足かせ
最時
悪改造
春のスキー場。
暖かくていい天気だ。
今日はおなじみの仲間とスノーボード。
あいつも来る。
あいつ、ツバサとは付き合い始めて二回目のスノーボード。
一ヶ月ぶりだ。
ツバサはまだ若いし、仕事もまだまだ下っ端で使われているようだから仕方がない。
「キョウコさん。すみません。最近忙しくてなかなか来れなくて」
「ボードにビンディング付いてないじゃん」
ツバサはブーツを固定する金具の付いてないボードを持ってきた。
「新しいビンディングを考えてみまして」
ツバサはそう言って、本来ビンディングが付くべきところにある無数の金属タブレットを指さした。
「何それ?」
「強力なマグネットです」
「はあ?」
「ブーツの裏にもこれが付けてあります」
「ああ。それで固定できるの?」
「まだ試してませんけど、多分大丈夫です」
「・・・ ところで、それ何かいいことあるの?」
「やはり、専用のブーツでなくても簡単にステップインでに装着できることですね。特許取ろうかと」
「それでちゃんと滑れればね」
どう考えてもいろいろ問題があった。
なんとなくそんな気はしてはいたがバカだなと
遅めの集合で、少し離れた駐車場から歩いてリフトへ向かう。
「ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ」
「ちょっとうるさいんだけど(怒)」
アスファルトを歩くとブーツ裏のマグネットがうるさい。
「そうですね。死角でした」
イラッ
「ちょっと! マグネット落ちてるけど!!」
「あっ ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ」
ツバサは後ろに落ちているマグネットを取りに走った。
イライラ
リフトに乗る前にツバサはマグネットビンディングとブーツを合わせた。
「完璧に固定されています」
「そう。それで、外すときはどうするの」
「てこの原理で力を加えれば・・・ んっ 外れない・・・」
「・・・」
バカ
あれこれしているツバサをしばらく見ていると
「キョウコさんですね? インスタフォロしてます」
「ありがとう」
女の子が声をかけてきた。
年の功というやつで、それなりの年数をやっている私はまあまあ知られている。
「私、ボード始めたのキョウコさん影響で、会えて本当にうれしいです」
「ありがとう。私も本当にうれしい」
女の子は涙ぐんでいるからハグをした。
嬉しかった。
「お知り合いですか?」
女の子は異様な動きをしているツバサを見て聞いてきた。
「キョウコさんとおづっ」
なんか言おうとしたツバサの顔面に、反射的にグーが入った。
「知らないひとー」
「そっ、そうですか」
女の子は一連のやりとりに引いて、退散した。
ゴメンね。全てこいつが悪いの。
「オリャッ」
ツバサはまた変な動きをしてとりあえず外れたようだけど、腰を押さえて寝てる。
もう死んでいいけど。
「俺は改良するので、先行ってください」
「・・・」
言われなくても行くし。
しばらく仲間達と滑って下まで降りると、ツバサが手を振っている。
「キョウコさん。やりました。見てください」
外せるようになったようだ。
「テープを貼って磁力を弱めました」
「良かったね。先に乗っていいよ」
「はい」
ツバサを先にリフトに乗せて、眺めてる。
乗ったところでボードが落下して、リフトを止める。
「ダメでした」
「昼までもう少し滑ろうか」
戻ってきたツバサを無視して仲間達とリフトに乗る。
しばらく滑っていると、ツバサがリフトに乗って上まで来ていた。
「キョウコさん。完璧な加減を発見しました」
「そう。良かったね」
それだけ言って滑り始めると、信じられないことにツバサが普通に滑っている。
「どうですか」
「良かったね」
再びリフトに乗って上がり、そこから上級コースのリフトに向かうとツバサが付いてくる。
「それで行く気?」
「完璧です」
「やめときなっ!」
「キョウコさんったら、ヤバいシークレット斜面には連れて行ったくせに、以外と心配性」
「・・・」
そして上級コースに着いた。
「キョウコさん見ててください」
早速ツバサが滑り始めて、そして板が外れる。
「まったく。尻で滑っておりな」
「やむを得ない。テープを剥がして、マグネットパワー全開で行きます!」
「・・・」
ツバサは滑っているときだけは上級ボーダーだ。
一生滑り続けてくれればいいのだが、そういうわけにはいかない。
下に着いた。
「外れない・・・」
「食事行こうか」
ツバサを置いてみんなで食事
食事が終わって外に出ると、ツバサはうなだれている。
「キョウコさん。マジで外れないので、下でバールかなんか買ってきてもらえませんか。と言うより、それで外れるかわからないので下まで連れて行ってもらえると助かります」
「はあ? ブーツ脱いで自分で行ってよ」
「実は、ブーツの締め付けもマグネットを使ってまして、脱げない」
「・・・」
仲間達とも相談した結果、ホームセンターまで連れて行くしかないと言うことになった。
一番大きい私の車で・・・
「もう、ルーフキャリアに付けていっていい」
「キョウコさん、そもそもこの状態でルーフに上がるのが無理です」
「ちっ。もう、チェンソーで脚切ってもらって行けば」
「切るならボードにしてください」
「すごーい。あたまいい。だけどそんな硬いもの切るとチェーンダメになっちゃうから、やっぱり脚が良いと思う」
「・・・キョウコさん。怖いです」
「私からみたらお前の方が怖いけどね! 私の車に1ミリでも傷つけたら死刑だから!!」
「・・・」
みんなに協力してもらってバカを車に乗せて、外すことができた。
それでも私はこいつのことが・・・
足かせ 最時 @ryggdrasil
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