第38話
魔法は個人の才能によるところが大きい。スポーツなどと同じで個人個人に必ず得意な系統が存在している。稀に全属性が使用可能な者もいるが、余程の天才でもなければ器用貧乏という結果になりやすい。結局のところ、何か1つを極める事が凡人が目指すべき目標という事になる。
「出来ると思えば必ず出来る。出来ないと思えば必ず出来ないのが魔法だと思います」
「…こうブワーとやって、ブワーとやれば相手は死んでる」
「魔法なんてものはこう、パーとやって、ドガン!と殴ればいいんだ」
あまりにも脳筋過ぎる説明が3体から大助へと語られる。それをジュースと共に喉に流し込みながらさも理解しているという体を取り続ける。
(なるほど。こういうのが天才タイプって事なのか)
それでもいくつかは参考になる意見もあった。さっそくそれをテストする大助。
「イメージか…そうだな。じゃあこの魔力ってやつを水道水に例えてみると…」
大助がイメージした物は巨大な蛇口だ。普段はギチギチに閉められ一滴の水も漏らさない。そして必要な時には一気に解放される。そんなイメージがガッチリと大助の魂の歯車と噛み合う。この瞬間、彼の中で何かが変わった。
「あっ…」
「…凄い」
「流石は私のマスターだな!」
お助けモンスター達からパチパチと拍手が送られる。
「うっし!これでやっと新人魔法使いってところかな?」
大助がそう締めくくり、魔法談義は一旦お開きとなった。
「やっぱりこのお肉凄く美味しいですよ~プリプリしてます!」
「…うまうま」
「普段食べてるゴムみたいな魔物の肉とは大違いだな」
物凄い速度で焼けた肉と野菜を食べるお助けモンスター達。その姿を大助はのんびりと眺めていた。
(…いつ以来だろうな?こうして誰かと外で飯を食べたのは)
大助の脳裏を掠める過酷な記憶。そのどれもこれもが「楽しい」とはかけ離れていた。それはただ栄養を補給するだけの事務的な行動。…饐えた硝煙の中を駆け抜けた、一人の少年の遠い記憶だ。
(過ぎ去った時間は戻らない。変えられるのは未来だけだ)
脳に焼き付いた記憶から大助が目覚めると、そこには心配そうに彼の顔を覗き込む3人の少女達の姿があった。
「マスター!一緒に食べましょう!」
特盛の皿を手に、健康的な笑顔を見せる兎人族の少女。
「…野菜も食べないとダメ」
ダウナーな表情とは裏腹に、主人の健康を気遣う正体不明の少女。
「早く食べないと全部私が食べてしまうぞ!」
さり気なく主人の肉の強奪を狙う勝気で傲慢な竜族の少女。
(………)
大助が少しだけお助けモンスター達から顔を逸らす。
___飾り気無しの、少年のような無邪気な笑顔。
だがそれは本当に一瞬だけ。秒数に換算すれば1秒にも満たない刹那の出来事。男の表情は直ぐに元に戻る。
その心に幸福と言う名の雫が垂らされていく。継ぎ接ぎだらけで底が無い歪な器。貯まるはずの幸福はどこぞへと消えていった。
(もっとだ。もっともっと…もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと……)
___渇望の炎が男を焼き続ける。男は止まらない。止まる事など出来ない。ブレーキは既に壊れている。
「マスター?どうしました?」
ラビの顔に心配そうな表情が浮かぶ。
「いや、なんか幸せだな~と思ってな。さあさあ!もっと肉を食べようか!!」
務めて明るい声を出し大助が食事の輪に加わる。
(どうかこれからも、この幸福が続きますように…)
___大切で愛おしいオモチャ達を労わりながら、男は切に願った。
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