I gotta …

くらんく

1.7320508

「竜ちゃん!私の相方になってよ!」


「だめだよ」


「えー、なんでー」


「なんでも」


「竜ちゃん進路希望まだ出してないんでしょ?」


「そうだよ」


「じゃあ私と一緒にお笑いでテッペン目指そうよ!」


「目指さない」


「えー、やろうよー」


「やらない」


「そこを何とかー」


「だめ」


「ケチー」


「ケチで結構」


「竜ちゃんならできると思うけどなー」


「そうだね」


「じゃあ私とお笑いをー?」


「しません」


「頑固者ー」


「そうだよ」


「昔はそんなんじゃなかったのに」


「そう……かもね」


「でも私知ってるよ。竜ちゃんは人を喜ばせるのが好きだって」


「……」


「だからお笑いで沢山の人を喜ばせようよ!」


「興味ないね」


「昔はお笑い好きだったのにー」


「昔はね」


「今は好きじゃないの?」


「好きだよ」


「じゃあやろうよ」


「でも」


「でも?」


「もっと好きなものがあるから」


「好きなものって?」


「秘密」


「えー、気になるー」


「教えない」


「絶対?」


「絶対」


「じゃあ聞かない」


「そうして」


「そのかわり一緒にお笑いをやろう!」


「やらないよ」


「目指そうよ未来のお笑いチャンピオン!」


「……」


「竜ちゃん?」


「なに」


「どうしたの?」


「なにが」


「すごく辛そうな顔してる」


「そんなことないよ」


「嘘だよ」


「嘘じゃない」


「だって、泣いてるもん」


「泣いてなんか……」


「泣いてるよ……」


「……」


「話してよ。何かあったんでしょ?」


「大したことじゃないよ」


「本当に?」


「本当」


「そう……」


「幼馴染がお笑い芸人になるなんて言い出すからおばさんが不憫で」


「思ってたより辛辣だった!」


「あかりも進路希望出してないんだろ」


「えっ、何で知ってるの?」


「俺はなんでも知ってるの」


「ふーん。じゃあ今度のテストは100点なわけだ」


「怪しまれるからそんな事しないよ」


「ホントかなー?」


「信じてないだろ」


「まーねー」


「あかりの下着の色だってわかるよ」


「当ててみなー。私はどんなセクシーなパンツ履いてるかなー」


「上下白の飾り気のないやつ」


「え!なんで!竜ちゃんのエッチ!」


「あかりはそれしか持ってないだろ」


「なんでそんなことまで知ってるの!変態!」


「何でも知ってるって言ったろ」


「本当なんだ……」


「うん」


「じゃあさ!私の将来ってどうなってるかな!」


「将来……」


「さっき言ってたでしょ、進路希望出してないって。だから――」


「だから俺から聞いてそれを書くってこと」


「そうそう。流石だねー」


「あかりの将来は……」


「将来は……?」


「……すごく元気だよ」


「参考にならない!」


「……」


「竜ちゃん教えてよー!」


「将来のことは教えられないよ」


「本当は知らないんでしょ」


「バタフライエフェクトが起こるといけないからね」


「エビフライ?」


「バタフライエフェクト。簡単に言うと未来が変わるかもしれないからダメ」


「ふーん。そういうことにしといてあげる」


「そういうことなんだよ」


「じゃあ竜ちゃん改めて」


「だめだよ」


「まだ何も言ってないよ!」


「相方にはならないよ」


「むー」


「膨れても無駄」


「じゃ、じゃあさ……」


「……」


「お笑いの相方がダメならさ……」


「……」


「その……、なんていうか……」


「……だめ、だよ」


「え……」


「だめなんだよ」


「なんで……?」


「……なんでも」


「まだ何も言ってないよ……」


「だめだ」


「私のこと嫌いになった?」


「そんなことない」


「むかし結婚しようって約束したの忘れちゃった?」


「子供のころの話だろ」


「私は今でも……!」


「……」


「今でも竜ちゃんのこと好きだよ」


「……」


「竜ちゃんは……、私のこと……、好き?」


「……好きだよ」


「それじゃあどうしてだめなの……?どうして私じゃだめなの……!?」


「だめなんだ……!」


「どうしてだめなの!」


「あかりのことが好きだからだ!」


「好き、なのに……?」


「そうだ」


「どうして」


「教えられない」


「教えてよ」


「教えられない」


「それじゃあわかんないよ」


「教えられないんだ……!」


「……」


「……」


「それは、竜ちゃんが何でも知ってるから……?」


「……」


「そう、なの……?」


「……違う」


「嘘」


「嘘じゃない」


「嘘だよ。私知ってるもん。竜ちゃんが嘘つくときの癖」


「そんなはずない」


「本当だよ」


「そんなわけない!だって前のルートでは――」


「前のルート……?」


「あ……」


「竜ちゃん……、前のルートって、何?」


「……教えられない」


「竜ちゃん最近変だもんね……」


「あ、ああ。そうだよ。俺は最近変なんだよ」


「部活辞めて勉強すごく頑張ってる」


「ああ」


「物理も勉強して文系から理系に変更しようとしてるよね」


「ああ」


「いつもボーっとしてるのに最近は物にぶつからなくなったよね」


「ああ」


「それに私と会話する時に質問しないよね。私の言うこと分かってるみたいだった」


「……ああ」


「竜ちゃん最近変だよ」


「……ああ」


「だからさ、私も変なこと聞いていい……?」


「……ああ」


「竜ちゃん」


「……」


「竜ちゃん、未来から来た?」


「……」


「……」


「教えられない」


「……そっか」


「……」


「じゃあ、もう一回聞くね……」


「……」


「私の将来はどうなってるの」


「……教えられない」


「私、死んじゃうのかな」


「……教えられない」


「……そっか」


「……」


「竜ちゃん。教えてくれて、ありがとう」


「……」


「だから泣かないで……」


「……」


「私が竜ちゃんに『相方になって』って言ったとき、竜ちゃんは無理だとか、なれないとか言わないで『だめだ』って言ったよね」


「……」


「私は将来お笑い芸人になれたのかな」


「教えられない」


「ふふっ。それじゃあハイって言ってるようなもんだよ」


「……」


「きっとお笑い芸人になったせいで私が死んじゃうんだ。だから竜ちゃんはだめだって言い続けてたんだね」


「……」


「それに私の告白を断ったのも私が死なないようになんでしょ?」


「教えられない」


「そっか。いいなー、そのルートの私。竜ちゃんの彼女になれたんだ」


「……」


「私は告白すら途中で遮られたのに」


「ゴメン……」


「絶対許さない」


「えっ!?」


「罰として未来の話を全部教えなさい!」


「だ、だめだよ」


「だめじゃないよ。だってもう竜ちゃんの秘密知っちゃったもん」


「でも――」


「バタフライエフェクト」


「……?」


「未来のことを知ったら未来が変わっちゃうかもしれないんでしょ?」


「そ、そうだけど……」


「だったら二人で考えよう。竜ちゃん一人じゃ私のことを助けられなかったんでしょ?二人ならできるかもしれないよ」


「あかり……」


「ほら、二人で考えよう。私を助けて、私と竜ちゃんが一緒にいられる方法」


「……そうだね」


「じゃあ、まずはコンビ名から!」


「お笑いはやらないよ!?」


「ケチー」


「ケチで結構」


「頑固者ー」


「そう。頑固なんだ。だからあかりを絶対に助けるよ。何回失敗しても絶対に助ける。絶対に諦めたりなんかしない」


「嬉しいこと言ってくれるね」


「本当のことだよ」


「じゃあどうやって過去に戻るの?」


「教えられない」


「ケチー」


「ケチで結構」


「頑固者ー」


――――――――

―――――

――…

……


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