窓辺 第19話
実のところ、シャーロックはステラについてほとんど何も知らなかった。ステラという名前の他に知っていることといえば、大の星好きということと、同学年ということと、女の子ということくらいだった。
先程も言ったように学年が同じだと知ってはいたが、どこのクラスかは全く知らなかった。
星好きの少女と出会い、屋上で時たま話すようになってから半年ほど経って、シャーロックは屋上以外で初めてステラを見ることになる。
昼休憩の時間にトイレを済ませ、教室へと戻っている時、廊下を歩くステラを見つけた。
彼女は教科書を小脇に抱えてスタスタと歩く。
シャーロックは屋上以外で初めて見たその姿に少し驚いたような顔をすると、小走りで近づいた。
「ステラ、屋上以外で会うのは初めてだね、もうお昼はもう食べた?僕はこれからなんだけど、良かったら一緒に食堂で食べない?」
シャーロックは言いながら少女の隣に並び立つ。ステラは目を軽く見開きながら話しかけて来た少年を見上げた。
そして、チラと周りを確認すると、ため息をつく。
「いい?シャーロック、みんなの目があるところでアタシに話しかけない方が良い、アンタは良い奴だから、アタシのせいで迷惑かけたく無いんだ。だから、もう話しかけるなよ」
ステラは早口でそう言うと、そそくさと歩いて行ってしまった。取り残された少年は呆気に取られた顔で、その場に立ち尽くす。
「シャーロックくん?どうしたの?」
ボーっとしていたシャーロックに同じ制服に身を包んだ少年が話しかけた。
「昼食に遅れてしまいますわよ」
話しかけて来た少年と一緒に歩いて来た少女が口を開く。
「早く行こう、ステーキが無くなっちゃうかもしれない」
もう一人の少年が言った。
「ああ、ごめんね」
シャーロックは現実に引き戻されたように気を取り直してそう言う。
シャーロックを取り囲むようにして大人数で移動した食堂はとても天井の高い大きな部屋だった。
入口を入ってまず目に飛び込んで来るのは正面に堂々と据えられた特大のステンドグラス。
左右の壁の上部にも七色に輝くステンドグラスが嵌め込まれ、アーチ状の天井からいくつも下がっているシャンデリアにキラキラと反射する。
ズラリと並べられた十二人掛けの机は広い食堂の奥まで続いており、沢山の生徒がおしゃべりしながら昼食を楽しんでいる。
入り口の左手からはフライパンのジュージューいう音や、包丁の規則正しいリズムが聞こえ、漂って来る豊穣な香りと共に五感をくすぐる。
シャーロックは彼を取り巻く女の子たちと席についた。
「シャーロックくん何が良い?」
取り巻きのうちの一人の少年がシャーロックに問いかける。
「いつもと同じで良いよ、ありがとうね」
シャーロックはニコリと笑って言った。
「今日は僕が当番だからね、」
少年は言いながら他の生徒の注文も聞く。
「私はトリュフが乗っているのが良いですわ」
「僕も、」
取り巻きたちは、グループ内の当番の生徒たちに口々に食べたいものを伝えた。一通り聞き終えると、注文しに去って行く当番の生徒たち。
一息ついたところで、シャーロックは隣に座る少女に話しかけた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、」
「ええ、構いませんわ、私の知っていることならなんでもお答えしますわ」
話しかけられた少女は、今日シャーロックの隣に座る順番だった幸運に感謝しながら嬉しそうに返事をする。
「君はステラって子を知ってる?」
シャーロックの問いに少女は少し困ったような表情を見せた。
「あっ、ええ、知っていますけれど、どこでその子の名を?あまり関わらない方が良いですわよ」
少女は眉間に皺を寄せて言う。
「どうして?」
シャーロックの問いに答えたのは正面に座る少年だった。
「成金の娘なんだよね、元々爵位も無くて、お金でそれを買って貴族の仲間入りをしたんだ」
「そうですわ、だから教養も全く無くて。お話しの仕方も、お食事の食べ方も下品で見ていられませんの」
別の少女が少年の言葉に同意する。
「どうして入学出来たんだか、」
「ええ、全くですわ。早く辞めて下さらないかしら、あんな子も卒業生になったら、私たちの品性まで疑われてしまいますもの」
取り巻きたちは口々に言うと、肩をすくめる。
「そうなんだ」
シャーロックは呟くと、小さく息を吐いた。
「君たちもそうなんだね」
誰にも聞こえない程の音量でそうひとりごちる。顔にはいつもの微笑みが戻っていた。
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