第19話


 19話


 賞はストリートダンス大会の日。小奈津さんに誘われて、駅の前で集合していたのだが・・・なぜかそこには阿部先輩が居た。


 ・・・この前の事が有ってから阿部先輩とあんまり喋ってないんだよなぁ。いや、俺が阿部先輩の事を煽りまくった手前、阿部先輩が鬼の様に練習しているから、話しかけずらいと言うか。


「・・・どうし。。」

「あ、光ヶ丘君!もう来たんだ!」


 こそこそしていたのに、俺の位置をデカい声で話してくれたのは、俺をここに呼んだ張本人小奈津酸であった。


「おはよう。」

「ほら、そんな所にいないで阿部先輩の所に行こう!」


 あ、

 小奈津は俺の手を引っ張って、集合場所の阿部先輩がいる場所にこっさせた。


「・・・おはようございます。阿部先輩。。。。」

「・・ぷっあはははは。・・・小奈津の予想通り、こいつ俺の事を避けてたな?」


 え、知られてる。


「すみません。あれほど挑発した手、」

「ストリートなんだからあれくらい普通だろ。何をそんなにかしこまってんだ。

 と言うか俺そこまで怒ってえなかったぞ?」

「あと、俺とやった後凄い勢いで練習していたので。・・」

「そりゃあ、お前が馬鹿みたいに成長していくからだよ。・・・追いつかれる訳には行かないからな。」


 あ、完全に俺の勘違い会ったんですね。・・・これ俺がわるいんじゃん。先輩は練習していただけなのに、俺はその先輩を見て避けていたって・・・。


「あれ?空気悪くない?」


 それに関しては小奈津のせいだからな!


「はぁ、全員揃ったよな?行こうぜ。」

「まだ来てない人がいます!もうすぐ着くって来ているんで、直ぐに着くと思います。」


 あれ?まだ来るんだ。

 ほんとうは小奈津と俺だけだと思ったところに阿部先輩がいたから、それだけだと思ったけど。・・・誰が来るんだろう。


「お待たせ!」

「待たせたな!」

「待ってくれたな!」


 あ、3兄弟も来るんですか。


「それじゃあ行くか。」

「ハイ。」


 ☆


 うわ。すっごい音。

 ドンドンって体の芯に響いてくる。・・・体がむずむずして、いつも聞いている音とは質が違う。密閉されている空間だからか、音が反響して。


 曲が勝手に体の中に入っていく。いつもよりの鮮明な音で、濁りが無い。


「光が丘君受付できた?」

「出来ましたよ。」


 入った瞬間の音で気にしていなかったが、そこは少しアングラな感じで証明や物の配置を拘っていると分かる。場所だ。こういう場所には初めて行くから、初めてスポーツの試合に出た時くらい緊張している。

 ・・・あの時は何をやればいいか分からなくて、よく敵に突っ込んでいったな~。ボール持って。


「光ヶ丘水とかちゃんと持ったか?」

「あ、ちゃんと買いました。」

「・・・緊張で体力がドンドン減っていくからな。いつも以上のパフォーマンスを出したいなら、ちゃんと万全の状態にしとけよ。ストレッチもしとけ。」

「あ、ありがとうございます。」


 やっぱりこういう場所に慣れている人は頼りになる。今までやっていたスポーツだと、がんばれ以外言われた事無かったから、精神論以外は本当に嬉しい。


 ・・・こんなに音が大きいと、何も考えなくても頭の中が音楽でいっぱいになる。こんなに音が大きいと、音に押し潰される、音に埋め尽くされる・・・楽しいな。


 その感覚は、学校の設備では体験できない感覚で、この瞬間だけでもう満足してしまうような。・・・設備の違いでここまで変わるのと。本当にじっかんした。


「やっぱりいいよね。部活の設備もこのくらいにしてほしいのに。」

「設備が良いとダンスの上達速度は全然違うとか聞きますしね。」


 音に関してはこれまで聞けていればいいと思っていた。だけど、俺はただ下を見ていただけだったみたいだ。今より、よく聞こえるような設備で。・・・インスピレーションが湧いてくる。


 もうその時には俺の体は溶けていたんだと思う。


 ☆


「1人目のジャッジはセントさんか。」


 阿部先輩によるとジャッジの人によってその大会の良さが分かるんだとか。ダンス大会では審査をするのはダンサー。つまり、ダンスをやっている側の人間で、人によって何がカッコいいだとか、何が好きだとか変わって来る。


 ・・・例えば、あまり変わった慣性をしている人がジャッジになると公平とは言えない。例えば、ブレイキンが全てと言っている人がジャッジになると、必然的に上に上がれる人はブレイキンだけになる。


「セントさんのジャンルはブレイキン。アクロバティックなダンスが得意な人だ。でも、ちゃんと全ジャンルに理解があるし、ちゃんとした価値観も持っている。この人がいる大会は自分のダンスを出せる。」


 俺がなにも分かっていない事を知っているからか、阿部先輩が分かりやすく説明してくれる。本当に、人の事は何も知らないから、助かる。


「2人目のジャッジは・・KOUKAIさんかな。あの人のジャンルはハウスだ。・・・まあ、普通に審査してくれる。」


 あれ?さっきは凄い勢いで解説してくれたのに、・・そこまで知らないのかな?


「そして三人目は・・・剛毅さんか!!

 剛毅さんは色々なコンテストの審査員をしてくれて信用されているんだ。・・・この前の大きい大会で準優勝したとか聞いたし最近はダンスのいろんなことに関わってくれているって聞いたぞ!」


 剛毅さん・・・。


「え!剛毅さん!」


 なんか見覚えがあると思ったら、剛毅さんじゃん。ぜんぜん連絡してくれないとおもったら、本当にダンスで忙しかったんだな。

 ・・・ていうか、結構有名な人だったんね。

「知っているのか?」

「えっと、結構前に少しだけですけど、ダンスを教えてもらったんですよ。」

「・・・まじか。」


 ・・・あ、けっこうやばい人だったんだね。・・・ま、まあ俺も凄い人だし、全国行ってるし!それも2回も!べつの競技で!

 それに、俺剛毅さんにサイン書いたし!貰った側じゃないし!


「3名の審査員でした!」


 ・・・ふぅ。改めてだけど、俺ってこの人たちに審査されるんだ。・・・いつも俺が見るべきだったのは対戦相手の、俺とほぼ同年代の奴らバッカだった。

 それに、勝敗の付け方ははっきりと白黒ついていて、審査なんていう曖昧な人の感情を元にした勝敗じゃなかった。


 だけど、今回は相手と俺。どっちの方が上手くダンスを出来たか。曖昧なものだ。


 ・・・俺が上手いと思っても、審査員にとっては上手くないのかも知れないし、もしかしたら好き嫌いが入って来るのかも知れない。


 その状況に俺は嫌だなと言う感情はそこまで無かった。ただ、その感覚をなぜか知っている。今までも、何度も曖昧な審査を受けてきた気がする。


 そんな事を思った。


「え~今回はオールジャンルと言う事で、様々なダンスが右往左往してある人に取っては最高だったのに、俺たち審査員にとっては分からない。そんな事があるかも知れません。

 ですが、それを恐れずに踊って欲しい。


 本当の自分のダンスを私たちに見せてほしい。私たちはそれに応えれるように全力で審査させて貰います。」


 ・・・自分のダンス。。


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