シュレディンガー飯
玄武堂 孝
玉ねぎとサバ味噌缶のサラダ
この物語は50歳オーバーのオヤヂ兄弟の飯の物語だ。
最初の1行で大部分の人がブラウザバックを選択したと思う。
だから読者の気を引く設定が必要だと思った。
ツベの人気動画と言えば『動物』だ。
なのでアバターとして動物をチョイスさせてもらう。
兄は犬気質、名前は『秋田犬』。
単に秋田在住の犬で血統などない。
由緒正しい水飲み百姓の血筋で地元の会社で社畜として生きている。
外見は『のらくろ』のような黒メインの雑種を想像して欲しい、
弟は猫気質、名前は『シュレディンガー猫』。
最も猫につけてはいけない名前だ。
だがこれを選んだ理由は『かっこいい』からだ!
不治の病『中2病』を患い自宅で療養している。
内面同様の真っ黒な黒猫を想像して欲しい。
この弟猫が自分であり、食事担当なのだ。
この物語はグルメ小説という体裁をとっているがグルメを否定する。
グルメというのは美味い飯、突き詰めていけば糖と油に由来する。
兄犬は糖尿病、弟猫は高血圧という現実にグルメなどという幻想の入り込む余地はない。
そして『愛が最高のスパイス』などという謎補正は一切ない。
生まれた瞬間から兄弟という残酷な運命に選択の余地はない。
恋人は互いに愛を感じてつがいになったのかもしれないが兄弟には愛なんて感情はない。
昨今社会現象になったアニメのような兄弟愛など現実にはありえない。
俺は長男だから我慢出来たけど次男だったら我慢出来なかった。
否である!
現実の長男は兄弟間では暴君であり我慢とは程遠い存在だ。
弟は我慢させられる存在だと断言出来る。
そして我慢させられる存在として家事担当の主婦も含まれる。
これはかつて愛で結ばれたが今はそれが幻想だと理解している御夫人に捧げる『時短料理』の小説だ。
昼のワイドショーでとある人物の食事風景が映し出されていた。
かつてバブル時代に贅沢を極めた男の夕食風景。
はじけたバブルですべてを失ったという自分と同じような年の男。
借金取りにいまだに追われ続け、安いビジネスホテルを転々としているという。
そんな男はコンビニの袋から玉ねぎをとりだしスライサーで薄切りにする。
その上から鯖缶を開け投入。
「これが私の夕食です」
頭の薄くなった初老の男が自虐気味に言った。
テレビ的には『同情』を演出しようとしたのだろう。
かつて贅沢の頂点を極めた男がこんな貧しい夕食しか食べられない現実。
でもさ、誰もがそう思うと考えるのは幻想だ。
テーブルには缶ビールが2本あった。
コスパ的にはありえない。
サバ缶1つと缶ビール2本で約500円だ。
一般家庭の一人当たりの夕食が500円だと豪華な食事が作れる。
人数がいないと1人あたりのコストを下げられないが少なくともチェーン店の弁当は1コインで買える。
つまりこのオヤジは酒を飲みたいという願望はあるかもしれないがこれが『美味い』と思ってチョイスしたのだ!
あえて玉ねぎを水にさらさないで辛さを残した事からこだわりがあるのだと自分は読み取った。
早速作ってみる。
サバ缶は味噌がお勧め。
調味料が必要ないからだ。
水煮を使うのならマヨネーズ味が無難。
価格も1缶100円程度とリーズナブルなのが嬉しい。
玉ねぎの下ごしらえはこうだ。
玉ねぎを包丁やスライサーで薄く切る。
台所の三角コーナーで使うネットに入れ、塩を振る。
ネットは不織布タイプがお勧め、
当然ネットは未使用の物だ。
いくら自分が腹黒いとはいえ衛生面には気を配る。
なぜなら使用済みを使って兄犬が病気になったら看病させられるのは自分だからだ。
奥様達もそれは避けたほうがいいと思う。
調理終了後のネットは三角コーナーに使用するのがいいだろう。
ネットに入れた玉ねぎを流水で揉み洗いすると辛みが抜ける。
辛いのが好みだというなら単に水にさらすだけでもいい。
…と、書いておいてなんだが弟猫は面倒なのでしない。
スーパーのサラダ売り場で『オニオンサラダ』を購入する。
価格は100円、2人で食べるには丁度いい。
ちょこっとレタスなんかも入っているので見栄えもグッドだ。
サバ缶をほぐしスライスした玉ねぎと和える。
個人的にはサバをほぐし過ぎないのが好き。
味噌味の汁ごと投入する。
これにカットしたトマトやカイワレなどを加えてもいい。
どうしても生野菜が不足気味になる男兄弟の食事だからね。
冷凍刻みネギを散らすと彩りが良くなる。
冷凍のネギは薬味としては微妙だがアクセントとしてはいい感じだ。
何種類か試したがセブンイレブンの物がお勧め。
セブンイレブンの商品は良い物が多いがコスパ的に高いという印象がある。
だが値段は150円程度とそこまで高いという印象はない。
2人家庭では極端に使用する物でもないので大きすぎないのもポイント高し。
…さて、サバ味噌缶と玉ねぎのサラダは所詮副菜だ。
白飯・汁物・主菜1・副菜2が当家の基本。
そしてこのサラダは味が濃い。
なのでほかの料理は味の薄い物を選択する必要があると思う。
主菜と汁物には湯豆腐を選択。
単に豆腐が入っているだけではない。
獣神ライガー風湯豆腐。
顆粒昆布ダシに豆腐・キャベツ・しいたけ:長ネギなどの具をたくさん入れた湯豆腐だ。
以前テレビで作っていたのを真似て我が家でも実装した。
ヲタクであり、趣味人でもある獣神ライガーは料理も出来る。
ヲタクである自分にとって尊敬できる生き神様だ。
もう1つの副菜には蒸しモヤシのワカメ和え。
ゴマ油でモヤシを炒めそこから出た水分で乾燥ワカメを戻す。
いりごま追加で出来る簡単副菜だ。
モヤシは1袋20円程度なのでコスパ最強。
シュレディンガー飯にはコンセプトがある。
コスパ=栄養価>>>>>(超えられない壁)>>>>>味。
コスパには調理時間も含まれる。
味はそこそこでいいのだ。
生活習慣病を抱える人間が必要以上に味にこだわるとコスパがとことん悪くなる。
人生の終活の入り口に到達した人間にグルメなんて必要ないと自分は思う。
少なくとも栄養価に関しては問題ないはずだ。
よく摂取が推奨されている魚・野菜・豆・きのこ類・海藻がとれるバランスのいい食事だ。
「飯!」
声をかけると部屋から駄犬が現れる。
完璧な夕飯を見て一言。
「…肉じゃないの?」
殴りてぇ。
俺は次男だから我慢出来たけど長男だったら我慢出来なかった。
晩飯を作らせておいて『肉』がないと文句を言うのが長男。
自分の思いに共感する主婦は多いはずだ。
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【 閲覧ありがとうございました 】
シュレディンガー飯 玄武堂 孝 @genbudoh500
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