楽しそうにドドドッと

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楽しそうにドドドッと

「数学 47点 理科 53点... 君ホントに理数科志望?」

「はい...」

夕日が23.4度傾くころに教室で進路相談は行われる。

「僕、芸能人になりたいんです。」

「そんなのだm」


手に持つナイフを相手に突き刺すかのように。

喉の中にある堤防を砕け散らすかのように。


怒りをぶつけたくなることがある。




それは突然だった。

「椿谷(つばや)~一緒帰ろうぜ~ おいらはもう帰るぞ~。」

「今日塾あるから...」

「お前いっつも塾、塾って...高校生活楽しんでんのか?

 たまにはリラックスも必要だぜ?」

「ッン...!」

言い返せなかった。というより、誘惑に負けたといったほうが正しいのだろうか。


カラオケというものに行った。

「椿谷、なんか歌えるのある?」

「え...三角関数の詩とか...?」

「...何それ!?」

「今人気のロックの曲とかあるでしょう!?」

そおか、俺はきちんと生きられてないんだ。


いつも身に着けている子供用ガラケーからビーと響く。

気づいたら時間は7時30分を過ぎていた。

ビゴゴン、というなまった音とともにメールが来たことを知らせてくる。

「どこ道草食ってんの?はよぅ帰ってきなさい。 母より」

ヤバい...早く帰らなきゃ...

そう考えカバンをもって帰ろうとする。

「御前にとっておらは、親友だよな...?」

え...しん...ゆ...う...?

親友ってなんだっけ...

「御前は...親友じゃない...」

ああ、なんてこと言うんだ、俺。

友達が驚いた顔をする。そりゃそうだよな。

自分でもよくこんな言葉が容易に出たものだと思う。



帰り、牛丼をおごってくれた。

「おいら、気になることがあってさ。そういや、椿谷って趣味とかないの?」

趣味...

「勉ky」

「勉強以外な!!」

牛丼の上に乗っかった半熟卵をブスブスと割りばしで刺す。肉と絡め、ご飯と一緒に食べる。

そんな横にいる人の姿を見つつ。

帰らないとヤバいと思いつつ。

日は完全にくれ、途方に暮れつつ。

食べ方を真似する。

牛丼の上に乗っかった半熟卵をブスブスと割りばしで刺す。肉と絡め、ご飯と一緒に食べる。

「真似すんなよ」

普段は明るい友達もここだけは許さなかったそう。

心無い声で唇に地震を発生させたかのように。

怒られた。

「ごめんだよ。」

「じゃあ椿谷、なりたい職業は?」

「医師。」

「ほんとに?」


今思えば一番理解してくれた自分を親友だと思う。

「っ分かるかよ。俺の人生つうモノはそういうものなんだから。」


「モノモノモノモノモノモノモノ。ほんとモノ。」

言葉の意味が分からない。

「医師が悪いわけじゃないけど、お前の場合、なりたいわけじゃねぇじゃん。」

正しいことを言ってやがる。

目の前にある人を一生止められる能力があったら。

自分の存在なんて消えてもみんななんとも思わなくて。

逃げられるものなら。逃げ出してやりたい。


牛丼屋で分かれ、家へ向かう。

おんぼろで少しカシコマッタ嘘で作られた衣装を着る家は目の前にある。

“や”る気をてにこめられたr。

こめちまったよ。

窓をぶち壊し、低い声で叫ぶ。

俺って、こんな力あったんだな。中で混乱する声が起きる。

電話の音もなる。


逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。


夜の街は明るい。外灯がついてるから。

特にそこそこ人気のある商店街の近くなんて。

ふと看板を見る。

「笑えば吉あり」。なんてネーミングセンスのなi

「ネーミングのセンスのなさに気づいた!!って顔してるねぇ。」

看板下から声がする。一人の男性の声だ。

「何してきちゃったか知らないけど、とりあえず治療してあげるからこっちカモン。」

こーいう店経営してる人も、カモンなんて言葉知ってるんだ。

おじさんの目は自分の手に矢印を作っていた。

血がブシャアとでた跡がある。


消毒液がドクンドクンと心臓を揺らす。

「イテッ」

「男なら喘ぐんじゃないよ。」

いう事もぜーんぶいちいちツッコミたいところだが、とりあえずは我慢する。

「はい、おーわり。」

「・・・ありがとうございます」

男は急ににやけだした。

「見てくかい?」

男は棚の奥から多くのDVDを出してくる。

「ヤバい系のやつですか?」

「恩人に何いってんだぁ。」

男はDVDをカチカッとはめ、ビデオは流れる。

《ズズズ...幻夜の登場です!》

ビデオには一人の男が映し出されている。

《幻夜によるspecialナイトショー!!

 今夜も素晴らしい漫才を見せてくれるのでしょうかぁ!》

年季の入ったビデオの中で、幻夜は語る。

不思議と引き込まれる。

そしてビデオは切れる。

「面白いでしょ。俺の大好きな人なんだ。一回ここにやってきたこともあるんだ」

「幻夜さんの、ほかの記録はないんですか...?」

「あいにくね。」


「もしあれだったら、今日はここに泊まるといい。

ちょうど明日からパーティーがあるからね。」



この部屋で寝るよう言われ、その部屋で寝る。

しばらく家には帰らないことにした。



次の日。

二人のうるさい口論で目は覚めた。

「これでいいんですって!」

「それは駄目っつっとるやろ!」

恩人オジサンとこれまた知らないおっさんが唇を高速で動かしていた。


事情を耳で理解してみれば、おっさんがコントに昨日のDVDを使いたいらしくて、恩人オジサンが反対しているよう。

無理やりおっさんがDVDを持っていき、コントは始まった。


「みてごらんここにひもがあるでしょう」

そのシーンはちょうど、夫がひもになっちゃったっていうおバカな妻のシーンだった。

本来では二人必要なシーンだが、あの男一人でどうやってそのシーンを再現するのか。


男は、分かっていなかった。急に相方がいないとできないことを知り、戸惑う。

客席にいる少ない人々も、緊迫した状態にあった。


ふいに手が出た。

マイクに手を添え声を出す。

人をただただ助ける行基のように。

《やだねぇあんた。夫が本当に紐になるわけなかろうがい。》

客席でダダダッと笑いが起きる。

恩人オジサン

が部屋に来て、自分を止めた。けど、笑っていた。


「いやぁ助かったよ。ありがとうね。」

男がお礼をしてきた。

「君も漫才やってみたらどうだい。声、良かったよ。」

「はぁ...でもそんな自信...」

「漫才に自身なんているか?じしんは人を脅かすだけだろう?」


そこに恩人オジサンもやってきた。

「一回出てみたらどうだ。」

「ちょっと...考えてみます。」





成績はいい方だ。テストなんてほぼ満点を取る。


だがそこに興味を持ってからは、誘惑に負けだしてからは、

下がっていった。


「数学 47点 理科 53点... 君ホントに理数科志望?」

「はい...」

夕日が23.4度傾くころに教室で進路相談は行われる。

「僕、芸能人になりたいんです。」

「そんなのだm」


手に持つナイフを相手に突き刺すかのように。

喉の中にある堤防を砕け散らすかのように。


怒りをぶつけたくなることがある。


「僕、なりたいんです。」

怒りを声に乗せる。

気持ちを高める。


みんなの前に立つ。



「みてごらんここにひもがあるでしょう?」

ここは僕のステージだ。

会場からドドドッと笑いが起きる。

そんな姿を、おいらはみていた。

「フッ楽しそうだな。」

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