第52話

「むうう…」


 翌朝、大助がスマートフォンを片手にゴロゴロと床の上を転がる。


「だ…だめだ。…まだ我慢だ…我慢しろ……」


 画面上に表示された「ダンジョンモード」これが大助の心を掴んで離さないのだ。


(ダンジョンだぜ?…絶対面白くなるだろこれは……)


 ダンジョン。そこから連想される光景。剣に魔法、そしてまだ見ぬレアなアイテム達。その可能性がたったの1タップで叶ってしまうのだ。


「……」


 我慢我慢。まだ時期早々と必死に大助は自分自身を抑え続ける。だがその思いとは裏腹に大助は冷静に現状を分析していた。


(とりあえず問題になりそうな火種は全て消化済みだ。全ての準備は整っている。何なら今すぐにでもGOという事も可能だ。…そう、可能なんだよなぁ……)


 大助がダンジョンモードを開く。すると画面には3つのモードが表示されていた。


 ・RPGダンジョン


 ・派遣ダンジョン


 ・ランダムダンジョン


「むぅ……もうダメだ。我慢できねぇ……」


 画面右上に表示されたヘルプマークをタップする大助。それと同時に音声が流れ始めた。


<この説明を聞いているという事は、ついにここまで辿り着いたという事ね。…色々と言いたい事はあるんだけど、まずは説明の義務だけは果たしておくことにするわ>


<基本的なルールを説明するわね。ダンジョンにはそれぞれ階層が設定されてるわ。そしてそのダンジョンのボスを倒す事でクリアとなる。これはまあ大原則ね>


<当然ダンジョンには「敵」や「トラップ」が仕掛けられている事もあるわ。…良く聴きなさい。当たり前の話だけど、ダンジョンで死んだら「現実」でも死んだ事になるわよ。…本当に気をつけなさい>


<それと、クリアはできなくてもダンジョンから脱出できる方法はあるわ。大切な事は最後まで諦めないこと。…とりあえず説明としてはこんなところね……>


<……>


「…?」


 再生される音源に耳を澄ます大助。長い沈黙の後、恐る恐るといった間隔で再び音声が流れ始めた。


「……」


<……えっと…>


<……>


<…ごめんさい。少しだけルール違反を犯します。本当はこういう発言をするのは「良く」ないんですが、どうしてもこれだけは言わせてください>


「……」


(音声だけってのは不便だな。何を考えてるのかさっぱり分からん。顔や表情が見えればもう少し意味も分かるんだが…)


 表情というものはプロファイリングにおいて重要なポイントだ。人は「表情」「言葉」「文体」「癖」などから話の真偽を判断している。逆に言えば表情が分からないと途端に判断が難しくなるのだ。


<あなたが、もし単身で「ランダムダンジョン」に行くつもりなら…1つだけ「お願い」があります>


「っ!?」


 まるで内心を見透かしたかのような発言に驚く大助。


(録音の筈だよな?…ピンポイントで「ランダムダンジョン」の名前が出てきたか。それにこの話し方。…まさか……)


<あの子達に、一言だけでも言葉を伝えてあげてください。あの子達に「チャンス」を与えて欲しいんです>


「……」


 大助は薄々理解していた。この音声の正体を。


<これは「強制」でも「命令」でもありません。あなたにはこの「戯言」を果たす義務もありません。だからこれは「私」から「あなた」への、ただの「お願い」なんです。…でも、これだけだと不十分かもしれないので、ダメ押しをしておきます>


「……」


<こう言い換えましょう。あなたのお助けモンスター達に旅立ちのメッセージを送ると、面白い事になりますよ。…ふふ。きっと、あなたはこういう台詞の方が動いてくれるような気がするんです。…では、また会える事を楽しみにしています>


 その言葉を最後に音声の再生は終了した。


「まったく…ずいぶんとまあ俺の性格を理解しているな」


 大助が楽し気に送信用のメッセージの文面を考え始める。


(「お願い」という言葉が気に入った。これが「命令」や「強制」の類なら俺は無視していただろうな。その辺りの思考理論を理解した上での「お願い」か。…いいね……)


「まあ、偶には誰かの掌の上で踊るのも悪くは無いか」


 道を誘導されている。その事に気が付きながらも大助は楽し気に進み続ける。

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