トイレからの恩返し

公子は、職場のトイレで泣き声がする個室の扉をノックした。

扉はすぐ開いたかと思うと中から他部署に今月入社したばかりの新人の女の子だった。

「どうして泣いてるの?」

公子は落ち着いて聞いた。

「上司に些細なミスで厳しく注意されたんです」

女の子は、泣きながら公子に話した。

そんな彼女の様子を見た公子は

「上司は、ピリピリしてたんじゃない?上司は、あなたにお給料をあげてるからしっかりやってほしいのよ!」

と励ました。


女の子も最初は公子に警戒していたが、公子の優しさで警戒心が解け、素直に上司の事を話した。

しかし、話の途中で女の子の上司が来てしまい、公子はびっくりして言葉が出てこなかった。

「ありがとうございます」

女の子の上司はそう言い、女の子と共にトイレを出て行った。


それから数週間度々女の子の姿を見かけるが、公子が想像していた事より上司は女の子に辛く当たり女の子に対してだけ罵詈雑言を浴びせていた。

そんな事が続き、とうとう女の子は退職する事になった。

女の子は公子にもお別れの挨拶をしたが、その後、

「明日の朝、会社近くのマンションの2階の202号室に来てください。赤茶色のマンションです」

と言った。


翌朝、公子は言われた通り赤茶色のマンションの2階に来た。そして202号室の玄関チャイムを鳴らすと女の子が出てきたかと思ったら女の子の両親らしき男女もいた。

「娘を助けて頂きありがとうございます!」

父親らしき男が深く頭を下げ、次に母親らしき女の子が、

「本当にありがとうございました」

と頭を下げた。

公子は自分は大したことしてないと言ったが、両親は公子にたくさんのもてなしをした。

帰りに公子は女の子から小さい箱を貰った。

「これは家に帰ってから開けてください」

と女の子は念を押して言った。


帰宅した公子は箱の中を開けると中には果物ナイフが入っていた。その果物ナイフと一緒に手紙が入っていた。読んでみると

「次の仕事の日にこのナイフを持って行って私の上司を刺してください」

と手紙には書いてあった。


公子は恐ろしくて恐ろしくて果物ナイフと手紙を捨てた。

もう見たくないぐらいだった。

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