暗殺者、テイマ―、それにハーレム。ボクの異世界生活は忙しい。
巨豆腐心
第1話 人生の終焉と、転生相談
~~ 夢と現実と、その終焉 ~~
98歳で大往生――。でも、そんな聞こえのいい話ではない。
ボクは9歳から、ずっと寝たきりの状態だった。
いわゆる植物人間――。体を動かすこともできずに、皮膚には感覚すらない。目もみえず、口もきけず、匂いも感じない。だけど脳は意識を保っていたし、耳は聞こえていた。
つまりボクは89年間、ずっと周りの音だけを聞いて過ごしていたのだ。反応することもできずに……。
生きている間は、とにかく酷い扱いをうけた。当初、耳が聞こえるとは理解されておらず、罵詈雑言を浴びせられ、感覚がないのでどこかは分からないけれど、殴られたり、蹴られたりしたことを、その音で知った。
戦後の混乱期には、臓器を売って生活費に充てよう、という話が何度ももち上がった。それでも母が健在なうちはそのすべてを断っていたが、ボクが42歳のときに母が亡くなると、ふたたび臓器を売ろう、という話になる。ただ、そのころには寝たきりで弱った臓器のほとんどが、移植にはつかえなくなっていた。
そうなると、もう家族からもお払い箱。親族一同からも絶縁され、行政のお世話になった。
でも、行政であってもお荷物であって、お金がかかるだけの厄介な存在。かと言って放りだすこともできない。だからずっと病院暮らし。ただ病室ではなく、それこそ通路の脇にある物置のようなところで、ただ生き永らえさせてもらっているだけの状態だった。
ただ、それがよかったのは廊下を歩く人々の会話が聞こえ、それで世の情勢を知ることができた点だった。
ボクはそうやって過ごし、98年で心臓が止まった。まさに妄想するだけで何もしていない人生――。
~~ 冥土の入り口 ~~
「あなたね、9歳から死んだように生きていたのは?」
言い得て妙……。だけれど、死んだ後に会った閻魔様からそれを言われると、何だか釈然としない。しかも、それが十歳ぐらいの、フリフリ衣装を着た少女から言われると、尚更だった。
「そう思っていたのなら、早くこっちに連れてきてくれればよかったのに……」
そう愚痴を漏らす。自殺することもできず、鬱々とすごす間に何度そう思ったことか……。
「私はそう言ったのよ。でもね、こっちも色々とあるのよ」
他人事……? 何だか軽いノリである。
「アナタには、異世界に行ってもらいます」
「……異世界?」
「地獄をめぐったり、天国で過ごしたり……。死んだ後、ふつうの人だと色々とやることもあるんだけど、アナタの人生、そういう判断がつくようなものじゃなかったでしょ?
本当はもう一回、元の世界で人生をやり直させることもできるのだけれど、ちょっと異世界の方が、色々と人手不足になっていてね。しかも最近は、元の世界の常識をつかって成り上がったり、無双したり、スローライフしたり……。そんな連中ばっかりで、ほとほと辟易しているのよ。
その点、アナタはそういう元の世界の知識が少ない! ということで、白羽の矢が立ったわけ」
「……よく分からないですけど、地獄にも天国にも行かずに、もう一度人生をやり直せ……。それを、別の世界に行って……ってことですか?」
「簡単にいうと、そう。アナタなら、逆に順応しやすいでしょ?」
逆? 9歳までしか生きていないのと同じだけれど、それは他の夭折した子と同じはず。逆にしたところで、何も出てくるわけではない。
「ボクの知る世界なんて、戦争中なので……」
ボクが見て、感じていた世界はそこで終わり。終戦も聞いて知ったけれど、だからどうなった? という知識は皆無だった。
「驚くと思うから、先に行っておくわ。異世界といっても、中世欧州風の街並みじゃない」
「……驚きませんけど、異世界って、それがふつうなんですか?」
「あぁ……。その反応、新鮮だわ~。とにかく、アナタが知る世界とは全然ちがうから、心に留めておいてね」
「はぁ……」
「チートも準備できないけれど、失望しないでね」
「チート……って、何ですか?」
さすがに病院の中で、そんな話をする人はいない。
「魔法はあるけれど、最初に私が与えることはできないの。だから自分で覚えて、使えるようになってね」
「魔法……」
「あなたに、与えてあげられるのは職業だけ。これは選べるわ」
職業……といったところで、働いたことはないし、常識が通じない世界と言われているので、どんな職業があるのかも分からない。
「子供のころ、牛や馬を飼っていて、その仕事を手伝っていたので、動物に関わる仕事がしたいです」
「じゃあ、テイマ―ね。よし、それで決定! パチパチパチ……」
幼い閻魔様は、そういってボクが戸惑うのも気にせず、その異世界とやらにボクを送りだした……。
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