伝わったこと、伝えたいこと

俺は遥との話を終え、しばらく一人で居ると空が来た。


「風呂の時間だぞ」


「悪いな。わざわざ着替えとか持ってきてもらっちゃって」


ビニール袋に着替えやタオルをまとめてリュックの横に置いておいたのを空が持ってきてくれた


「行くか」


「おう」


今は何も聞かないでくれてる空の優しさに甘えよう。


でも、空には今日あったことと、いずれ出すであろう遥の答えを自分の口から伝えたい




「意外と広いな」


もうすでに早めに来たクラスメイト達がシャワーや入浴をしていた。風呂の時間はあまり長く無いので少し急ぐ。


「でさ、遥に俺の気持ちは伝えたんだけど」


「おう」


「なんやかんやあって保留だって」


「そっか」


やっぱり俺の口から出ること以上のことは聞かないでくれている。まだ答えが出てないとは言え、俺自身心の整理が着いてないので、そういう対応は助かる。


「遥は恋したこと無いから、今自分が抱いてる気持ちが恋なのかわからないんだって」


「それは難しいな。俺とお前の恋愛観が違うように、お前と遥の恋愛観も違うだろうから、結局のところ遥がこれは恋じゃ無いと言ってしまえばもうそれが答えだもんな。」


恋には教科書が無い。恋の知識は経験から得るものだ。心理学に基づき、人を好きにさせることはもしかしたら出来るのかもしれない。


だが恋ってなんですか?と十人に聞いても一致することは無いのだから、その方法で恋に落としても本人がこれは恋じゃ無いと言ってしまえばそれは恋では無い。


「恋は理屈じゃないって本当何だな」


「難しいな~」





[遥視点]



「え?つまりキープしたってこと!?」


私は瀬良にあったことをなるべく詳細に話した


「そんな不誠実じゃないよ?どっちかと言うと保留。最初は私も好きって言うつもりだったんだけど、未だに恋が何なのか良く解らなくてさ」


「ちなみに瀬良は信二のことどう思ってるの?」


どう...か、一言で言うなら


「好きに成りたいって思ってるよ。私は今の気持ちを恋だと思いたい。でも恋をした経験が無いから断定が出来ないの。」


私は勉強が得意だ。だって、一度習ったことや教科書に書いてることを繰り返し繰り返しやればいつかは出来るようになるから。


図工は嫌いだ。確かに努力する要素はある。だけど、才能というか、センスが物を言うイメージがどうしてもあるから。


図工は恋となんか似てる。両方とも初見じゃ必ず出来ない、わからないから。


勉強は今までの経験を、知識を生かして次のステージへ辿り着けることもあるが、私にとって図工や恋では今のところそれが起こり得ないのだ


「恋って難しい。何で恋という授業が無いんだろう。生きてく上で大切でしょ。拗らせたらどうすんの!」


もう頭がこんがらがってた。出来るだけ早く彼に答えを言いたい。答えを出したい。


「なんか色々考えてるみたいだけど、信二のこと?」


「そうだけど?」


凄く不思議そうな顔をされた。


「遥は信二に好きって言って貰えて、嬉しかった?」


力強く、何度も頷いた。"嬉しい"は知っている。だからそれは間違い無い


「それって、ずっと"私彼のことどう思ってるんだろう"とか"好きって何だろう"とか、つまり信二のこと考えてる訳じゃん?」


「そうなるね」


「好きじゃん。もうそれ好きでしょ!信二のこと。逆にそれ以外何があんのよ!もうあの壁の向こう男子風呂だから行って私も好きですって言ってこい!」


何かご立腹みたいだ。でも、私には新鮮な考えだった


「確かに、私は今までAはこうで以前もそうだったからこれはAみたいな考えだったけど、BじゃないからAみたいな考え方もあるんだね!」


なんか興味深い。もう少し深掘りしようとしたらまだいいたらないらしい瀬良が顔を近づけてくる


「違う!もうそれは恋なの!私が決めた!命賭ける!恋だから恋!」


顔と声音は明らかに怒ってるが、気を付かって周りに聞こえないように声量を落としている。器用だな~


「瀬良、命は賭ける物じゃないよ」


「うるさい!それくらいの確信があるってこと!遥は信二とどうしたい?これからどうなりたい?一緒にしたいことを考えて」


私は...信二と


「手を...繋ぎたい。もっと一緒に、隣にいたい。もっと可愛いって...好きだって言われたい...好きって伝えたい!」


「認める?恋だって」


「瀬良が言うならそうなのかも」


風呂から脱衣所に行くと、最初に来たときよりも明るく見えた。


私に恋をしてくれた彼にも世界がこう見えているのだろうか

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