笑い上戸
郷野すみれ
笑い上戸
俺の彼女は笑い上戸だ。ちょっとしたことでもすぐに爆笑する。
「飴舐める?」
俺は部屋のリビングでくつろいでいる彼女に尋ねる。
「うん」
「いちごミルクだけど、いいか?」
何にツボったのか、急に笑い出した。
「あひゃ、うひゃひゃひゃ! いや、ごめん、ちょっと待って。いちごミルク……ぐふっ」
床に転がって腹を抱えて笑っている。何がおかしかったのだろうか。
「隼人の強面で『いちごミルク』似合わない……いひひ。あと、いちごミルクが雨となって降り注ぐ想像をしてしまって……あはははは」
若干傷ついたが、涙を浮かべながら笑っている彼女に対してなす術はない。一度こうなったらしばらく笑い続けるし、思い出し笑いも長い。俺は彼女の近くにいちごミルクの飴を置き、自分は舐め始めた。
そうかと思うと、一緒にお笑い番組やコントを見ていてもあまり笑わない。テレビの中の観客や俺が笑っていてもつまらなそうな顔をして、時折周りの反応を見て貼り付けたような不自然な笑みを浮かべる。お笑いの頂上決戦ですらそうだ。
俺はソファに座っている自分の膝の上にいて、身を乗り出してお菓子を摘んでいる彼女に聞く。
「なんで普段はあんなに笑うのに、これは笑わないんだ?」
「え、だって面白くないじゃん」
あっさりと返されて言葉に詰まる。基準がわからない。
「それに隼人と話してたら、なんだって楽しいからすぐに笑っちゃう」
またお菓子に手を伸ばそうとする彼女を、半ば強引にこちらに振り向かせた。
笑い上戸 郷野すみれ @satono_sumire
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