問題!幼馴染姉妹の答えはどっちでしょう!

綾乃姫音真

問題!幼馴染姉妹の答えはどっちでしょう!

 三月。学年末も近づき、授業も半日で終り。いつものように幼馴染の家に上がり込み姉妹の部屋で駄弁っていたら姉の卯月がいきなり提案してきた。


「つぐみちゃん、クイズに挑戦しない?」


「クイズ?」


「昨日、さーちゃんと作ったの」


「頑張った」


 姉妹揃って期待するように見てくる。ホントそっくりよね、まぁ双子だし不思議じゃないんだけど。お父さんから受け継いだ平均的な身長と少し伸ばすとすぐに跳ねる癖っ毛。お母さんから受け継いだ丸顔とかなり控えめな胸部と。本人たちは嘆いているけれど、手足はスラッとしてるし勉強も運動も平均以上に出来るって十分だと思うんだけど。

 姉か妹を見極めるのは簡単。髪を右側で結んでいるのが姉の卯月で、左側で結んでいるのが妹の皐月。普段着がスカートなのが卯月でショートパンツなのが皐月。まぁ、この時期だし、いくらストーブが利いてるとはいえ揃ってタイツ履いてるから生足は拝めないけど。


「問題です、第一問!」


「あたしに拒否権無いんだ」


「さーちゃん、何問間違えたら罰ゲームが良いと思う?」


 罰ゲームあるんだ……どんどん勝手に進んでいく。


「卯月、つぐみんなら全問正解当たり前」


 地味に皐月の方がいい性格してるのよね……。


「それもそうだよね!」


 どっちもどっちだったわ……。


「罰ゲームは抱き枕の刑」


「不正解の数だけ露出度が上がっていくってことでいいよね」


「よくないわ! 露出度ってなによ!?」


 思わずツッコミを入れてしまう。なにこの姉妹? 変態なの?


「まず全問正解で制服(冬)」


「そこから一問間違えるごとに制服のブラウスとスカート、高校のジャージ、高校の体操服、通販で買った体操服って感じでいいよね、つぐみちゃん」


 変態だったわ。


「って、それだと全問正解でも抱き枕じゃない」


「バレた」


「気づくに決まってるでしょうが。それと通販で買った体操服ってなによ?」


 嫌な予感しかしない。


「これ」


 そう言って皐月がガサゴソと紙袋を渡してくる。見たくないけれど、開けてみる。白のTシャツに紺のブルマだった。


「ねえブルマとか初めて実物見たんだけど」


 試しに眼前で広げてみる。これは中々……あたしたちの世代じゃ学校ではとっくに廃止されてるし、テレビのバラエティ番組とか二次元でも偶にしか見ない。あ……父さんの持ってたDVDはノーカン。


「昔はこれが体操服として当たり前だったっていうんだからすごいよね」


「試しに履いたら恥ずかしかった」


「その恥ずかしいものを幼馴染に履かせようとすんな」


 でも、卯月と皐月のブルマ姿は見てみたい気もする……これじゃ人のこと言えないじゃないのよあたし。


「つぐみちゃんてお尻大きいから似合いそうだよね!」


「キラキラした目で期待してるところ悪いけど履かないから」


「えーっ」


「つまんない」


「うっさい、特にあんた達に見られるとか絶対に嫌っ」


 一生ネタにされる予感しか無いもの!


「そんな冷たいこと言わないでよ、つぐみちゃん」


「皐月達も履くから」


「あんた達だけで勝手にやってなさいよ……」


「折角、ワンサイズ小さいのを買ったんだよ!? 履いてよ!」


「そうだそうだー」


 あたしの幼馴染ってなんでこう……クイズやらないとずっと続くわねこれ、要するに正解すればいいんでしょ? やってやろうじゃない。とその前に一応確認……。


「ちなみに抱き枕にされるとして、露出度ってどこまで上がるのかしら?」


「卯月、出題」


「うん、ルール説明も済んだところで第一問!」


「待ちなさい、あたしの質問に答えなさいってば」


「下着?」


「下着かな?」


「一回、おじさん達にキツくお灸を据えてもらったほうがいいわ、あんた達」


「つぐみん程じゃない」


「どういう意味よ!!」


「言葉のままじゃないかな」


「――っ」


 絶句ってこういうことを言うのね。あたし、よく絶交せずに幼馴染続けられてるわ。自分のことながら驚きよ。


「三度目の正直で問題です!」


「最初は簡単」


「わたしと皐月。お風呂で身体を洗う時に左腕からなのはどちらでしょう?」


「なのその問題!?」


 いや、一緒にお風呂入ることもあるから知ってるけど。


「問題! 幼馴染姉妹の答えはどっちでしょう!」


「そういうクイズを作った」


 え、こんな問題が続くの?


「第一問の答えはなんでしょうか?」


「卯月」


「正解! 流石幼馴染だけあってわたし達のことをよく見てるんだね」


「よかった。間違えられたら悲しい」


 正解する方は虚しいわよ……。


「第二問!」


「幼稚園の夕涼み会で水色の浴衣を着てたのはどっち?」


「つぐみちゃんならわかるよね?」


 変なプレッシャーを掛けてこないでよ。これ地味にひっかけ問題ね。今でこそふたりとも淡い水色系が好きだけど、昔は卯月ってピンク系統が好きだったから。


「皐月でしょ? 昔から好み変わってないもの」


「正解」


「次は三問目! つぐみちゃんはどこまでノーミスで行けるかな?」


 我ながらこのレベルの問題なら、余裕で行けると思う。伊達に幼馴染やってない。


「卯月。つぐみんはこのレベルなら余裕って思ってそうだから難易度あげよ」


「そうだね。じゃあ十問くらい飛ばして……」


「え? 何問作ってんの?」


 そういえば確認してなかった。


「抱き枕つぐみんの露出度が皐月達の満足行くまで」


「えぇ……馬鹿なの」


 マジかこの姉妹。この際、抱き枕になるのはどうでもいいわ、割り切る。でもそこまでしてあたしを脱がせて面白いわけ? もしかして仲の良い幼馴染って思ってたのあたしだけで実は嫌われてるなんてことないわよね……ちょっと心配になってきちゃうレベルなのだけど。


「第三問! わたし達とお話する時、つぐみちゃんはどっちを見てる時間が長いでしょうか?」


「……え? それって姉妹に関する問だ――いね、確かに」


 疑問が浮かぶも自己解決。そして自分の視線の行方を思い出そうとするけれど……あ、マズい。完全に無意識だからわからない。普通に考えれば口数の多い卯月に視線を向けているのが多い気がするけれど、だからこそ口数の少ない皐月を見て仕草や表情から思考を読もうとしている自分も居る。


「あれ? どうしたのかな?」


「悩んでる」


 これ、地味に難問じゃない? ……確率は二分の一。


「皐月?」


「残念、外れ」


「つぐみちゃん、結構喋ってる相手の目を見てるよ?」


 あー。そう言われてみるとそうかもしれない。


「これでブラウスにスカート」


「夏服になっちゃったね、じゅるっ」


「まだまだ脱がせる」


「怖っ」


 思わず自分の身体を抱きしめる。そして気づく。ふたりの目が獲物を前にした肉食獣のようなギラついたものに変わっていることに。


「四問目」


「中学時代、先に体操服を買い替えたのはわたしとさーちゃんどちらでしょう?」


「そんなの知るかーっ!」


「ヒントはTシャツ」


「だから知らないって」


「答えはわたしでしたー」


「卯月、体育の時間に転んだ拍子に袖を引っ掛けた」


「脇の方まで破れちゃって……男子もいたし恥ずかしかったんだから」


「……言われてみればそんなこともあったような気がするわね」


「五問目」


「つぐみちゃんの中学時代のスクール水着を持っているのはわたしとさーちゃんのどちらでしょう?」


「…………は?」


「つぐみん面白い顔してる」


「待って待って待って!」


 ようやく言われた言葉の意味が理解に追いつく。


「つぐみちゃんがそこまで慌てるの珍しいね」


「慌てるわ! え、本気で言ってる? ていうかいつの間に確保したのよ!?」


「つぐみんのお母さんから買った」


「買った!? いま買ったって言った!?」


 なにやってんのよあの人は! 娘のスク水売るとか馬鹿じゃないの!?


「それで答えはどっちだと思う?」


 え? あたしは幼馴染の姉妹どっちが自分のスクール水着を母親から買ったか真剣に考えなくちゃいけないわけ? これクイズという名の嫌がらせじゃない? 当たっても外してもダメなやつじゃないのこれ。そして卯月と皐月。正直なところどっちがやっていてもおかしくないというのが尚嫌だ。嫌なんだけど、ふたりのなかでどっちがやる確率が高そうかというと……。


「……皐月」


「残念! 正解はわたしでしたーっ」


「なに得意げに幼馴染のスク水隠し持ってますって暴露してんのよ!!」


 ドン引きよ!


「つぐみん」


「なによ」


 この流れ、絶対に碌なことじゃないでしょ。


「高校のスクール水着、サイズ変わったら売って」


「絶っ対に嫌!」


「えー卯月は良いのに?」


「良くないから! あたしも知らないうちに売られてただけだから!!}


 そこで気づきたくもないことに気づいてしまう。あたし、サイズが合わなくなった服とかさ……しっかり処分してたつもりだけど、この感じだとこの馬鹿姉妹に相当数渡ってる可能性ない? と。


「うん、つぐみちゃん気づいたみたいだね」


「ここから先の問題パターンはひとつ」


「つぐみちゃんが幼稚園時代から中学までに使っていた私物とかサイズの合わなくなった服をどっちが持っているかが問題だよ!」


 今日イチ最低なことを言いながら今日一番の笑顔を浮かべるのやめてもらえないかしらね卯月!


「つぐみん、高校行ってからガード固いから入手大変。でも諦めない」


「そこはさっさと諦めろぉっ!」


「六問目! つぐみちゃんの中学の時のアルトリコーダーはどっちが持っているでしょう?」


「いやぁあああ!!? 本気で気持ち悪いっ!」


 鳥肌がっ!


「ちなみにもう一人がソプラノリコーダー持ってる」


「いらん補足すんなぁああ!!」


 結局、クイズは全九十五問もあった。あたしはブルマ体操服で抱き枕になることが決まり(実は下着まで行き、高校卒業後に体操服とジャージをそれぞれに売ることで許してもらった。泣きたい)中学時代のスク水を始めとするブツは回収失敗と散々な結果に終わった。

 抱き枕時は姉妹も揃ってブルマというおまけ付き。そういえば試しに履いてみたとか言ってたものね……。


 その日の夜。あたしは決心した。二度とこの姉妹が作ったクイズには乗らない。そして私物を処分する時は自分の手で確実に行うと。

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