第3話 実験

今俺は黒い本:グリムをテーブルの上に置き、浩司と手を握り合っている。


グリムには声が聞こえるが、グリムの声が聞こえる為には相性が有るみたいだ。

地下室の時から話しかけ続け、やっと俺と話が出来る状態になったらしい。

浩司とも話せるようになるかは、何とも言えないそうだ。

グリムの声が浩司にも聞こえる様に出来ないかと訪ねると


『お主を通して聞こえるのかもしれない。』


と言うので、試しに浩司の手を握ってみると


「本当に声が聞こえるんだな。正直、異常な状態にどうかしてしまったのかと思った。」


驚いていたが、問題なく聞こえる様になったみたいだ。

状況が状況だけに仕方が無いが、結構あぶない人と思われていたんだな。

俺が46歳というのも半信半疑なのだろう。

俺だって自分の事なのに、未だ受け入れることが出来ないのだから仕方が無い。


グリムの話だと、ここは異世界の様だ。それも魔法が存在する世界。

生前のグリムは転生について研究を行っていたそうで、その集大成が地下にあった魔法陣。

ただ、実際に作ってはみたが必要な魔力を集めるのに300年ほどかかる為、

自分の知識を魔本に写し結果を見届ける事にしたらしい。

転生される時に発生する魔力を受けて起動する様に設定されたコンピュータの様な物みたいだ。

一度起動すると、魔力を与え続ければ動き続けられるらしい。

自分が転生する予定だった為、魔本との会話は自分が出来れば良いと考え他の人間との実験は行っていなかったそうだ。


俺達は、直前の記憶と今の状態を考えると、やはり前の世界では死んだのは確実という事だ。

魂がこの世界に引き寄せられ、魂の情報に元づいて肉体が再構築されここに居るらしい。

当初の予定ではグリム自身が転生するはずだったが、グリムに近い魂の俺らが転生したのではないかと推測していた。

ただグリム自身、異世界が有るとは考えても無かったそうだ。


『儂の実験に巻き込んでしまい申し訳ない。』


と、謝るグリムに対し浩司は


「謝る必要は無い。本当で有れば死んで終わるはずだったのが、2度目の人生を送れるチャンスをくれて嬉しいよ。」


と。俺もそう思う。

グリムに感謝しても、恨む気は無い。

ただ、俺が子供の姿で転生した原因は分らないそうだ。


『推測じゃが、再構築のエネルギー不足が原因で子供の体になってしまったかもしれん。

 元々が、儂1人が若い姿で再構築する予定じゃったからな。

 いずれにせよ、転生自体が初めての試みではっきりした事は分からん。すまない。』


「そう、いちいち謝らないでいいよ。別に攻めている訳では無いから。」


『すまない。』


何度も謝るグリムに、思わず2人で笑ってしまった。

しかし、笑って体の力が抜けた。なんだかんだで、思っていた以上に緊張していたようだ。


この家は転生の研究の為 人里離れた森の中に作った研究所らしい。

村までの道は初めから無く、完全に孤立した一軒家だそうだ。


浩司とも色々と話していると、さっぱりとした性格で良い男だと思う。


浩司の様な男との生活が続いていくのか・・・

俺、別の意味で大丈夫だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る