第2話 最初が肝心。初バトル!

 人は時に迷い、傷つき、悩むことがある。

 そんな時どうすればいいだろう?

 どうしようもなくなってしまった時どうすればいいだろう?

 答えは、北極星。

 北極星を目指して移動すればいい。

 即ち、北へ、北へ。

 ……ならば、その逆なれば。

 確信を持ち、夢や希望に溢れ、高い理想を持って情熱を燃やしている時には?

 即ち、南、南へ。


 憧れのスキルバトラーとして成りあがっていくため、ブルーキッドと幼馴染のエメラルダの2人は、街の南、サウスタウンにあるスキルバトルリングに向かっている。

 溢れるドキドキ、溢れるワクワク。きっと一生を通じても忘れられないであろう胸いっぱいの夢を抱えて、ブルーキッドはスキルバトルリングを目指す。

 ……そして、到着した。


 スキルバトルリング……直径四方50メートルほどの四角い石畳のリング。

 その周りには観客席があり、沢山の観客達がワイワイとバトル観戦をしている。

 今は午後4時くらいの時間帯で、学校帰りの学生達や暇な会社員、余暇を持て余している無職の人達などなど、多様な人種で観客席がごった返している。

 スキルバトルはこの時代、国民的、いや世界的にみても一番人気のある興行となっていて、広く周知されている競技である。

 スキルバトルの競技をする選手をスキルバトラーと呼び、そのランクはFランクからSSSランクまでの9段階のランクで分けられており、カードの有効所有枚数によって参加できるランクが決められる。

 ブルーキッドはカードを1枚しか持っていないので必然的にFランク戦からのスタートになる。


「さぁさぁ! 挑戦者の方はいませんかっ!? リングに立つは、通算成績31勝18敗を誇るジャガーン選手です! 初心者狩りの異名を持つジャガーン選手ですが、ここは1つ勇気を奮って参加する選手にでてきて頂きたいっ! さぁさぁ」

 先ほどから、実況兼レフリーの黒服スーツ姿の男が、マイク片手に盛んに挑戦者を煽っている。

 が、ジャガーンと呼ばれる褐色肌でスキンヘッドの大男を前にして、選手控え側にいる選手達は、壁に隠れたままで出てこようとはしなかった。

 スキルバトルリングは、四方の内、一面だけが壁で隔てられており、その裏側に選手控室があるのだが、数十人もいる選手の内、誰一人としてジャガーンと戦いたいという者はいなかった。

 それもその筈、ジャガーンは本来なら所有カード枚数で言えばBランクの選手で、使用カード枚数を自ら制限して、格下のFランク戦に参加している初心者狩りニュービーキラーの異名を持つ、熟練のスキルバトラーだったからだ。

 そんなことをしていれば、確かにスキルバトルにおいては優位に立てるが、卑劣漢として観客達から断罪されることになる。

 案の定、リングに誇らしげに立つジャガーンに対して観客達は、罵詈雑言を浴びせかけている。


「フッ、実力のない負け犬達ほどよく吠えおるわ。このジャガーン様が気に食わないなら、リングに立って向かってくるがいい。存分に相手をしてやる」

 自信満々にジャガーンが語る。

「このスキル『100連パンチ』と『ファイヤブレス』。遠近両面とも攻撃できるこのスキル構成に隙はない。Fランクに留まる限り、俺の無双伝説が続くのだ。フハハ」

 聞かれてもいないのに、ジャガーンは朗々と語り続ける。


「さぁさぁ! どなたか声をあげて頂けないでしょうか? このままだと試合が成立しないまま時間だけが過ぎていくことになります。制限時間を過ぎれば、AIロボットとの模擬戦闘に突入しますが、それは私にとっても観客の皆さまにとっても避けたい事態でありますっ。どなたかジャガーン選手と戦ってください」

「いいよ。僕が戦う」


「えっ?」

 思わず、レフリーの黒服男が声のした方を見やる。

 が、誰もいない。

「ここ、ここ」

 レフリーが目線を下げる。と、いた。

 まだ年の頃10歳くらいの少年……ブルーキッドだ。

 選手専用の入り口を抜けて、控室も通り、このスキルバトルリングの上に上がってきたのである。


「バカ―ッ! ブルーキッド、やめとけー!! そいつは初心者狩りだぞ! 相手が悪すぎるっ!!」

 観客席からひと際大きな声がブルーキッド達の耳に届く。

 3バカトリオのボスであるアードンの声であった。

「だいじょうぶ」

 ブルーキッドは、親指を立ててアードンに応えて、ジャガーン選手と相対した。


「ふっふっふ。小僧。お仲間の言う通りやめといた方がいいんじゃないか? 見たところ子供にしか見えんが、俺は現役バリバリの38歳、だが容赦はせんぞ」

「初参戦です。よろしくお願いします」

 レフリーが、ブルーキッドに参加資格があるのかどうか、運営に確認している間、ジャガーン選手とブルーキッドが語り合っている。

「今どんな気分だ? チビってママのところに帰るなら今の内だぞ」

「ドキドキ、ワクワクしてますっ」

「ムッ、上等だ。捻り潰してやる」


「はいっ、ただいま確認が取れました。ブルーキッド選手に参加資格アリですっ! 時間も押してますので、早速試合開始とします。……それでは試合……開始っ!!!」

 黒服のレフリーの合図とともに、試合開始の銅鑼が高らかに鳴らされる。

 それがあまりに大きな音だったのと、開始と同時に観客席から凄まじい歓声が届いたので、一瞬、ブルーキッドは委縮してしまう。

 ――その隙をジャガーンは逃さなかった。


「――スキル『100連パンチ』」

 ☆☆☆三ツ星スキルであるジャガーンご自慢の『100連パンチ』。

 その名の通り、100発のパンチを同時的に発射して速さのあまり残像がいくつも相手に襲いかかる、100撃必殺の打撃スキルだ。

 100発のパンチが一挙にブルーキッドの身体に叩き込まれ、ブルーキッドは勢いよく吹っ飛び、強かに身体をリングの壁に打ち付けられた。

「グハッ」

 思わず、吐いたような声がブルーキッドの口から洩れる。


「ック。運がよかったな。方向が違ってたなら、今のでリングアウトだった……」

 そう言いながら、ジャガーンは再び100連パンチを放とうと間合いを詰めていく。


「言い忘れていましたが、基本ルールとしてダウンして10カウント、ないし、リングアウトで負けとなります。各位ご注意くださいっ」

 3カウントで立ち上がったブルーキッドに促すように、レフリーがアナウンスをする。


「スキル『足元返し』」

「スキル『100連パンチ』」

 ほぼ同時に両者がスキルを発動する。

 一瞬速かった『足元返し』が発動し、ジャガーンは盛大にすっころぶ。

「ギャンッ!!?」

 みっともなく悲鳴をあげて、ジャガーンは仰向けになり、誰もいない上空に向かて『100連パンチ』を繰り出す。

 ジャガーンはすぐ立ち上がってくる。再び100連パンチを繰り出されないようにブルーキッドは間合いをとるが……。


「グギャ……アア……アアア………」

 何故か、悶絶したままジャガーンは立ち上がれないでいた。

 なにか激痛が走っているのかの如く、腰のあたりを抑えながら、脂汗をかいている。


「持病の腰痛がっ……ギブアップ」

「えー----っ!!!!」


 レフリーは驚くが、なにかのギャグではなかったことを察知して、試合終了を告げる。


「ギブアップにより、ブルーキッド選手の勝利ですっ!」

「わーっ! やったあ!」

 固唾を飲んで、選手控室から見守っていたエメラルダが喜び勇んでブルーキッドの元に駆けつける。

「勝っちゃった」

「やったね、ラッキー! さぁ、ジャガーンから好きなカード一枚貰いなよ。勝者の特権!」


 ――ジャガーンの使用していたスキルカードは2枚。

 一枚は☆☆☆スキル『100連パンチ』。

 もう一枚は☆スキル『ファイヤブレス』。

 ブルーキッドは迷いなく『100連パンチ』のスキルをいただいた。


 興奮冷めやらぬ中、スキルバトルリング会場から出ると、例の3バカトリオこと、ウドン、グドン、アードンが待ち構えていた。


「なによ、アンタ達。またお仕置きされたいの?」

 睨みつけるエメラルダに対して、イエイエとんでもないと手振りで返しつつ、アードンがブルーキッドの手を取った。

 その眼は、キラキラとしている。


「スゴイじゃないか、ブルーキッド! 見直したぜ! オマエならきっとスキルバトルでテッペン取れるぜ! 期待してるし、応援してる! 何かあったらなんでもオレ達に言いつけてくれ! これからもよろしくな!」

 そう言うだけ言って、手をブンブン振って3人共々踵を返して去っていった。

 ……見事な掌返し。

 だが、気分はわるくない。

 ブルーキッドは少し嬉しいような恥ずかしいような気分になって、エヘヘと笑った。

「ホント調子いいんだから」

 3バカに対して呆れつつも、エメラルダもフフフと笑う。


 ……スキルバトル初勝利!

 半分相手が自滅したようなラッキーな勝利だけど、運も実力の内。

 それにしても、スゴイ観客、スゴイ歓声だった。

 こんなスポットライトを浴びる日々が明日からも続くなんて、ホント夢のようだ。

 舞い上がりそうな気分に煽られるまま、羽のように軽い足取りで、ブルーキッドとエメラルダの2人は帰宅していった。


 ……明日からまた新たなる戦いがはじまる!

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