窓辺 第17話
シャーロックは初めての友人と星を見に行ったあの夜以来、星を見上げるのが好きだった。
特にここに来てからは、懐かしむかのように、毎日ベッド脇の窓から星を見ていた。
今日は数十年に一度の流星群が流れる日だ。
窓越しではなく、どうしても肉眼でそれを見たかったシャーロックは、悪さをしようと思い至る。
一人で悪さをするのは初めてのことだった。寮には当然門限があるので、流星群を見るためにそれを破ろうというのだ。
前々から計画を立てていたシャーロックは、いとも容易く寮を抜け出した。
誰も居ない校舎の屋上を目指す。カツカツと音を響かせながら階段を上り切ると、ガチャリと音を立てて屋上へと続く扉を開けた。
そこには先客がいた。
肩ぐらいまでの長さの、夜のように黒い髪をもった少女だ。
大きな望遠鏡を空に向けて組み立てている。どうやら彼女も自分と目的は同じみたいだ。
少女はシャーロックが来たことに気付かず黙々と組み立てる。
「あの、」
シャーロックは少女に近づくとそっと声をかけた。
「ぅわあ!」
少女は驚きの声を上げて飛びすさった。
「驚かせてごめんね、僕はシャーロック、星を見に来たんだ。君も、だよね?」
シャーロックは立派な望遠鏡に目をやる。
「なんだよ、びっくりさせないでよ!先生かと思ったじゃないか、」
少女は怒ったようにそう言った。シャーロックは少女の荒々しい言葉遣いに一瞬固まる。
「あ、ごめんね、僕も星が見たくてさ」
シャーロックが気を取り直してそう言うと、今度は少女が固まる番だった。
「アンタ、うるさく言わないんだね」
少女は意外だと言う感じを言葉に乗せて言う。
「アタシはステラ、アンタの言う通り星を見に来たんだ」
それだけ言うと組み立てを再開した
流星群が流れるまで後三十分。
「シャーロックって言ったよね?」
ステラは望遠鏡を組み立て終えると、後ろでそれを見守っていた少年を振り返って聞く。
「うん」
シャーロックは短く答えた。
「アンタがあのシャーロック・ピーストップね。編入早々先生からも生徒からも大人気な優等生くんだ」
少女はシャーロックを上から下までジロジロと見て言う。
「僕を知ってるの?」
「当たり前でしょ?みんながアンタとお近づきになりたくて仕方ないんだから、学校中がアンタの話で持ちきりだよ。アンタはまさにこの学校そのものみたいな奴だよね、お坊っちゃん?」
「じゃあ、君もそうなの?僕と友達になりたい?」
シャーロックはステラのバカにしたような言い方にムッとして眉間に皺を寄せながら聞いた。
「さぁ?アンタが良い奴だったら友達になりたいと思うだろうけど、今の時点じゃそれは分からないな」
少女は怒っているシャーロックをもろともせずに堂々と言ってのける。
シャーロックはステラを見つめると、ふっと頬を緩ませた。
「ふふ、そりゃそうだ。でも少なくとも僕は今の一言で、君と友達になりたいと思ったよ」
楽しそうにクスクスと笑う少年にステラは変なものでも見るかのように片眉を上げる。
「あ、見て!流星群が流れ出したよ!」
シャーロックは漆黒の夜空を横切る無数の光を指差して言った。
その声は興奮したように弾んでいた。
少女は、瞳を輝かせて流星群を眺めるその姿を見つめると、ゆっくりと口角を上げる。
「ねぇ、シャーロック」
ステラの呼びかけに少年は視線を空から切り離した。
「アタシと友達になってくれる?」
少女は右手を差し出してそう言う。シャーロックはそれを聞いて少し目を見開いた後、
「もちろん、よろしくね。ステラ」
そう言って差し出された右手を握った。
「よし、じゃあ流星群を見よう!」
シャーロックは少女の手を離すと、ゴロンと屋上に寝そべる。それを見たステラはポカリと大きく口を開けた。
「こうやって寝転んで見たらもっと綺麗だ、って」
少年は言いながら少女を手招きする。
未だ大きく口を開けている少女をよそに、シャーロックは流星群に夢中だ。
彼の大きな瞳に星が駆け抜ける。キラキラ弾けてしまいそうだ。
「おかしな奴」
ステラは小さく呟くと、幼な子のように瞳を輝かせる少年の隣に寝転んだ。
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