終わらせなかった恋だから
緋雪
第1話 応援
「俺さ、
「沙知が沢山辛い思いをしてきたこと知ってるし、俺のことホントに助けてくれたから、幸せにしてやりたいんだよね。」
「せっかく『サチ』って名前なんですもんね。幸せにならないと嘘ですよね。」
「松下、
「あっ、森山さん、これです。確認お願いします。」
祐也と彩乃は、社内では仕事のことしか話さない。が、営業車に乗って出かけると、世間話や相談話になるのが常だった。
「そんなさあ、仕事の話ばっかりしてるわけないよな、どこのチームも。」
祐也は笑う。
「伊藤、長瀬ペアなんて、社内でもイチャイチャじゃん。わかりやすいよなあ。」
「あはは。でも、森山さんと私は何もありませんよ?」
彩乃は笑いながら、運転する祐也にガムを渡した。「お、サンキュ」と受け取り、
「まあ、俺に婚約者がいるから、疑われてもいないんだろうな。」
祐也はそう言った。
「沙知さんとはいつ結婚を?」
「そうだなぁ。再来月かな。」
「え?式挙げないんですか?」
「式に金かけてる余裕あるなら、貯金だよね、って二人で相談してさ。」
「そうなんですね…。」
「ん?なんか不満が?」
「いえ、沙知さんのウェディングドレス見たかったなあ…って。」
「そっか。松下はウェディングドレス着たい派なんだな。」
祐也は笑った。
「森山さん、沙知さんのこと、幸せにしてあげて下さいね。」
「そうだな…
依子は、祐也の元妻だった女性だ。5年ほど前に、交通事故で亡くなった。二人が結婚してまだ半年しか経っていない頃だった。祐也は、それから、恋愛とは無関係の所で生きてきた。ひたすら、仕事のことだけ考えてきた。
それを見守り、救ったのが、沙知だった。祐也は彼女を幸せにしなければと、依子の分まで幸せにしなければ、と思っていた。
一方、彩乃は、祐也を応援しながら、自分にも祐也と沙知のような素敵な出逢いがあればいいのに、と思っていた。仕事を覚え、数字を達成するのに必死で、恋愛だなんて、そんな余裕はなかったけれど。
「ねえ、森山さん、結婚式しないってホント?」
同期入社の
「ええー?ホントに?」
久々に同期三人で飲んでいた。
「えー、何着て行こう?とか思ってたのに〜。」
芽衣子が焼き鳥をくるくる回しながら言う。香織も、ビールを一口、
「なーんだ。いい人見つかんないかな〜と思ってたのに。」
ガッカリしたように言った。
「芽衣子は彼氏いるからいいよね〜、あたしなんか『恋愛』の『れ』の字もありませんよ。香織だってモテまくりじゃん。」
「はじまった、はじまった、彩乃のボヤき癖。」
二人は大笑いした。
「どこかに落ちてないかねえ、運命の人。」
ため息をつきながら、彩乃はグラスに残ったレモンサワーを飲み干した。
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