の間に入った。
「えっ、全然違うくない?」
「自分のことじゃないから、そう見えるだけだって。春奈ちゃんだって、さっき秋人のことを優しいって言っただろ?」
「そういえば……あれ? でも、あれって……表情や声色じゃなくて、対応のことのような……」
「一緒だって。それに、対応で優しくされているのならいいんじゃないか?」
「それは、まぁ……確かに」
納得しそうで納得しなかった夏実に対し、冬貴はゴリ押しをする。
それにより、夏実は首を傾げながら一応納得をした。
「えっと、ありがとうな、冬貴」
よくわからないけれど、とりあえず冬貴が場を収めてくれたので秋人は小声でお礼を言った。
すると、冬貴は首を左右に振って苦笑いを浮かべる。
「いいさ、もう慣れた」
「慣れたのか……?」
若干疲れが見える笑みを浮かべた親友に対し、秋人は息を呑む。
そして――そんな機会がいうほどあったのか、と自問自答をするのだった。
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