三章 結核病棟

療養所の門から正面玄関まで、通路は、煉瓦で敷き詰められている。

通路の両側に銀杏が植えられていている。


シゲノは、病棟の窓際に立っている銀杏の木の根元にしゃがんで、地面に小枝で絵を描いていた。

夕闇で辺りは暗い。

もう地面は見えていない。


おかあさんの絵を描いていた。いつも描いている。

つい、さっきまで、アキねえちゃんが居た。

もう帰ってしまった。


男の子が、庭を走っている。

ヒロとヨシと呼び合っている二人の男の子が走っている。


もう一人、あの女の子は、ぼんやりとシゲノを見ている。

シゲノと同い年くらい。


女の子は、シゲノの隣にしゃがんで、地面の絵を見ていた。

シゲノは、女の子に小枝を渡した。


女の子は、渡された小枝をぼんやり見ていたが、やがて地面に絵を描き始めた。

ふたりは黙って地面に絵を描いていた。


銀杏の木の下にしゃがんで、絵を描いている。

もう二人だけだ。

二人は夕闇の中にいた。シゲノは黙々と絵を描いていた。


おかあさんは、サキエを出産して、間もなく熱が続き入院した。

結核と診断されて、療養所の結核病棟に移された。

会う事もできない。


お父さんは毎日、療養所へ通っていた。

シゲノは、まだ小さいサキエの面倒を見ている。

おかあさんを一度も、お見舞いできないままだ。

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