不老不死の君と僕
@mannzigawa
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2030年ー日本。
《臨時ニュースです。》
《上長大学生物学研究所によりますと、さまざまな動物から採取したDNAを調査研究し、》
《開発を進めてきた不老不死の薬通称“アポドイド”の人への投与》
《並びに、実証実験を開始した。と記者会見で発表しました。》
《この薬が実用化されれば、政府の抱える“少子高齢化”問題解決の一手になるかもしれません。》
僕は現役大学生の17歳、紀野大我。自分で言うのもなんだが、この17年間人生の“勝ち組”と言われる部類に入っている。父は大手ITメーカーの社長、母は医者。何一つ文句のない環境で育ってきた。もう母も父もいないけれど。
一人暮らしをしている僕にとって週末は暇でしかない。ネットフリックスの邦画を全制覇したのではないかという自信すらあった。内容はほとんど忘れたが。
「不老不死の薬…」
今誰かに一番何が欲しいですか?と聞かれたらいつもならば『彼女』と答えていただろう。でも今聞かれたら僕はこう答えるだろう。『不老不死の薬』です、と。
僕は大学まで自転車で通っている。運動が嫌いな僕にとって片道10kmの通学距離は地獄だ。道路交通法に違反することはわかっていながら、通学中はイヤホンで音楽を聴いている。じゃないとほんとに疲れ果てて、死ぬ。
地割れのひどい道を通りながら不死の薬のことを考えていた。
不死の薬があれば人生だって、恋愛だってやり直せる。
ゲームみたいにリスタートできれば。
この世界のどこにコンテニューボタンがあるのかが知りたい。
1分、2分、5分、10分、20分、50分、
考えても、考えても答えは出なかった。
一通りの講義の後、一通り友達と挨拶を交わし足早にペダルを漕いだ。
今日も明日も明後日も、何も変わらない。
だから、やり直したい。
何度も、何度も、成功するまで。
そのための1番の近道、いや方法。
それは、不老不死の薬「アポドイド」だ。
1分、2分、5分、10分、20分。
とまではいかなかった。
およそ漕ぎはじめて15分くらいの所、歩道に誰かが立っていた。気にすることもなかったが、少しだけ観察していた。
女の子か。若そうだな。髪が綺麗だな。服は、普通か。
ペダルを漕げば漕ぐほど情報が具体的になっていく。
髪は結んでいるのか。お金持ちそうだな。何をしているのだろう。
輪郭が見えてきた。と思った矢先彼女が歩きはじめた。
歩い、てる。道路に向かって。
道路、に。
その瞬間、本能的に自転車を乗り捨て走る。全力で、走る。
もうぶつかりそうな距離には、車がある。僕は彼女の腕を掴み歩道へと引っ張った。と同時に乗り捨てた自転車が、ガードレールに思いっきりぶつかった。
一瞬何が起きたか分からなかった。
それより、彼女は。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、です。」
顔、声、僕の見た限り何も大丈夫なところは見当たらなかった。もしここで彼女と別れて家に帰れば当然彼女は、死ぬまで自殺未遂を繰り返す。でも、どうしようもない。
「助けてください。」
「え?」
「お願いします。」
「はい。」
目上の人とするような、かしこまった返事をする。
「ちょっとだけまってて。自転車とってくる。」
彼女は頷いたものの返答は、なかった。
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