第32話

「…ん。出来ると思ったら出来る。出来ないと思ったら出来ない。魔法はそんな感じ」


「なるほど…」


 大助は理論を捨て直観で魔法を発動させようとする。


(イメージイメージと。ドラゴン=最強。ドラゴンって言ったらやっぱ翼だよな?こう、大きい感じでかっこいいやつ)


 大助の脳内で明確にイメージが固まった瞬間、その背中から半透明の緑の翼が生えた。


「おお!?」


(ひょおおおお!!これだよこれ!こういうのを待ってたんだよ!)


「…部分的な形態変化。かなり高度な魔法…」


 クラリアの呟きも今の大助にはまったく聞こえない。


「うおおおおおおおお!? そんじゃこういう感じかなぁ!?」


 翼を大きく羽ばたかせ、大助が地面からジャンプする。


「…___‘結界解除‘」


 その場の空気を読んだクラリアのパーフェクトなアシストにより大助は空高く飛び上がった。…そうだ。ろくに空の飛び方も知らない男が空中へと飛び立ったのだ。となれば続く結果など誰でも予測できるだろう。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 大助が天高くから地上を目指しクルクルと自由落下を始める。


(魔力を纏えば衝撃を緩和できるか!?いや無理だって!こんなのミンチ確定だろ!?)


「クラリアちゃあああああああん!?助けてくれえええええええええええ!!」


 テンパッた大助が慌ててクラリアに助けを求める。


「…ん。まかせて欲しい。___‘フォレストハンド‘」


 クラリアが地面に手を付き魔法を発動させる。地面から生えた巨大な2つの植物の腕が大助を優しくキャッチ。彼を地面へと放り投げる。


「…なるほど。これがクラリアの魔法か」


 大助がクラクラと揺れる頭を抱えつつクラリアの元へと向かう。


「…マスター大丈夫?」


「ああ。マジで助かったよ。ありがとな」


「…ん。お助けモンスターとして当然。もっと頼って欲しい」


「良い子だ。後でホールケーキを奢ってやる」


 大助とクラリアの実験は続く。ドラゴン草を食べ、空を飛び、クラリアにキャッチされる。その日はそれの繰り返しだった。20回目にして大助がようやく飛行のコツを掴む。そして大助はサポート無しの完全自立飛行に成功した。


「うっし!まあこんな感じだろう」


 着地と同時に背中の翼も消失する。ドラゴン草の効果が切れた結果の現象だ。


「…マスター。凄く上達した」


 クラリアが大助にパチパチと拍手を送る。


「ああ。だけどこの草やっぱ問題だらけだな」


 ドラゴン草の問題点は数多く存在する。まずその効果時間だ。バラつきはあるが、今の大助の練度では1分程度しか持たない。あまり実用的とは言えない制限時間だ。2つ目はコントロールの難しさ。これに関しては大助も今回の実験で痛感していた。魔法とはとどのつまり空想の具現化だ。論理的な思考は邪魔にしかならない。変な部分で現実的な大助の思考がその自由なイメージを阻害しているのだ。だがそれも仕方がない事だ。


 ___彼は夢見る少年ではなく、過酷な社会を知ってしまった大人なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る