覚醒したら世界最強の魔導錬成師でした ~錬金術や治癒をも凌駕する力ですべてを手に入れる~

長野文三郎

第1話 プロローグ


 世の中には自分ではどうしようもないことがある。

十五歳にして僕はそう悟った。

いやね、死んじゃったんだよ、事故で。

しかも誕生日にだよ。

あっという間の出来事だったから自分でもよくわからないんだけど、どうやら下校途中でトラックにかれたようだ。

気が付けば僕は長い廊下のようなところにいた。


 色彩の乏しい世界だった。

白い壁に白い天井、白い床が真っ直ぐに長く伸びている。

廊下の向こうに人がいたので、僕はそちらの方へ歩いて行った。


「お疲れ様です。……結城隼人ゆうきはやとさん」


 その男は職員室で見たような事務机の前に座り、書類を眺めながら僕の名前を呼んだ。

そう言えば教頭先生に何となく似ている。

中肉中背で特徴のないところが特に。


「ここは死後の世界です。わかりますか?」

「はあ……」


 自分が死んでしまったという自覚はあったので力なく頷いた。

どういうわけか悲しみとか現世への執着とかはなくなっている。


「貴方にはさっそく次の世界へ転生してもらいますが……あれ、途中転生か……」


 男の人はブツブツと言いながら書類をめくっている。

次の世界へ転生というのは小説や漫画で読んだように、別の世界で生まれ変わるということなのだろうか? 

でもただの転生ではなさそうだ。


「あの、途中転生というのはなんですか?」


 僕の質問に、男の人は面倒そうに書類から顔を上げた。


「急な案件でしてね、十歳の少年の肉体に転生してもらいます」

「どうしてまた?」

「複雑な事情があるのですよ。丁寧に説明していたら三日三晩かかります」

「かいつまんで言うと?」

「いろいろな人が困って、苦情が殺到します」


 大人の事情があるわけだ。

まあ僕はちっちゃな頃 から優等生、そこらへんは素直に従おうと思う。

だけど必要な情報はここで仕入れておきたい。


「えーと……あなたは神様?」


 そう訊くと男の人は小さく笑った。


「創造神のために働いてはいますが、私はシステムの一部にすぎません」


 よくわからないけど神様とかそういう存在ではないようだ。

AIみたいなものかな? 

便宜的にシステムさんと心の中で呼ぶとしよう。


 目の前にいるのが神様じゃないとわかってホッとした。

これで気兼ねなく質問をぶつけられるというものだ。

まだ書類を眺めているシステムさんに訊いてみた。


「僕はどんな世界へ行くのでしょうか? それとどんな人間に生まれ変わるのでしょう?」


 システムさんはニヤリと笑う。

その表情が人間臭くてドキッとした。


「あなたの好きな剣と魔法の世界ですよ」


 おお! 僕はゲームやアニメ、ラノベなんかが大好きだ。

異世界転生はちょっと憧れていたシチュエーションである。


「まあ、貴方が行くのはエルドラハという砂漠の収容施設ですけど」

「収容施設!?」


 なんだか雲行きがあやしくなってきたぞ……。


「安心してください。収容施設といっても普通の町 と変わりありません。ただ町の外に出られないだけです」

「どうして町から出られないんですか?」

「何千キロもある砂漠のど真ん中にあるからですよ」


 サハラ砂漠の中にあるオアシスみたいなところだろうか? 

でも収容施設とオアシスでは全然違うぞ。


「エルドラハでしたっけ? そこで僕は何をすればいいんですか?」

「エルドラハの地下にはダンジョンが広がっていて、そこには魔力が結晶化したものが落ちています。それを拾い集めて生活してください」

「他には?」

「他に、と言われましても……、人生の目的はそれぞれですから」


 たしかにそんな気はする。

次の質問をしてみよう。

これもかなり大切なことだ。


「十歳の少年の肉体に転生するという話ですが、どんな子なんですか?」


 健康状態や容姿、親の財産で人生は大きく変動する。

どうせならイージーモードがいい。


「超が付く銀髪の美少年です。親はグランベル王国という国の伯爵です」


 思わずガッツポーズをとってしまった。

これぞ、ザ・イージーモード! 

フツメンから超美少年へのランクアップ。

しかも親は貴族。

理想的な異世界転生じゃないか!


「といってもグランベル王国はエブラダ帝国に滅ぼされましたけどね。貴方の両親は砂漠の収容所に送られ、貴方はそこで生まれるのです」


 おいおい、雲行きがあやしいどころじゃない、嵐になっていますよ!? 

イージーモードどころか、かなりのハードモードの予感がしてきた。

だけどまだ希望を捨ててはダメだ。

異世界転生といえば恒例のアレがあるじゃないか。

そう、チート能力というやつだ。

転生するにあたり、常人とは異なる力が得られたりするアレですよ。


「えー……僕は特別な能力を手に入れたりしますか……?」


 おそるおそる尋ねると、システムさんはしっかりと頷いてくれた。


「貴方は魔導錬成師という特別な固有ジョブに就きます。与えられるスキルも強力なものが多いですよ」

「それを聞いて安心しました! よかったー。説明を聞いたときはどうなるかと思いましたけど、そんな力があるのなら安心ですね」

「はい。ただ、固有ジョブが開花するのは貴方の魂が現地に馴染む三年後です。それまでに死なないようにたゆまぬ努力をお願いします。貴方が死ぬと次の候補者を送り込まないといけませんので」


 やっぱりハリケーンが吹き荒れている!


「固有ジョブに就くまでもう少し早くなりませんか?」

「無理です」


 あっさり!?


「それから、貴方が送り込まれる段階で現地の少年、セラ・ノキアは重力の呪いにかかっています」

「なんですかそれは?」

「ダンジョンのトラップに引っかかったのですよ。日増しに体が重くなる呪いです」

「ちょっと待ってください!」

「以上で説明は終了です」


 無視ですか!?


「収容所で呪いとかヤバ過ぎじゃないですか」

「それでは転生の手続きに入ります」


 システムさんはクールに僕をスルーした。

そしておもむろに手を伸ばして印鑑を取り上げる。


「どうか話を聞いてください!」


 最後のお願いもむなしく、机の上に広げられた書類にバチコーンと印鑑が押される。

その瞬間すべての照明が消されたかのように世界は暗転した。

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