スキルバトル!
空希果実
第1話 目覚めよ少年! スキルバトラーの道を進め
スキルバトル……西暦2200年代から登場した新型カードゲームである。
カードには☆~☆☆☆☆☆☆☆までのレアリティがあり、基本的にレアリティの高いカードほど強い。
カードはナノマシンにより構成されており、カードとスキルバトラーが融合することで、スキルバトラーはカード特有の能力を発揮することができる。
そして、各地域に設置されているスキルバトルリング。
スキルバトラー達は所有しているカードを賭けてスキルバトルリングに集う。
バトルして勝った方が負けた相手からカードを一枚いただくことができるのだ。
夢とプライドとカードを賭けて、スキルバトラー達は今日も戦いの舞台にあがる。
――西暦2222年
夜空に輝けるピスケスとレオの星座のちょうど中間点から、キラめく業火があがった。
それは……隕石だ!
隕石は大気圏での摩擦熱に身を焦がしながら、激しく発火している。
ゴオオオオオオオオオッという音の響き渡る速度を超えて、隕石は凄まじい超音速で竹藪に墜落していく。
――ズドンッ!
竹藪の竹や藪を幾つかなぎ倒し、けたたましい音を立てて地面に深々と隕石はめり込んで、静止した。
そこからはシューシューと蒸気が舞い上がっている。
何事か!?
と思った竹藪の持ち主が家から飛び出てくる。
空は暗く星々と月が瞬いている。
慌ててスマートフォンスカウターをライトオンにすると、家主が頭に装着しているスカウターから暗がりの竹藪へと光が放たれる。
暗がりに潜んでいた羽虫たちがバッと飛び交い乱舞していく。その中を家主はかき分け、竹藪の奧へと進んでいった……。
……それから10年の時が流れた。
――西暦2232年。
主人公・ブルーキッド10歳。
「お母さんっ! ただいま!」
家の近くの竹藪の脇を駆け抜け、ブルーキッドは帰宅の挨拶をした。
「ゴホゴホッ、おかえりブルー……」
ブルーキッドの母親……グリーンツリーはベッドから起き上がり、ほつれた髪の毛を整えて、息子を出迎えた。
「お母さん、今日は調子はどう?」
長く難病に犯され、病床の身にあるグリーンツリーをブルーキッドは気遣う。
「だいぶいいみたい。……帰ってきてさっそくで悪いんだけど、お薬がそろそろなくなりそうだから、病院から貰ってきてくれるかしら?」
「うん、いいよ」
母親は咳き込む口を手で押さえながら、お金を取りにいった。
「ゴホゴホッ……これ、薬代ね。大金だから失くさないようにね」
そういって、母親はブルーキッドにお金を手渡す。
「だいじょうぶ! 行ってきます!」
ブルーキッドは学生かばんを自分の部屋の中に放り投げて、街中へと向かっていった。
グリーンツリーはその様子を見送った後、力ない足取りでまた自身のベットへと戻って、また静かに寝込んだ。微かな死の予感と共に
『SSSランク決定戦開催! 賞金2000億マネー!!!』
快晴の青空へ向けて高々とバルーンが上がっている。
街中に到着したブルーキッドは、そのバルーンを見上げて、目をキラキラさせる。
SSSランク! 2000億マネー! なんてスゴイんだろう!!
もし自分がSSSランクのスキルバトラーになれたら! どんなにスゴイんだろう!? スゴイッ! スゴイッ! 世の中こんなスゴイ人がいるんだっ! ……いつか、自分だって……。
と、期待で胸が膨らんでいると、いつの間にやらスキルバトルショップの前に到着していた。スキルバトルショップはある程度以上に大きな街ならば、必ず一軒以上は設置されているスキルバトルに関する専門ショップで、スキルバトルのカードはここで購入することになっている。
『☆~☆☆☆カードガチャ! なんと一回破格の30万マネー!!!』
「30万マネー!!」
立て看板の文字を読んで、思わずブルーキッドは叫んでしまった。
高いからではない。その逆、安いからだった。
通常☆カードで最低額100万円からする相場からすると確かに目を疑うべき破格ではある。
こんなチャンスは2度と無いかも知れない。
思わず、ブルーキッドは母から預かった薬代を確認してしまう。
……6000マネー。とてもじゃないけど、ガチャを回せる額には届かない。
ブルーキッドはガックリとして、項垂れる。
「おいっ! こんなところに貧乏人がいるぜっ! くせぇくせぇ!!」
「ホントだっ! キャハハ! ブルーキッド! この母子家庭の貧乏人!」
「お前のかーちゃん病気持ちー! 早く一緒に死ねーっ!! ギャハハハハハッ」
項垂れてるブルーキッドに対して不意に罵声が降り注ぐ。
よく知っている声だ。嫌な奴らに出会ってしまった。
ブルーキッドはふぅ、とため息を一つついた。
……コイツラは、ウドン、グドン、アードンという名前の三人組で、いつも三人でつるんでは自分達より弱い者に嫌がらせをしている学校の上級生だ。
アードンというヤツがボスで、ウドンとグドンが子分ということになっていて、アードンが三人の中では一番強くて身体も2周りほど大きい。
そのアードンがブルーキッドの手にしている封筒を指さし、威圧的な態度で問いかけてきた。
「おい、貧乏人! その封筒の中身はなんだ?」
「お前には関係ないよ」
「なんだとっ!?」
アードンが凄むと、ウドンとグドンが呼応して睨みつけながらにじり寄り威圧してくる。
「……お母さんの薬代だよ。……じゃあ」
「ふんっ、薬代か。いいこと教えてやるよ。オマエのかーちゃんの病気は絶対に治らないぜ。医者は適当な薬渡して薬漬けにして金巻き上げてるだけだ。騙されてるんだよお前ん家は」
「……なんだと!」
あまりにもな物言いにブルーキッドは気を失いそうなほど激しく怒った。
「藪医者の都合のいいように金使うよりは、俺達のが有意義に金を使えるぜ。だから、その金ぜんぶ寄こしな。ヒッヒ」
そう言ってアードンはブルーキッドの封筒へ手を伸ばしてきた。
……ッツ。
思わずブルーキッドはアードンの顔面を強かに殴った。
ボコォという打撃音がして、アードンはその巨体をのけぞらせる。
のけぞっていたアードンの眼が鋭く光り、ブルーキッドを射抜く。
――反撃で殴られる! と思ったブルーキッドは身を守る態勢を取るが、意外にもアードンはニヤリと笑みを浮かべた。
「ヒッヒッヒ。やっちまったなぁ、ブルーキッドよ。こりゃもう徹底的に
アードンにうながされて、ウドンとグドンがブルーキッドを押さえつける。
ブルーキッドは身をジタバタさせて逃れようとするが、上級生2人がかりで押さえつけられては敵わない。
「まず、お礼代わりの一発目だ」
アードンはそう言うと、強烈なボディブローをブルーキッドの腹にお見舞いした。
「グハッ」
鈍い痛みがブルーキッドに走り、怒りの念は一瞬で消え失せ、代わりに恐怖心が膨らんでいく。
「おいおい、ひょっとしてビビッちまったのかい。ブルーキッドさんよぉ。こいつは笑いもんだ。地獄はこっから始まるっつーのによ。ヒッヒ」
アードンが狂笑をあげながらブルーキッドに拳を打ちすえていく。
……30分後。
身体中はアザだらけ、顔面は殴られ過ぎて赤に青に膨れ上がったブルーキッドが独り横たわっていた。
もちろん、母親の薬代は巻き上げられ、手元には1マネーも残ってない。
見かねたスキルバトル屋の店主が、ブルーキッドに声をかけた。
「商売の邪魔だから、どっか別のとこ行ってくれ」
冷たく言い放たれ、溢れてくる涙をこらえながら、ブルーキッドは立ち上がり、家路に着いた。
快晴だった空は、いつの間にか曇りだして、今にも雨が降りそうな空模様に変容していた。
(元はと言えば、僕が悪いんだ……お母さんに貰ったお金を確かめるような真似をしたから……ゴメン、お母さん、ゴメン………ゴメン)
自戒の念に駆られつつ、ヨロヨロとした足取りでブルーキッドは家路に着いた。
「お母さん、ゴメン。お金取られちゃった」
泣き出しそうな声で、ブルーキッドは母親に事実を伝えた。
……が、母親の反応がない。
ベットに横たわったまま動かないのだ。
嫌な予感がしたブルーキッドは慌てて母親の元に駆け寄る。
息は……ある。だが、昏睡状態で薄っすらと全身汗ばんでいて苦しそうだ。
どうすればいいのか、ブルーキッドがあたふたとしていると……。
「頓服の薬、ちょうだい」
目をつむったまま、苦しそうに母親がブルーキッドに指示をだす。
「頓服の薬、もってくる」
そして、ブルーキッドは頓服の薬を母親に手渡す。
母親……グリーンツリーは震える手で頓服の薬を飲み、水を飲んで薬を体内に流し込むと、瞬きする間に再び昏睡状態になった。
しばらくの間、ブルーキッドは母親を見守っていたが、息が安定してきて表情が和らいだのを確認して、再び外へ向かうことにした。
行く宛はとくにない。お金を取られてしまって母親に申し訳なくなって、いたたまれなくなり、気を紛らわせるために外に出るのであった。
家の玄関を抜けて、近くの竹藪の中に向かう。
殴られて膨れ上がった顔を竹の葉が切りつけてくるが、それにも構わず竹藪の奧へとブルーキッドは進んでいく。
ふと、気付くと見知らぬ風景。
八方見渡しても竹藪しかないところに辿りつく。
こんな場所あったっけ?
と、ブルーキッドは訝しむが、もういいや、いっそこのまま消えてしまいたい。
なんていう気持ちがムクムクと沸き上がり、自暴自棄の加速するままに竹藪の中をどんどんと進んでいく。
……と。
大岩が見えた。
その大岩の上には小柄な老人が座って佇んでいる。
なんだこの老人? この辺じゃ見かけたことない。はじめて見る人だ。
ブルーキッドは不審に思いつつも、老人と目線を合わせた。
「目覚めよ少年」
「……はい?」
いきなり、なんの挨拶もなく、目覚めよと老人は語りかけてきた。
「よいか、少年。お主には特別な力がある。特別な才能がある。だからこそ、これを託そう」
「……はい?」
訳が分からないと思いつつも、そんなことお構いなしに、老人は大岩から降りてくると、一枚のカードをブルーキッドに手渡した。
……これは………ひょっとして!?
ブルーキッドがカードを確認すると、それはやはり、なんと、スキルバトルのカードであった。スキルバトルカード専用の紋様が刻まれている。しかし、星の数を確認しても???としか記載されてない、不思議なカードであった。
「これ、もらっていいんですかっ!?」
ブルーキッドが老人の方を見たが、その時にはもう老人の姿はどこにもなかった。
不思議な面持ちで、ブルーキッドが竹藪から出てきて、家に戻ろうとしている。
と、同い年くらいの女の子の声が聞こえてきた。
幼馴染のエメラルダの声であった。
「ブルー! もう! どこいってたの!? 探したんだから」
「エメラルダ……それが」
ブルーキッドはスキルバトルのカードを手に入れたことを伝えようとするが、それより先に嬉しい知らせをエメラルダの口から伝えられることになった。
「あの3バカからお母さんの薬代取り返して、ついでに病院で薬貰ってきたから。――はい」
エメラルダは強い。腕っぷしでいうなら、学校で一番強いくらいだ。
当然3バカトリオなど目ではなく、軽くボコして薬を届けてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
薬を受け取り、ホッと一息ついて、ブルーキッドとエメラルダは笑顔で通じ合った。
ちょうど、母親も薬が効いて目を覚ましたのか、微笑みながら2人へと歩み寄ってくる。
「……で、そのお爺さんがくれたの? カード。信じられないけど、試してみるしかないね。フュージョンしてみなよ……カードと」
エメラルダにうながされ、手に汗握りつつブルーキッドはカードとフュージョンしてみることにした。
「カード・フュージョン!」
◇◆◇ 解説 ◇◆◇
カード・フュージョンとは……所有しているスキルバトルカードはナノマシンで構成されており、所有者のカード・フュージョンという掛け声と共にカードはナノレベルで分解され、所有者の身体へと浸透し、ナノマシンの作用でカード特有の能力を発動可能になる。なお、この時の副作用として、打撲程度の傷なら修復し体力も回復するようになっている。
カード・オープンとは……所有し、フュージョンしたカードのレアリティやスキルの内容などを確認することが可能になる。
◇◆◇ 解説おわり ◇◆◇
カード・フュージョンと唱えると、カードはブルーキッドの掌から吸い込まれていき、カードとブルーキッドは融合していく。
何故か知らないが、殴られていた傷もみるみる内に回復していき、ブルーキッドの膨れ上がった顔は端正なそれへとキレイに修復されていった。
「すごい。傷が治っている……スキルバトルカードってやっぱスゴイんだ」
エメラルダが驚いていると、ブルーキッドはそれに構う余裕はなく。
「カード・オープン!」
と唱えた。
上空に向けている右手の掌からホログラムのカード映像が浮かび上がり、やはりそこにもレアリティは???と記してある。
そして、スキル名は……『足元返し』
足元返し!? ……スキル説明欄を読んでみると、相手の足元を返して転ばせる。
……と、書かれている。
「なんか、強いのか弱いのかよくわからないスキルね。でも、試すことはできないし、ケガも何故か知らないけど治ってるし、早速スキルバトルリングにあがってみる? ……いいですよね、グリーンツリーさん?」
16歳以下の子供がスキルバトルに参加するには、親の承諾が必要になる。
10歳位の子供でもスキルバトルに参加するケースはあるが、この時代の常識に照らし合わせるとまだ時期尚早という感は否めなかった。
それで、母親であるグリーンツリーも懸念を示そうとしたが……。
「やった! 夢がいきなり叶ったっ!!! やったああああっ!!!」
喜色満面の息子、ブルーキッドの顔を見て、思い直した。
「いいわよ。いってらっしゃい。思いっきりやってきなさいな」
「うん。ありがとう! いってくる!」
「あ、私も一緒にいくからね! レッツゴー!」
かくして、ブルーキッドのスキルバトラーへの道がはじまることになった。
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