【あの子】とわたし
わたしはいつも、【あの子】の真似っこばかりだった。
【あの子】は絵が上手かったから、わたしも画力を上げようとがんばってた。
【あの子】が勧めてくれたから、HoneyWorksからボカロに手を出した。
【あの子】が当時好きだと言っていたから、色んな実況者の動画を見るようになった。
わたしが誰かを元気づけるときも、わたしが助けられた【あの子】の言葉を勝手に借りていた。
「暗いトンネルをずっと走ってて、光があったらそっち目指すやろ?
その光になってくれたから」
「強く生きろよ」
「いっぱい話してくれ」
【あの子】と見合う存在になりたくて、いろいろなことを精一杯やってた。
でも、現実はそれほど甘くもない。
卒業してから【あの子】が引っ越して、絶対遊びに行くって言ったのに、コロナで県外も行けず、かといって未成年一人で電車乗ってくのもかなり金がかかるし。
わたしが最初に、人間不信を実感した時の【事件】を話したのは【あの子】だった。
コロナのせいで、男と関わることがなくなった代償が、【あの子】と会えないのは酷すぎる。
【あの子】は、わたしの話を聞いても、ずっと優しく励ましてくれた。
わたしが夢小説を書くようになっても、応援してくれていた。
【あの子】が親に相談したらって、言ってくれたから、わたしは【事件】のことをやっと話した。コロナで休校になった3月の、中旬くらい。
もし【あの子】がいなかったら、【あの子】と連絡が取れる状態になかったら、【私】はとっくに死んでた。
流石に命捨てるのはできてないと思うけど、何もかもに絶望して、今ほど自我は残っていなかったのだと思う。
【あの子】が好きだと気付いたのは、【事件】から約一年後。
懲りずに話をするわたしに、正面から向き合ってくれていた。
それから、画像で告白文のメッセージを送った。
【あの子】は、「好きという感情が友情か恋愛かわからないなら、はっきり決着ついて自信のある言葉が聞けたらそれに答える」と。
見放されなかったんだ。
LGBTQ+の理解なんて、大人でも難しいのに、中学生の女の子たちにまともな考えができると思わない。
それでも【あの子】は、自分なりに一生懸命調べてくれていて、わたしを拒絶しなかった。
【私】は馬鹿だった。
【あの子】の気持ちも考えずに、自分のことばかりで、【あの子】が苦しんでるなんて知らなかった。
【あの子】が優しすぎたんだ。
悪いのは【私】だったんだ。
【あの子】が、わたしに話があると言ったのは、受験間際の一月下旬。
辛くなってしまうから、【私】の話を少し抑えてほしいと言われただけだった。
【馬鹿な私】は、【あの子】の迷惑なんだとやっと気づいて、「ごめん」とだけ送って連絡手段を途絶えさせた。
【あの子】と話すためにあったTwitterのアカウントだったから、【あの子】と喋れないなら価値はないと判断して、消した。
──極端すぎたんだよ、【私】
それから、【あの子】がどうなったかなんて知らない。
きっと前みたいに優しく生きているんだと信じたい。
【私】のことなんて忘れて、自分のために生きていてもらいたい。
わたしも、わたしでがんばるからさ。
じゃあね。
私の恋心。
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