死ねない魔女と死にたい王子の婚約譚

国城 花

第一章 出会いと婚約

プロローグ


昔々あるところに、1つの国がありました。

その国では、魔法がたくさん使われていました。

しかしその国の人々は、魔法を正しい方法では使いませんでした。


火の魔法で街を焼き、自分たちに逆らった者を追い出しました。

水の魔法で洪水を起こし、作物が育たないようにしました。

風の魔法で家々を吹き飛ばし、愉快だと笑いました。

雷の魔法で落雷を降らせ、人々を怯えさせました。

土の魔法で大地を揺らし、攻め入ってきた軍勢を大地の割れ目に落としました。


誰も、その国に勝てることはありませんでした。



しかしある時、勇気ある若者が現れました。


若者は、焼かれた街の人々に新しく住む場所を与えました。

洪水で育たなくなった畑に、水に強い作物を教えました。

吹き飛ばされた家の人々に、頑丈な家を建ててあげました。

落雷が怖くないように、避雷針を立てました。

大地を揺らされても空を飛び、その国に攻め入りました。


若者は、魔法で人々を苦しめる者たちに、やめるように言いました。

しかし、白い髪の魔女が、こう言いました。


「魔法を使うことの、何が悪いのか」


若者は言いました。


「人を傷付けたり、困らせる魔法を使うことは、悪いことだ」


魔女は、笑いました。


「弱い者が、悪いのだ」


魔法を使うことも、弱い者を虐げることも、何も悪くない。

魔女は、そう言いました。

若者は、諦めずに魔女に説きました。


街を焼かれて、住む場所を失った人々が大変な思いをしていること。

作物が育たなくて、食べるものがなくなった人々がいること。

家がなくなって、寒さで凍える人たちがいること。

落雷が怖くて、泣いて怯える子供たちがいること。

大地の割れ目に落ちて、帰って来なくなった兵士がいること。


しかし若者の話を聞いても、魔女は笑うだけでした。


「私には関係のないことだ」


若者は、魔女を説得することを諦めました。


若者は、魔女の一瞬の隙を突いて、1つの魔法を使いました。

若者にとってそれは、唯一魔女より得意な魔法でした。


若者は、魔女を倒しました。

魔女は、その国の王女でした。

王女が倒されたことで、その国の人々は、喜び祝いました。



悪い魔女は倒され、平和がやってきたのです。

若者は、もう魔法が悪いことに使われることがないように、悪い魔法を使うことを禁じました。

そうして若者は、1つの国をつくりました。

その国では、魔法は良い方法で使われるようになりました。


冬の寒さをしのぐために、火の魔法を使いました。

雨が少ない時には、水の魔法を使いました。

高い所から落ちた人を助けるために、風の魔法を使いました。

使うことを禁じられ、雷の魔法は忘れられていきました。

国を護るための壁を造るために、土の魔法を使いました。


若者は、賢者と呼ばれるようになりました。

賢者は、新しい国の最初の王様になりました。

魔女の魔法に怯えて過ごしていた人々は、賢者の国で、平和に暮らしました。



『賢者と白い魔女』





― - - - - - - - - -


毎日朝8時に更新予定です。

よろしくお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る