第22話 あの日伝えておけばよかった言葉たち




 船の甲板に模したデッキから、ライトアップされた園内をバックにして、俺は由実を見つめた。


「由実、何度も言うことになっっちゃったけれど、遅くなってごめんな」


「うん?」


 あの日の夜はお酒の力を借りたり、その場の流れという勢いもあった。


 でも今は違う。


 明日までの期間限定という条件付きながらも、佐藤由実という、中学時代からずっと頭の中から離れなかった彼女と時間を一緒に過ごせた。


 そして、その彼女の本質は変わっていなかったこと。同時に心身ともに傷ついていた彼女は自分へ救いを求めていることを知った。


「中学の時に言うべきだった。ずっと好きだった。ブランクが開いちゃったけれど、また会うことができた。もうこの次はないと思う……。ラストチャンスだと思う。この続きを一緒にいてくれないか?」


 由実の瞳が揺れている。イルミネーションの光が大きな黒い瞳の上で踊っている。


「それって、プロポーズ……なの? 私……、こんなになっちゃって……、ありがたいけど……でも……ほんとに、あ……りがとう」


 堪えきれなくなった涙が痩せてしまった頬を流れ落ちた。


 嗚咽を抑えきれなくなった由実を抱きしめる。折れてしまうのではないかと思うほど華奢になってしまった。


 きっと、自分の中でたくさんの消化不良を起こして、誰にも言えずに溜め込んで、ここまで来てしまったのだろう。


「分かってる。由実がまだ完全じゃないって。だから、まず『友達以上の、特別な二人』になるところから始めないか?」


「わた……しもね、祐樹君が……あの当時から好き。でも……、明日にはまた離れちゃう。遠いよ……。体だって……、元に戻れるかわかんない。祐樹君……、それでも私のこと、ずっと好きでいてくれる?」


 すすり上げながら、言葉を選ぶ由実を正面から抱きしめる。


「由実、ずっと一緒にいてくれ」


「うん。……、祐樹君あんまり顔見ないでぇ」


「どうした?」


「泣いたからお化粧崩れちゃってる」


「そっか。ごめんごめん。トイレは中に入ってすぐにあるよ」


「祐樹君、そこで待ってて。いなくなったら嫌だよ?」


「由実こそ、迷子になったりいきなり消えたりするなよ?」


「うん」


 笑顔で頷いた由実を見送って、イルミネーションを見下ろした。


 年月はかかってしまったけれど、何とかスタート地点には戻って来られたと思う。


 いろいろ環境も変わったし、何よりも彼女のリハビリから始めなければならないだろう。


 この数日で、幸いにも食欲が戻ったと言っていたことからも、体調不良が精神的なところから来ていることは明らかだ。


 これからの時間をどうやって埋めてやればいいのか。


「やっぱ1回は飛ぶしかないよな」


 一度現状の彼女の状況を確かめてくるしかないだろう。


 少し長めの休みを取るしかないけれど、譲れないことだと俺の中で心は決まっていた。



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