2着目 第2の人生開始! だが……

 変に考え事をしていたせいで、何の特典をもらえたかわからないまま転生し、なし崩し的に第2の人生をスタートしてしまった。

 ここで、少し転生してからの人生を振り返ってみることにする。


 転生した場所は『アイレンベルク帝国』という場所で、まぁ転生前でよくあった中世ヨーロッパ的ファンタジー世界の国だ。

 魔法が存在しているし、魔物も跋扈している。


 オレが生まれたのは、その国で貴族をやっている『エーベルハルト伯爵家』。

 一応貴族の順位に付いて説明しておくと、アイレンベルク帝国では下から順に『男爵』、『子爵』、『伯爵』、『侯爵』、『公爵』、『大公』と決められている。

 ここから考えると、うちのエーベルハルト伯爵家は中堅貴族と言える。


 ちなみに、エーベルハルト家は領地を持たず、国の中央で役職をもらって仕事をしている。

 いわゆる法衣貴族とか役人貴族と呼ばれている存在だ。


 そんなエーベルハルト家に、オレは『長女』レオナ・エーベルハルトとして生を受けた。

 そう、『長女』である。前世が男だったのにその記憶や性質が消えないまま女に生まれ変わる……俗に言う『TS転生』をしたようなのだ。

 最初の内は戸惑ったが、数年経つと開き直って自分の体を楽しむことに決めた。

 それで自分の体で色々遊んでみたが、それも1週間足らずで飽きた。

 その後は貴族としての教養やエーベルハルト家の方針に則った教育を受けていたが、それ以外では比較的自由に遊んでいたと思う。

 公の場では口にしなかったが、一人称『オレ』だしかなりがさつな性格だったこともあって周りからは奇異の目で見られたかもしれないが――両親からは何も言われなかった。


 これはおそらく、エーベルハルト家の家風が関係していると思う。

 この家風を説明する前に、この世界全てに適用されるルールの一つである『ジョブ』について説明しなければならない。


 ジョブとは、前世におけるRPGなんかのジョブや職業に相当するものだ。

 この世界では10歳になると神殿に行き、神官から『ジョブ神託の儀』を受ける。

 するとジョブを授かるのだが、このジョブによってステータスに特徴が生じたり特定のスキルを獲得することが出来る。

 まぁ、ステータスと言っても明確に数値化されているわけではなく、感覚的なものだったり、他のジョブの身体能力と比較して、というものだが、それでもはっきりと目に見えて差別化されるのだ。

 また、特にスキルは重要だ。特に魔法関係は魔法使いなどの魔法を使えるジョブになれないと習得できなかったりする。


 そんなジョブとエーベルハルト家の関係だが、実はジョブの中には『超希少』、『SSレア』という言葉がピッタリ当てはまる、珍しくて強力なジョブが存在する。

 その一つが『勇者』だ。あらゆる武器、武芸に長け、魔法も強力なものをいくつも覚えられるという、戦闘系のジョブの中では破格すぎる性能を有している。さらに、国の危機を救う力を持つとも言われているのだ。

 その勇者だが、実は初代エーベルハルト伯爵はその勇者のジョブを持っていて、その能力を遺憾なく発揮した結果、伯爵の地位を賜ったのだ。

 それ以降もエーベルハルト家は何人か勇者のジョブ持ちを輩出し、中には本当に国の危機を救ったという武勇伝を持っているのだ。


 そういうわけなので、エーベルハルト家は武人的な家風を持つ貴族家であり、実際オレの父親であるエーベルハルト伯爵もアイレンベルク帝国軍の高官を務めている。

オレの性格も『武人らしい』という理由で別に矯正はされなかった。

 これが文官系の家だったら、厳しいしつけを受けていたかもしれない。


 そんなわけで貴族令嬢ライフを過ごしていたオレだが、10歳になってジョブ神託の儀を受ける日がやって来た。

 場所は、オレが住んでいるアイレンベルク帝国首都のアイレンシュテットにある神殿だ。

この世界の常識としては当然の事らしいのだが、オレは中堅貴族の子なので中堅貴族専用に建てられた神殿で儀式を受けることになる。


 ただ、儀式と聞いて仰々しい感じのものを想定していたのだが、実際はかなり事務的だった。

 神殿の奥に十数人の神官が並び、子供達はそれぞれの神官の前に並ぶ。

 そして一人ずつ神官の前に立ち、神官は手をかざすと子供に授けられたジョブを告げ、そのまま終了。子供は親元に帰る。

 これをひたすら延々と繰り返す、流れ作業的な儀式だった。さながら前世の空港の国際線にあった入管窓口を想起させる。

 でもまぁ、いくら中堅貴族の子だけを集めたと言ってもかなりの人数になるので、流れ作業的になるのも仕方が無いかもしれないが。


 ジョブを告げられた子は一喜一憂。時々列の流れが止まったり歓声が上がることがあるが、これは比較的珍しかったり強力なジョブを告げられたのだろう。


 そして、いよいよオレの番が来た。

 神官がオレに手をかざし、オレにあてがわれたジョブを告げた。


「告げる。汝のジョブは『ドレスアッパー』。……ドレスアッパー?」


 どうやらジョブを告げるとき、神官は無意識になってしまうらしい。だからオレのジョブを告げたときも自分で聞き返してしまったのだと思う。

 しかし、ドレスアッパーってなんだ?


「あの、神官様。ドレスアッパーってどんなジョブなんですか?」


「いや、私も聞いたことがない……。すみません、お願いします」


 儀式をしていた神官は待機していた地位の高い神官にオレを引き渡した。

 どうやらこういった珍しいジョブが出てきた場合に備え、高位の神官をあらかじめ待機させていたようだ。


 そして高位の神官はオレ、そして付き添っていた両親を神殿の応接室に案内し、オレが授かったジョブについて調べるからしばらく待ってくれと告げ、ジョブの調査に行った。


 数時間後、高位の神官が戻ってきて、告げた。


「申し訳ありません。アイレンシュテット中の神殿や総本山にも問い合わせたのですが、『ドレスアッパー』なるジョブの情報はどこにもありませんでした。数ヶ月いただければ、外国の神殿にも調査依頼を行い情報を集めることは出来ますが……」


「そうですか……」


 その時の両親の表情は、非常に複雑なものだった。

 両親の本性を知っているオレとしては、その反応を見てイヤな予感を感じてしまった。


 それから数ヶ月経ち、神殿が外国の神殿に問い合わせてまで調査を行った結果が出た。


『ドレスアッパーというジョブ関する資料、並びに情報はどこにも存在しなかった。よって、ドレスアッパーは新種のジョブである可能性が高い』


 つまり、どのようなジョブかこの世界の誰にもわからないのだ。

 オレはジョブを授かってからステータスが変わった気がしないし、思い当たる能力も全くない。

 そういうわけでドレスアッパーの研究を行いつつ、最悪の事態に備えて準備を進めていた。


 そして2年後、その最悪の想定が現実の物となった。

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