068 運び屋達の休日(その3)
「ありがとうございました~、今度は買って下さいね~」
「……銃弾代、払ったんだからいいでしょう」
「せめてもう少し早ければ、在庫不足を理由に吹っかけ、……丁度値下げしたタイミングでしたので、お客様はついていますね」
「どっかの爆弾魔けしかけるわよ」
適当なやり取りの後、春巻のミリタリーショップを出た姫香は、店への足として使った黒の
「お昼、どうしよう……」
ただ、ヘルメットを被り、エンジンスタートのボタンを押している間も……その後の予定が脳裏に浮かぶことはなかったが。
「料理も手間だし、外食にしようかな? う~ん……」
一先ずは一度、
(こんなことなら……別に、逃げなくても良かったかな?)
銃器を購入しようと、わざわざ
だから私財を切らず、睦月の
(かといって、いまさら返すのもなぁ……)
昼食のメニューと裏金の扱いを同列に悩みつつ、姫香はアクセルを緩めていく。
「……姫香ちゃん?」
街中へと入り、
姫香が振り返った先には、その声を掛けてきた彩未が居た。
しかも……何故か、由希奈を連れて。
時間を戻し、姫香が睦月の
「ええ~……まあ、しょうがないか……うん、じゃあまたね」
彩未もまた、今日は休日だった。
しかも厄介なことに、『
だから誰かと遊ぼうと
「どうしよう……もう、
睦月に恋心は抱いているものの、最後には必ず別れが待っている。だからなるべく関わらない方がいいのではと考えていた彩未だったが……それでも暇ができるとつい、傍に行きたくなってしまう。それにいざとなれば、姫香と
問題はただ一つ……向こうの都合が付くとは限らない、ということだ。
「睦月君はともかく、姫香ちゃんは私からの通知オフにしてるからなぁ……」
睦月に連絡を入れる場合、運転していることも多い為か、単純に繋がり辛いことが多い。だからよく姫香に連絡していたのだが、
とはいえ、仕事の連絡先に遊びの連絡をしようものなら……良くてガン無視、場合によっては
「……ま、とりあえず家に、遊びに行けばいっかな?」
だから連絡が付き辛い二人に対して、彩未はアポなしで直接会いに行くしかなかった。
留守かどうか位はスマホを
よく居留守を使われるものの、居場所さえはっきりしていれば存外どうとでもなる。たとえどちらかが出掛けていたとしても、もう片方の位置さえ自宅ならば、最悪無駄足を踏まなくて済む。
とはいえ、大体は一緒に居ることが多いので、両方とも調べるのは面倒なだけなのだが。
「さて、と……今日はどっちを調べよっかな~」
適当にコインの裏表で決めようかと考えていた彩未の下に、突如スマホの通知音が鳴り響いた。
「ん?」
机の上にあるタブレットPCに手を伸ばそうとしていた彩未だったが、目標を投げ捨てたはずのスマホに移し、手に取って着信を確認する。
相手は、
未だに付き合いが浅く、下手に関わり過ぎるとウザがられて、今後の付き合いに響く恐れがあるので様子見を決めていたのだが……何か用があるのか、今回は向こうから連絡が来たのだ。
「……由希奈ちゃん?」
「……で、買い物誘われたから待ち合わせして歩いている時に、由希奈ちゃんが偶々姫香ちゃんの
「ふ~ん……」
彩未達と遭遇した姫香は、一度
「……でも良かったの? わざわざ
「大丈夫ですよ。昼食は特に決めてなかったので」
「元々、急なお出掛けだったしね~」
由希奈の肯定に彩未も追随してきたので、姫香もそれ以上は気にしないことにした。
「ならいいけど……」
そうこう話している内に、三人は総合運動公園の入り口に到着していた。
この公園は数年前に新しく建て直した際、入り口近くに飲食店が立ち並ぶスペースが設けられている。姫香達が向かうレストランも、その内の一つだった。
「
「普通のレストランよ。使っている食材が
「そういえば……私もこの辺りは、あまり来ないかな?」
店に入り、少ししてから寄って来た店員に案内されたテーブル席に腰掛けた三人は、それぞれメニューに目を通し、何を食べようかと検討し始める。
「ここ、腕はいいけど席数の割に従業員少ないから、下手に時間掛かる料理は選ばない方がいいわよ。無駄に待たされるし」
「分かりました。たしかに今日は休日ですし……」
姫香にそう言われ、由希奈も店内を見渡してから答えた。
「……他のお客さんも多いですね」
「どこも人手不足だよね~」
内心では姫香も、彩未と同意見だった。
実際、前回の仕事では睦月も、現状の人手不足に頭を悩ませていた。姫香自身は特に気にしていないが、たとえ非正規雇用でも、今後は状況に応じて増員できるようにすることで話がついている。
彩未も同じ状況なのかと、姫香は注文を通した後に聞いてみた。
「『
「ううん。由希奈ちゃんが声を掛けてくれなかったら、今日の私の遊び相手がいなかった、ってだけ」
「……あんた何で、
そこで姫香はようやく、由希奈に今回の
「えっ、と……ちょっと、彩未さんに相談したいことがあって……」
「ふ~ん……」
露骨に目を逸らしてくる由希奈を見て、姫香はなんとなくだが理由を察した。
「まあ、いいんじゃない……好きにすれば?」
その姫香の余裕を持った態度に、
「コンビニも最近、新しい商品が増えたよね~」
「俺はあんまり、
休日の割には人のいないコインランドリーの待合スペース。睦月が
「でもやっぱり、そこまで大きな変化はないかな~……もっと珍しいの出せばいいのに、
「見た目、生産、保存方法の観点から難しいだろうな……そもそもコンビニで扱っていいものじゃねえよ。ベトナム舐めんな」
唐揚げ弁当を食べ終えた後、睦月は大型の洗濯機の中で洗濯物が回っているところを眺めていたのだが、さすがにそれだけでは時間が持たない。
しかし、終了予定まで、まだ三十分以上も時間がある。
「暇だな……」
「変に時間が余ってると、なんかもったいないって思うよね~」
「……本当にな」
人間という生き物は、常に最高の状態を維持できるわけではない。どこかで休みを挟まなければ、途中で倒れてしまう。それは頭脳も同じで、思考しない時間を用意しなければ、同じく集中力が途切れやすくなる。
ある意味食休めも兼ねて、特に考えることなくぼーっとしようとした睦月だったが……手持ち無沙汰だと、どうにも落ち着くことができずにいた。
「やっぱり苦手だな……考えない時間を作る、ってのは」
「
「……それは『目先の
おまけに今日は、姫香との
そう考えるだけでも、睦月は恵まれている方だと思えた。今この場で(脳は)休めているのか、という認識とはズレてしまうが。
「ああ……でも、」
「でも?」
そこでふと、睦月がぼやいた言葉に、弥生が食い付いてくる。何だかんだ、彼女も暇を持て余していたのかもしれない。
「どうせこの後は掃除が待っているし……単純作業していれば、逆に頭使わなくて休まると思ってさ」
「でも身体は休まらないよ?」
「それは頭を休ませてからにすればいいだろ? 順番だ、順番」
目的さえ果たせれば、その過程には興味を持たない。それが睦月のやり方だ。
「結局のところ、睡眠が一番の回復手段なんだよな……
「水泳の息継ぎみたいなものだよ。健康体ならすぐ
「夢を見た日とかだと、どうも実感が湧かなくてな……」
この場で仮眠でも取れれば、とは思う睦月だが、さすがに無防備すぎるので、その考えは却下する。
「ぶっちゃけ睡眠なんて、
「理屈では分かってるんだけどさ……にしても暇だな」
「それさっきも言った」
適当な話題を広げようとしてみるものの、時間はあまり経過していなかった。
かと言って、コインランドリー内では弥生相手に
主に睦月が。
「適当に本か何か、持ってくりゃ良かったな……」
「そういえば睦月って……姫香ちゃん程、スマホに依存してないよね?」
「そこまで使う必要がない上に、結構自重している部分があるからな……」
指折り数えつつ、睦月はスマホの用途を口に出していく。
「大体誰かと居ることが多いから、連絡手段としては仕事でしかあまり使わないな。SNSも自分から発信する理由も内容もないどころか、ほとんど見ないし。紙の方が好きだから電子書籍も別にいいし、姫香と違って
「好きじゃないの?」
「好き
少し重めに息を吐きながら、睦月は事情を告げた。
「
「つまり……諦めが悪い、ってこと?」
「諦めることが
単に、諦めが悪いだけならいい。しかし、睦月の場合は違う。
「本当…………面倒だよな」
一度集中状態に入った睦月は自他を問わず、決め(られ)た行動を取り続けることが多い。拘りが強過ぎて、どんな状況でもすぐに切り替えることが難しいのだ。
「だからゲームの類は、なるべく絶つようにしている。特にやり込み要素の高いシミュレーション系は、下手したら延々とやりかねん」
「……あれ? でも昔、
「今じゃ何で、あそこまで嵌ってたのかは分からないけどな……」
世間で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます