第23話



 23話




「勝者 光」


 あの後は相手がペースを掴めなかったのか、そのまま俺の勝利だった。

 だけど、・・あの人の予選のダンスを見た時結構うまかったんだよな。たぶん、俺が先行を取らなかったら反対に相手のペースに飲まれていたかもしれない。


 それに・・・最初っからティッキングを出してしまった。本来は奥の手として取っといて起きたかったが。・・・でもあそこで出すのが一番良かったし。

 それに一番最初に出したから、勝てた。そう思うところもある。


「おめでとう。光ヶ丘。」

「あ、阿部先輩勝ってきましたよ。」


 俺は慌ててマスクを外しながら、応援してくれていたであろう阿部先輩にお礼を言った。・・・疲れていたからか、全然気が付かなかった。


「そう言えば小奈津さんはどうでしたか。」

「あ~そこで休んでるぞ。お前のダンスを見た後直ぐに、考え始めちゃってな。・・・まあ、今は話しかけない方が良いとおもう。

 俺が話しかけても反応しなかったしな。」


 大丈夫そうで良かった。・・・それにしても、このひと。女心分かってい無すぎない?いや、俺は男だから言える立場ではないかも知れないけど、女性って声をかけられたって事実が欲しいんでしょ?


 もし、ここで声をかけられなかったら、なんで声をかけられなかったんだろうって。


「まあ、それでも気になりますから。」

「おう。」


 先輩の試合はまだ先のようで、ゆったりしている。

 俺はその様子を横で見ながら、先輩が指を指した方向に行く。すると、壁に背中を預けている、小奈津さんがジッと5試合目の様子を見ていた。


「・・・小奈津さん大丈夫ですか?」

「ん」


 小奈津さんも俺を見つけたようで、俺に近づいてくる。するとなぜか俺の顔を触ってきた。


 ムニムニ。


「にゃ、にゃんでひゅは。」

「ダンス中無表情だったから。」


 いやまあ、確かにマスク効果で無表情になっていたけど。


 すると流石にいつもの俺だと分かったようで、放してくれた。・・・女性の手に触れるなんて必死ぶりだから、・・・小奈津さんの手。小さいな。


「・・・さっきは大丈夫でしたか?」


 するとさっきまでの、いつもの様子から暗い感じになってしまった。


「圧倒的にレパートリーが少なかった。わたしが出来るムーブがこれしかないとは思わなかった。他のムーブが使え無かった。」


 一つ一つと、愚痴の様に自分の欠点を吐き出していく。自分の欠点を恥ずかしがるのではなく、ちゃんと認識しようとしている。

 伸びる人の特徴だ。小奈津さんはちゃんと伸びていく。


「俺も、ポッピンが全然だせませんでした。」

「・・・そうだ。あのダンスはなんだの?」

「ティッキングですか?3兄弟から教えてもらって。・・こんな感じの」


 ティッキングに興味があるようなので腕を秒針の様にして「カチカチ」っと動かす。俺の中で、この教え方が一番わかりやすい。


 すると、小奈津さんはティッキングに対してではなく、3兄弟の方に興味があったみたいで、なぜか3兄弟の事の方を聞いてきた。


 でも、変な事ではなくて、そもそも小奈津さんは3兄弟たちと合っているがそれは阿部さんがついてきた時だけ。俺はその後に個人的に連絡をして合っているが小羽根さんはそもそも連絡を交換していなかったみたいだから、俺が3兄弟たちと交流していること自体知らないみたいだ。


 まあ、直ぐに興味が無くなったのか質問は終わった。


 ☆


 流石に疲れていたので、小奈津さんの所から離れて休憩をしていると、誰かから声をかけられた。声ではだれか分から無いので知り合いではないんだろうな、と思いながらそっちに顔を向けると、そこには天使。子羽さんがいた。


「君が光が丘君だよね?」

「そうですよ。初めまして。子羽さん。」


 近くで見ると、俺が思っていたより小さい。・・・バトルをしていた時はそんなふうに見えなかったのに。・・・ていうか、この身長で高校生なんだ。


「さっきのダンス凄かったね。どうやってたの?」

「ティッキングのこと?ちょっと待ってね。」


 ・・・折角出会ったんだ。・・・それにこれから戦うかも知れないとはいえ、どこまで行ってもダンス仲間であろう。それならさっきのダンスみたいに踊って見せてあげよう。


「結構疲れるから、少しだけだけど。・・・こんな感じ。」

「おお!近くで見ると迫力が違うね!本当に動いてない。・・・こんな感じかな。」


 さっき予選であれほどのダンスを見せつけられた相手に、ここまで驚いてもらえるのは結構嬉しい。鼻が上がる。

 だから・・・あzぇった。

 出来ていたのだ。俺がやったティッキングを、俺と同じように。


 なぜこんな速くできるのか。

 俺だって、数週間かかってやっと出来るようになったのに。それを俺のダンスを少し見ただけでここまで簡単にやられると・・・嫉妬を通り越してくる。


「なんで出来ているの・・・。」

「ん~。出来るから。」


 子羽さんは当たり前と言うかの様に。・・・意味が分からない。

 あぁ、そう言えば3兄弟の話の中に、羽が生えていて、リングが浮いている人が「流れ」を直ぐつかんだって言っていたな。


 あれって本当だったんだ。

「流れ」だって俺は数日かかってやっと分かった事なのに。


「でも、これ凄い体力を使うね。僕みたいな体だと・・・使えないな~。」


 子羽酸の体はその小さい体に見劣りしない程筋肉がない。近くで見れば見るほど、何でこの体でブレイキンを出来ていたのか、疑問を覚えてくる。


 それに、筋肉が付かない体質だとしてもダンスをやっていればもう少し着くものではないのか。・・・軽く腕を触ると、そこには筋肉がある訳ではなく、骨が目の前にあった。


 ここまで才能、理解力があるのに、体に恵まれていなかった。その事実をこの目で見ると・・・安心してしまった。俺よりも簡単に「流れ」やこのティッキングを習得出来て。それほどに才能がある。


 だけど、その技術を使うための体が無い。・・・安堵してしまうのはしょうがない。そう感じてしまう程だったから。


「なんか生まれつき筋肉が着かなくてね。一時期は困ったよ。真面にダンスが出来ないんだから。」

「今は出来ているの?」

「見ての通り!適度には出来ているよ!・・・そうだ、折角そのティッキングを教えてもらったんだから、何か僕も教えてあげよう。」


 特に見返りを求めていた訳では無いので、一瞬拒否してしまいそうになるが、この人が何を教えてくれるか興味が出てきた。


 そこまで期待するわけではないが、でも気になる。


「もうちょっと感情を出してダンスをしなよ。君のダンスは無臭過ぎて気持ち悪いし。じゃあ、バイば~い。」


 ・・・え、それだけ。

 いやいや。もうちょっと何かなかったの。


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