お笑い/コメディ

エリー.ファー

お笑い/コメディ

 笑わせるためだけに生きている。

 それが芸人というものである。

 喜ばせるためだけに生きている。

 それが芸人というものである。

 誰かの笑顔のために生きている。

 それが芸人というものである。

 では、芸人の顔色を伺うのは一体、誰なのか。

 芸人は、一体、誰に気を使ってもらっているのか。

 見えないものばかりである。

 笑い、笑われ、笑っているふりをされ、笑っているふりをし、笑い転げ、笑い合い、笑わせ合う。

 そのうち、本当の笑顔がなんたるかを失ってしまう。

 嘘だと思うなら、芸人の笑顔を見て欲しい。目は笑っていないのだ。

 そんなお笑い評論家気取りに取り囲まれて、笑わせることよりも、どう見られているのか、そんなことばかり気になって動けなくなる日々。

 お笑いには、いつだって悩みがつきものだ。

 もっと言うなら、鬱がつきものだ。

 走って打って戦うしか道は残っていない。

 それでも、体に鞭打ち戦い続ける。

 そもそも、面白いとは何なのか。

 笑いとは何なのか。

 どこまでいったら、この世界で一流を名乗れるようになるのか。一番になれるのか。一等賞ととったと言えるのか。

 歴史の上か、歴史の下か、歴史の途中か。

 歴史から零れ落ちた、人間の欲望の鳴れの果てか。

 全員が知っていることを、このまま失くしてしまってはいけない。

 煩わしさから逃れるために、笑いを求めている人たちから、芸人が機会を奪ってはいけない。

 ここから先の物語は、笑いで包まれていなければならない。

 人間の物語だ。

 芸人の物語ですらない。

 魂の物語だ。

 きっと、誰かが唾を吐きかけるような、ありふれた人生という物語だ。

 分かりやすいエリートが出てきても、天才が見えにくくなってしまう物語だ。

 私たちは、尊敬しやすいものしか尊敬しない。

 滑稽じゃないか。

 分かってもいないくせに。

 ありふれているじゃないか。

 社会が何たるかも分かっていないくせに。

 今度は、誰が笑わせに来るのかと観客たちは待ちわびているのだ。

 急いでいくべきだ。

 幕は上がっている。

 残念なことにこんなところで結果など出しても、何の意味もないし、どこにも繋がっていないが。

 頑張ってみた方がいい。

 これしか言えない理由は単純だ。

 人生も、それを取り巻く社会も、そんなに上手くできていないし、機能もしていない。

 一手間違えただけで、失敗の烙印を押されるようなことはないが、すべてを最善でかためても、成功することはない。

 暴れるしかない。

 冷静になるしかない。

 情熱で突き進むしかない。

 冷酷になるしかない。

 努力を積み重ねるしかない。

 才能で叩き潰すしかない。

 できることを、ただできるようにやるしかない。

 できないことを、できないと見せるか見せないか。

 それはすべてあなたが決めるしかない。

 本物のために、すべては用意されている。

 つまり。

 私たちのためではないかもしれない。

 けれど。

 それを奪いにいけるかどうかは、君の腕にかかっている。

 決まりごとは存在している。

 しかし。

 あってないようなものである。

 決まりごとは存在していない。

 しかし。

 誰も教えてくれないだけである。



「お笑いとはなんたるか、ですか。分かりませんよ。分かっているならもっと早く売れただろうし」

「売れただろうし、なんでしょうか」

「このインタビューだって、笑いに溢れているはずです」

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