メガネ男子はマスク男子に恋をする

柳 柚葵

いつも通りの朝

ピンポーン。

いつもの様にチャイムがなる。

この時間に来るのは一人しかいない。

隣の家の静だ。

わざわざ来なくてもいいのに毎朝来る。

「はいはーい。あら静ちゃん。唯叶はまだ寝てるわよ」

「了解です、おばさん!今日も任務を果します!」

「えぇ、任せます!」

うわぁ……

面倒な奴が来てしまった。

そう思いながらも僕は布団から出ようとはしなかった。

だって寒いじゃないか。

いくら春だとしても、寒すぎる。

まだ冬なのではと疑っているぐらいだ。

ガチャ。

僕の部屋のドアが開いた。

ついに部屋にまで来てしまった。

もう少し寝かせていてはくれないのだろうか?

「唯叶!始業式遅れるからさっさと起きろ!」

「うっさい。名前逆転人……」

「よく言われる!ほら……起き、ろ!」

「うわぁ!?」

急に布団を引っ張られてベッドから落ちてしまった。

にしても寒い。

布団の中よりも寒い。

そりゃそうか。

布団があったかいんだから。

「はぁ……よく男の部屋に入れるよね。しかも高校生男子」

「何言ってんの。唯叶が何もしない事なんて昔っから分かってますー」

「そうだけど……」

ぐうの音も出ない。

本当にその通りだ。

マイペースで運動音痴なのは母親譲り。

歌唱力と面倒くさがりなのは父親譲り。

まぁ、静が「何もしない」と言っていたけど、僕からしたら「面倒だから何もしたくない」だ。

あ、静とは昔からの腐れ縁の幼馴染み。

「唯叶、朝食食べて〜。静ちゃんも食べる〜?」

「食べます!早く行くよ!唯叶」

「うーい、今行く」

朝からテンション高いな〜。

見習えって言われても無理なテンション。

着いていけない。

朝からこんなに元気なのは逆にすごいな。

尊敬しかないわ。

静と一緒に階段を降りていくと、美味しそうな匂いがしてくる。

この匂いはフレンチトーストかな。

相変わらず朝食なのにこっている。

軽く食べるだけでもいいと思うのに、母さんはそれを絶対に譲らない。

「成長期なんだから、しっかり食べなさい!」と言われて終わる。

(もう成長ししないと思うんだけどな……)

俺の身長は160cm。

高校生男子にしては小さい方なのだろう。

去年と比べたら3mmぐらいしか伸びていない。

「男の子は中学生ぐらいで伸びる」と聞いたことがあるが、俺の場合は違うみたいだ。

もう少し伸びてくれればいじられなくて済むのに。

それは多分叶わぬ願いだろうな。

「いただきまーす」

今日もいつもと同じ味。

この味が好きなんだよなぁ……

「やばっ!うんま〜」

静って、美味そうに食うよな……

確か好き嫌いとか無いんだっけ。

すげーわ。

俺なんて好き嫌い多くて怒られるのに。

「……なに?顔になにかついてんの?」

じっと見すぎていたみたいで、静にバレてしまった。

意外と視線に敏感なのか?

幼馴染みと言っても知らない事もあるものだ。

けど、俺は今知らない事を1つ減らしたことになる。

嬉しいような嬉しくないような。

微妙な感じだ。

「いや、なにも?うまそうに食うなーと思って」

「知ってる。みんなに言われるし」

うん、だろうな。

そう言われているのはよく聞く。

弁当も学食も何でも美味そうに食ってるから。

「2人とも、早く食べないと遅刻するよ。ただでさえ寝坊してるのに」

あー、忘れてた。

普通に寝坊してない時間帯かと思ってた。

「ご馳走様でした!」

静が食べ終わって食器を片付ける。

なんでそんなに早いんだ?

さっきまで話していたのに。

俺が遅いだけなのか、静が早いだけなのか。

またはそのどちらもか。

まぁ、恐らく後方だろうけど。

「ごちそーさま」

俺も何とか食べ終わった。

結構お腹いっぱいだから動きたくない。

けど、学校もあるから動かないと。

着替えもしてないし、顔も洗ってない。

コンタクトだって……

「……あ、コンタクト付けるの忘れてた」

「はぁ!?」

まぁ、その反応は打倒だろうね。

時間ギリギリなのにコンタクトとか怒るわな。

でも、いつもコンタクトだからつけていかないと見えないし……

「唯叶、今日はメガネで行きなさい。コンタクト付けてる時間無い。一応持って行って時間ある時にでもつけて。後は任せたよ、静ちゃん」

いやいや、勝手に任せるなし。

この名前逆転人にコンタクト任したくないんだけど。

でも、どうせ何言っても意味ないんだろうな。

スルーされそう。

「了解です!今日も唯叶を見張っておきますんで!」

うわー、今日も見張られるん……

いくら静でもさすがに嫌かな。

静に急かされて急いで着替える。

もう少しゆっくりしたかったけど仕方ない。

「ほら、メガネかけていくよ!」

「はーい。いってきまーす」

そう言って家を出ると、思ったよりも寒かった。

春なんだったら、もう少し暖かくても良いじゃないか。

なんで寒いん?

「唯叶、今日は部活あるの?」

そう言えば、今日から部活だっけ。

楽しいから部活はいいんだけど。

「あるよ。先輩いなくなって初めての部活だから少し心配。多分今日はミーティングで終わると思う」

「そっか。ならさ、一緒に帰ろうよ。ちょうど体育委員の仕事あるからさ。部活終わるまで待ってる」

「ども。なるべく急ぐわ」

「うん」

あれ?

なんでこんなに嬉しそうな顔してるんだろ。

そんないいこと言ったか?

いつもこんな顔しないのに。

「あ、授業中寝んなよ?」

「うわー、拒否権無いやつだ」

勉強は先生の声で毎回眠くなるんだよなぁ。

特に社会の先生。

読み聞かせかってツッコミたくなる。

そんな調子でいつも通り静と登校して、友達に

「カップルかよ!」

「いや、夫婦じゃね?」

と、毎朝言われる。

流石に飽きないのだろうか?

静を横目で見たら、なぜか赤くなっていた。

熱でもあるのか?

少し心配になったけれど、その後背中を殴られたから多分大丈夫。

「ほら、急いでクラス見るよ」

静はそう言うと早足で行ってしまう。

俺も置いていかれないようについて行った。

その時、マスクをかけた男子生徒が桜の木を見上げていた。

いつもの俺だったら多分風邪だと思って心配するだろう。

けどその時は風邪なんて心配しなかった。

その男子生徒が桜ととても合っていたらから。

絶対絵になる。

今度描いてみようかな。

「唯叶〜?」

静に呼ばれて我に返った俺は、男子生徒から目を逸らして急いでクラス名簿を見に行った。

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