異世界キセカエ物語

四葦二鳥

1着目 突然の死と異世界転生! しかし……?

 気が付いたら、そこは白い世界だった。


 ここに至るまでの経緯を思い出してみよう。

 確か、オレは夜遅くまで仕事をしていたはずだ。そこはいつも……とは行かずともたまにある。

 では、無理がたたって心臓発作でも起こしたか? ……だが、どうも違う気がする。


 もっとよく思い出してみよう。

 そういえば、仕事中にトイレに行っていたと思う。

 それからオフィスに戻ると、見慣れない人影がいた。

 そいつはオレの姿を見るなり、いきなり近づいてきて――。


「はい、あなたは刺され、殺害されてしまいました~」


「おわっ!?」


 いきなり女が現れた。

 どこかから近寄ってきたとかではなく、虚空からいきなり出現したのだ。


「あなたを殺した人物は、平たく言うと泥棒さんです。そして運悪く見つかってしまったあなたは、口封じのために殺されてしまったのでした~。いや~、残念ですねぇ、不幸ですねぇ~」


 詳しくオレの死んだ状況を説明する女。

 それについてはまぁありがたいけど、どうも口調が一々しゃくに障る。それとも、元々人をいじるのが好きなのか?


「さぁ~、どうなんでしょう~? 元々私、こういう口調と正確なもので~」


「オレの考えたことが読めるのか?」


「ある程度は。細かいところまでは読めませんけど~」


 これは注意が必要だな。

 うっかりオレの考えが読まれると、ちょっと恥ずかしい事になるかもしれない。


「さっきオレは死んだと言ったが、ここは死後の世界なのか?」


「半分当たりです。ここはわかりやすく言えば、死後の世界の入り口の一つです。入り口は色々と種類があるのですが、ここはその中でもかなり特別な入り口でして~。あと、ここからはあなたの今後に重大な影響を与える物なので、よく聞いて下さいね」


 そして女が説明をしたところによると、ここは不幸な人生を送り、死んでしまった人を救済するための入り口、らしい。

 そもそもどんな世界にも幸不幸は平等に訪れるべきであるが、その時の社会状況や運によって大きな偏りを生じてしまう。

 このまま放置しておくとまずいので、死後に救済措置を行うのだそうだ。


 なお、オレは天寿を全うできなかったこと、誰にも看取られず孤独であったこと、犯罪に巻き込まれた事による殺害といった項目によって不幸認定されたらしい。


「で、どのような救済措置をとるのかと言いますと、簡単に言えば異世界転生です。あなたの送りたい人生の希望を聞き取りまして、それに合う世界を検索し、行き先となる世界を決定します。その上で、あなたの希望に添った能力をその世界に合う形で付与させていただきます。私は異世界転生をお手伝いする、いわば公務員のような者です」


「なるほど。ところで、異世界転生と言っても肉体がそのままの状態で行くパターンと完全に生まれ変わるパターンがあったと思うが……」


「ああ、その点は我々の業界では明確に区別しています。完全に生まれ変わる場合は『転生』、そのままの肉体で異世界に行かれる場合は『転移』と呼んでおります。転移の場合は15歳以下、転生の場合はそれ以上の年齢で亡くなられた場合におすすめしておりますね」


 オレの場合、28歳だから転生のほうがいいのか。


「はい、かしこまりました。では、どのような人生を送りたいでしょうか? 欲しい能力等から考えても結構ですよ」


 あ~、そう言われると困るな~。

 今まで社畜やってきて、それから解き放たれたら何をやりたいかなんて考える暇も無かったし。

 仕事以外で考えていたことは、ゲームだったな。

 最近プレイしていたゲームはかなり面白かった。アクションゲームなのだが、衣装を変えることでガラッと技が変わるし、しかもお色気要素もあった。

 衣装破壊システムがあったし、さらにインナーファッションまで楽しめるという要素まであったのだ。

 さらに、キャラクタービューでは360度カメラを動かせる。当然、スカートの中も覗けるわけだ。


 オレは全ての衣装とインナーを入手していなかったし、メインストーリーも全部クリアしていなかった。

 今考えると、それが心残りかもしれない。


「はい、かしこまりました~。では、これから異世界転生を開始しま~す」


 え、待って。もしかして、ゲームのこと考えてたらそれが要望だと受け取られた?


「ちょっと、今オレが考えていたことは――」


「申し訳ありませ~ん。もうシステムに入力してしまったので、取り消せませ~ん。ですが、破格で前代未聞ナ能力であることは間違いないです。上手く使えば、幸せな人生は約束されたものですよ~? それでは、よい第2の人生を~!」


 そしてまた、オレの視界がホワイトアウトしていった。

 それと同時に、オレは人生最大の(まだ始まってないと解釈出来るかもしれない)チャンスを棒に振ってしまった、と思った。

 あれだけ考えが読まれることに気をつけようと思ってたのになぁ。

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