自称二刀流男子 v.s. 二卵性双生児 時々幼なじみ ~でもだからってそれはないっ!!
藤瀬京祥
森村さくらに告ぐ
「………………え?」
勢いよく男子トイレから出て来た
男子トイレから女子生徒が出て来たのだから驚くのは当然のことだろう。
しかもそれが月嶋琴乃だったから尚のこと。
学年一、いや学校一長身の女子生徒である彼女は学校一の美少女。
その美少女が男子トイレから出てくるという暴挙に出たのだから、ぶつかりそうになった男子生徒の驚きが倍増したのはいうまでもない。
(なんで男子トイレから……?)
サラリとなびく彼女の黒髪を振り返り、ややあってある事実に気づく。
(あ! あれって…………)
その疑惑を肯定するように、すぐあとから袋を抱えた
もちろん男子トイレからだ。
「……木嶋……なにしてんの?」
「俺じゃなくて本人に訊いてくれ」
やはりトイレの前でぶつかりそうになった二人は、視線を合わせたまましばしフリーズ。
ややあってそんな言葉を交わす。
「怖くて訊けるか」
「だよな……」
大きく溜息を吐いた文彦は、長い黒髪が去ったほうに視線をやって言葉を継ぐ。
「本人的には楽しい推し活らしいから邪魔しないでやってくれる?」
「絶対に邪魔しない。
しないけど……いいわけ?」
「いいも悪いもないじゃん。
俺に拒否権ないし」
「お前もよくやるな」
文彦に同情を寄せる男子生徒は、ふと文彦が抱える袋に視線を落とす。
「あ、これ?
「あー……いや、そういうことだと思ったけど……けど……」
「けど、なに?」
「怖くて言えない」
「うん、言わないほうがいいと思う」
「あれ、誰が標的?」
「8組の
「佐竹? 佐竹って確か、2組の森村と付き合いだしたんじゃなかったっけ?
森村、月嶋と仲良かったよな?」
男子生徒の問い掛けに、文彦はゆっくりと深く頷く。
「なんか問題あんの?」
「律弥が何を考えているかなんて、俺にわかるわけないだろ?」
「あの
「成績はいいくせに、マジなに考えてんのかわかんねぇよ。
とりあえず俺は
「いてらー」
男子生徒に見送られる文彦は見失った黒髪を探すべく、とりあえず
だが辿り着く前に
それでも見当たらない
「佐竹? さっき月嶋に呼ばれてどっか行ったけど……あの月嶋って、あっちだよな?」
さっきの男子生徒と同じ質問に、文彦は少しうんざりしたように大きくゆっくりと頷く。
「佐竹の奴、なんかやったわけ?
そもそもあの格好、なんだよ?
そっくりでビビったわ」
「俺に訊くなよ。
箏矢先輩が怖いんで、見掛けたら教えて」
「あいよ」
やはり男子生徒に手を振って見送られる文彦は、見失った黒髪を探すべく校内を彷徨う。
「どこ行ったんだよ、律弥の奴。
クソ……」
月嶋律弥と月嶋琴乃は二卵性双生児。
二卵性双生児は似ていないことが多いけれど、月嶋弟妹は男女の違いこそあれどよく似ていた。
そして似ているのをいいことに、琴乃の制服を借り出した律弥は、彼女にそっくりな黒髪のウィッグまで用意して彼女に扮装。
さすがに口を開けばバレてしまうから、呼び出した佐竹勇一の前では喋らず人気の少ない裏庭に連れ出す。
すると佐竹もなにかを察したらしく、律弥がなにかを言う前に近づいて自分のほうから話し掛ける。
「月嶋ぁ、やっぱお前、俺に気があるんだろ?
こんなところに呼び出してさ」
流行を追う佐竹は自身の性癖を二刀流と称し、今さらながらの壁ドンで律弥に迫る。
迫られた律弥は背を丸めるように身長を誤魔化し、上目遣いに佐竹を見る。
佐竹を呼び出すために話し掛けた8組の男子生徒は律弥の声で。
トイレですれ違った男子生徒は男子トイレと身長に違和感を覚え、それぞれその正体に気づいたが、校内一の美少女に想われているとすっかり勘違いしているらしい佐竹勇一は、自惚れフィルターにその目も心もすっかり曇ってしまったらしい。
全く気づくこともなく律弥を琴乃と勘違いして迫る。
「付き合ってやってもいいぜ。
あ、でも森村には内緒な。
仲のいい友だちを傷つけたくないだろ?」
(こいつ、コロス)
そう心の中で呟いた律弥は、ゆっくりと丸めていた背を伸ばして真っ直ぐに佐竹を見る。
するとさすがに佐竹もなにか気づいたらしい。
「あ、あれ? 月嶋って……」
「なに? 俺がどうかした?」
「その声って……お前、律弥っ?!」
本当にこの瞬間まで気づいていなかったらしい佐竹の驚きに、律弥はその胸ぐらを乱暴に掴み、琴乃にそっくりの顔を近づけて凄む。
反射的にその手を振り払おうとする佐竹だが、琴乃の振りをしていても律弥の腕力は高校生男子である。
振り払えず 「ちょ、おま!」 と制止の声を上げる。
「律弥ですがなにか?
お前、やっぱり森村をダシに琴乃に近づこうとしたな?
森村には悪いけど、何かおかしいと思った。
このあいだも、森村が一緒にいるのに琴乃にしか声を掛けなかったし」
「いや、ちょっと待てくれ。
お前、月嶋律弥のほうなんだよな?」
元々よく似た律弥と琴乃の
琴乃にそっくりのウィッグを付けて女子の制服を着ている律弥は、身長や肩幅など多少の違いはあるもののいつも以上にそっくりになっている。
そうして佐竹を人気の無い裏庭に呼び出して上手くその本音を聞き出そうとしたのだが、案外口が軽いらしい。
しかも律弥の顔を間近に見てなぜか顔を赤らめている。
「それが何?
当然このことは琴乃にも森村にも話すから」
そう言ってにっこりと笑う律弥に佐竹はますます顔を赤らめる。
そしてとんでもない野望を抱くのである。
「月嶋! 俺と付き合ってくれ!」
「だから俺は月嶋律弥。
琴乃じゃない」
「わかってる。
月嶋琴乃にも直接告る。
でもまずはお前に……」
このチャンスを逃すまいと迫る佐竹に、律弥は意味がわからず首を傾げる。
「お前、なに言ってるの?
俺は琴乃じゃないって言ってるだろ?」
「いや、実は俺……」
琴乃に扮してその本音を聞き出し、仲のいい友だちをダシに琴乃に近づこうとする悪い虫を追い払おうとした律弥だったが、ここでまさかまさかの大逆転。
聞かされたのは、某アスリートの活躍で流行語となった二刀流という言葉で表現されたバイセクシャルのカミングアウト。
つまり佐竹は、彼が月嶋律弥だとわかっていて告白しているのである。
交際を申し込んでいるのである。
「付き合ってくれるなら彼氏と別れる!
もちろん森村とも別れる。
別れて月嶋琴乃にも告るから、兄弟で俺と付き合ってくれ!」
「………………は?」
思わぬ展開に呆気にとられたのは律弥だけではない。
それこそ思いもかけず告白シーンから見てしまった文彦と、律弥の行動を怖い怖いと連呼しながらも結局ついて来た男子トイレ前で会った男子生徒。
先に我に返ったのは男子生徒である。
「……あー……そういえば佐竹って、バイの噂があったっけ」
「いや、これ、なんのカオスだよ?」
「律弥が琴っちの格好してるのが余計にカオスだよな」
「だよなぁ~」
「さすがに律弥も固まってるぜ。
どうする?」
「とりあえずあのカツラとってくるわ」
「ウィッグって言えよ、ウィッグって。
ってか木嶋もだいぶん混乱してるな」
「するだろ、あれ見たら」
そう言って大きくあきらめの溜息を吐いた文彦は、潜ませていた物陰から姿を現わすと 「頼む、俺と付き合ってくれ!」 と告白を繰り返す佐竹に 「俺はノーマル、お断り!」 と返す律弥に近づいていく。
「お前、1組の木嶋?
言っておくが月嶋は俺が告ってんだからな。
いくら幼なじみでもこれからは親しくするんじゃねぇぞ」
そう佐竹に言われ文彦は完全に言葉を失う。
(ひょっとして俺、余計にカオスにした?
とりあえず琴乃、森村、なんかごめん)
ー了ー
自称二刀流男子 v.s. 二卵性双生児 時々幼なじみ ~でもだからってそれはないっ!! 藤瀬京祥 @syo-getu
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