また君に会いに行くよ

弧阿

第1話(完結)

『ねぇねぇ , 知ってる?』


『どこかの廃墟の梯子を上ると , 幽霊と話せるんだって!』


『え , ガラスの螺旋階段じゃないの?』


『妖精と会えるって聞いたよ?』





何処にでも , どの世代にもある噂話 。


「妖精と話せるって , どんだけ夢見思考なんだよ」


誰が言い出したのか , 何処で話が作られたのか 。 どちらにせよ , きっとろくな頭は持っていなさそうだ 。


「でもでも , ガラスでできた螺旋階段は登ってみたいね!きっと綺麗だろうなぁ……」


正面に浮かぶ人物の言葉に思わず苦笑する 。 そんなもの , そうそうお目にかかれる筈がないだろう 。


浮いてる , といっても , 当然魔法なんかじゃないし , 機械のお陰でもない 。 目の前の彼女は真っ白な羽が生えているのだ 。 例えるなら , 漫画や絵で出てくる天使のような 。 だけど彼女は天使じゃない 。 幽霊 , というやつだ 。


「噂の出所 , 気になるなぁ!意外と身近な人だったりして!」


「だとしたらゾッとしないよ , 俺のこと見つけて言いふらしたって事だろ?」


恋人を失くした寂しい奴の上に変人の称号が乗せられるなんて まっぴら御免だ 。 彼女は俺の恋人だった 。


そういえば , 何故未亡人の俺と彼女が話せているのか説明できていなかった 。 廃校になった山奥の小学校の屋上にある梯子の上 。 生前も俺は , 放課後 彼女とよくここで話をした 。 交通事故で彼女がなくなってしまった後 , 癖みたいに自然にここに来て , ぼーっと町を見てたら , 彼女がいきなり話し掛けてきたんだ 。 彼女の上司いわく , この町で一番高い場所にあるから , らしい 。 亡者の上司とは , と言いたかったが , その言葉を飲んだのは懐かしい思い出だ 。 何となく , 踏み込んでは行けない気がした 。 別に深い意味はなく , そういう設定なんだろうな , と薄く考えてた 。

高いところってのも , 多分 , 空に近いとか , そんなのを言いたかったのだろうか 。


「確かに , 君が変な人なんて噂が立ったら , 私も嫌だなぁ」


「本当にそう思ってるなら , そんなこと言わないでくれるかな」


からから笑う彼女に呆れを含んだ溜息が出る 。 からかいにしても酷いな 。


「ほんとに嫌なら毎日会いに来てくれないよねぇ」


可笑しいなぁ , と , アニメキャラクターみたいに口元に人差し指を添えて首を傾げてみせる 。 他者から見ればアニメのワンシーンのような物なのだろうが , 俺と彼女の間にそんな綺麗さは無いだろう 。 と言っても , 彼女の言葉が正しいのは事実だ 。 彼女と過ごす時間に不満なんかない 。 ただ1つ苦言を呈するならば , 彼女に贈り物が出来ない事くらいだろうか 。 会いに来る度 , 流行りのお菓子だとか , 人気の縫いぐるみなんかを買ってくるけど , 物に触れられない為に彼女にはあげられない 。 お菓子は俺が少し食べて , 残りを家で家族と食べるのが大抵 , 物なら俺の部屋に置くか友達にあげたり 。 食べ物に関して一度 , お墓に供える方がいいかと彼女に聞いたが , 勿体無いから食べろと言われた 。 彼女にとっても俺にとっても最善の結果なんだ 。


今日も随分長く話した 。 いつの間にか夕焼けに変わった空を見上げ ,


「……そろそろ帰る」


と一言 , 彼女に告げる 。 いつもみたいに手を振って , 梯子を降りて , 山を降りて , 家に帰る 。 生前と同じ , 充実した日々だ 。


ところで , 誰もが聞いたことくらいはあるだろう 。 知らない方がいいこともある 。 そんな言葉を 。 それに対して誰がどう思うか , そんなことは興味はないが , 俺は最近 , 思う 。


そういうものは , きっと , 大切な人にこそ言わない方がいい 。 俺は彼女の傷付いた表情なんて見たくない 。 とでもいえば , ドラマ的になるだろうか 。



『でもね , あんまり行きすぎるとね……』






自分の命が , 相手に近づいてっちゃうんだってさ

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