オンカウント
人形さん
第1話
自分じゃなくても、伝えられるんだ。なんか・・・想像してたよりも自由なんだ。
☆
高見高校。その始業式。
校長先生による挨拶は20分という時間をかけてじっくり煮詰めた薄味の味噌汁に入っている大根の味がする。
柔らかすぎておいしくない。聞きすぎて耳が痛い。
そんな20分の地獄が終わり、尻が痛くてしょうがない気持ちを我慢しながら。入学説明会の時の接待な態度で案内してくれたその時の気持ちは無いのかと。
自分で用意するから椅子をくれと、気持ちが大きくなる。だが、俺も高校生になったんだ。これくらいでめげる様な男ではない。この痛みはこれからの青春のために必要な代償なんだ。
と、痛みに対しての詳細を細かくしながら、嫌な気持ちを薄めていく。
「・・・以上をもちまして歓迎の言葉を終わります。」
薄めた味噌汁に対する苛立ちを思い浮かべていると、細々としたこれからお世話になるだあろう、先生がたの挨拶が終わったようだ。
この瞬間は感激の嵐であろう。感激も何も、この瞬間が早く終わって欲しいという気持ちがお触れ出て来そうなのだから。
・・・それにしても、なんで校長先生の挨拶はこんなに長いんだろうか。その挨拶をしている時だけ、時間が引き延ばされているように感じるんだよな。10分しか話していないはずなのに、1時間と2時間とかに感じてくる。
単純に何回も聞いた話であるから長く感じる。と言う以外にも・・・魔法とか。そう言う類の感覚なんだよな。
そんな事を考えていると、なぜか先生がおいてあるマイクを取り、何かをいい始めた。もしかしたら教室に帰る指示を出すのかな?
そう思っていたのも束の間。そこ言葉は俺の胸を貫いた。
「続いては部活紹介になります。10時15分の開演となりますので少々お待ちください。」
その一言による絶望感は高波を超えたであろう。「終わります。」この声をどれだけ嬉しかったか。もうこんな所に座らなくてもいいんだ!と。
尻の痛さと戦いながら立ち上がる時を待っていた。まるで古代ローマの剣闘士さながらであった。・・・と周りの皆は思っていただろう。
もちろん、俺以外にも熊や武者兜、サンドバックさながらの人もいた。
そんな時の「終わり」の言葉は天使の抱擁である。後は「起立!」の言葉を待つだけだ。と思い、全身の力は抜けていく。そうしたらどうなるか。そう、力んでいた尻筋の防壁が崩れ落ちて、国の宝である骨が地面が当たるのだ。
そうなるとどうなるのか。痛いのだ。
だが、その痛さは合って5分程度待てば掛かるであろう「起立!」の声で救われる。そのくらいなら待っていることが出来る。
さあ!さあ!
と思ったその時。マイクを持った教頭が言った言葉は、「起立!」ではなく「お待ちください」天使の抱擁が悪魔の拷問に変わった瞬間であった。
これが何を意味するか。それは俺たち生徒にしか分からないであろう。ずっと立っている先生には分かってたまるか。
つまりだ。5分程度なら待てるだろ!と言われた尻骨は、待ってみたら実際は数十分と言う詐欺まがいな苦痛の時間に陥ったのだ。
「それでは部活紹介を始めます!」
部活紹介が始まったみたいだ。マイクを持った生徒は元気よく気分上げて行こうぜ!!ウェイウェイと言う感じで盛り上げていく。
だがそれで、盛り上がって皆が興味をもって部活紹介を見るのはアニメの世界だけだ。現実は尻の痛さで皆顔が曲がっている。
「最初は軽音部!」
その音はステージ横のスピーカーから聞こえてくる。ギターを鳴らしながら自己紹介するその姿はまさに陽キャ。見た目よし!性格よし!声質よし!初対面の好感度上昇テクの全てが詰まったイケメンの化身。
そんな全てに好かれそうな優等生を見て俺は。・・・司会の子可愛いなぁ。
色物に目が映るばかり。それもしょうがないであろう、小中共々、男子校のエレベーターだったので、女性の免疫がそこまで無い。いまなら、全ての女性が可愛く見えてしまう。そんな状態の男子高校生に、男を見ろと言っても聞かないだろう。
女を見たいんだもの。 たけを
そんな感じで司会の女性を見ていると、突然音楽が流れ始めた。その音にビビりながらも前にいる人がビックン!としていたのを見逃していなかった俺に賞賛を浴びせていた。自画自賛男は一旦、司会の女性から視線を外してステージを見る。
すると、そのステージにはスポーティー?でおしゃれな9割女性のグループがそれぞれ均等に間隔をあけて並んでいた。
「続いてはダンス部による部活紹介のパフォーマンスです。」
こんなに男女不平等な割合だと、男性は入りにくいだろうなぁ。
そんな、他人事のような客観的な意見を考えながら、本心ではダンスか、面白そうだな。と、謎に上から目線である。
だが、そんなのほほ~んとした、思考は直ぐに切り替わった。
魅せたのだ。ダンス部が。
視線はそのダンスに釘付けになり、首を動かすことが億劫になる。
だが、それでいい。今この瞬間、凄いと言う感情で心が満たされている。それなら、首を動かせないくらいどうだっていい。
だって、夢中なんだから。
それからは、あっという間だった。夜の次に夜が来るくらいにはあっという間だった。
自分が夢中だと分かったのは、そのパフォーマンスが終わったその時だった。見るこのに集中して、何を考えていたのか、俺は俺の事が理解できていなかった。
「ダンス部、・・・面白そうだな。」
そのつぶやきは、ネットの海に埋もれることなく消えていった。
☆
放課後。授業が無くホームルームで1日が終わるその時、それは突然だった。
「はーい!!クラスライン作ったから!入ってね。」
突然と言う言葉を使うには弱すぎる出来事かも知れないが、俺にとっては一大事である。なぜか?
・・・クラスラインに入る事が恥ずかしいとかそう言う事ではない。
これから友達を作る段階なのだから、こんなところで躓いていたら、何も出来ない。なら、一大事なのか。
ラインのアカウントを持っていないのだ。いや正確には、アカウントは持っていた。過去形である。
ではなぜ元々ラインアカウントを持っていた俺が、現在一番必要である、アカウントを持っていないのか、。
・・・あれは去年の春先の事。中学の馴れ初めの仲である友達とラインで会話をしていた時の事だ。・・・人違いのスタ連がウザかった。
真面に話したことが無い友達(知り合い)が人違いで、俺のラインにスタ連をしてきた。それまで真面に人と話してこなかった奴で、そのすたれんが凄い目障りだったから思わずアカウントを消してしまった。
ラインでは《・・》会話をしたことが無かったので未練は無かった。後悔は今している。
と、言う訳でクラスラインに今は居ることが出来ないのだ。・・・しょうがねぇ。少し浮いてしまうかも知れないが、今ライン交換をするのは諦めよう。
ラインなんていつでも交換できるんだから。
と、言う訳で、お先に部活見学にでも行こうかな。
・・・・一応この空気を崩すのは嫌だから、出来るだけこそこそしながら出て行こ。なぜか隠密行動だけは小中ともに得意だったからな・後ろに立っても本当に気付かれ無かった事も稀に?・・・頻繁にあったしな。
中学の友達なんて、「お前はいるか居ねぇか分からないから、ずっとお前はいる想定で話してる」何てまじで言っていたし。自分では分からないけど、俺のスニーク技術は結構高いらしい。別名、「影が薄い」
☆
クラスのとある女性
それはとある時の事。楽しかった入学式が終わり、放課後になったその時。
「ラインやってる?交換しよ。」
隣の席に座っている結構カッコいい系の男子に唾をつけるために、まずは、と言う事でラインを交換しない?♡と近づいた。もちろん、その男子がカッコいいだけあって、女子からの目線は痛いが、今は我慢だ。
どうせこのくらいでは仲間外れにされる事は無い。
さあ!スマホを出して、ラインを交換させろ!
「ごめんね。ラインのアカウントまだ持ってなくて・・・。」
・・・え。今時ラインをやっていない?そんな人がいるの?それじゃあ、友達とあそびに行くことすら出来ないじゃん。
いや、これはチャンスだ。ラインをやっていないのであれば、連絡を取り合っている女もいないはず!
それなら!
「メースアドレスだけで、、も、、。」
あれ?どこに行ったの?
私が目を離したその1秒の間に蜃気楼のように消えて行ってしまった。さっきまでここにいた事は覚えている。ただ、荷物を纏めたところや、この席を立ったことは覚えていない。
真横にいて、その男に夢中だったはずなのに。
「どこに行ったの。」
ガラガラ。
教室の後ろの扉が開いた音は誰にも認識できない。そこにはイケメンが居るはずなのに。
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