第3話
「タッチだと?」
試しに何度か画面をタップしてみる。すると、少しずつだがタンポポの芽が成長を始めた。
「おお…!? いいね。こういうの嫌いじゃないんだよな~」
それから大助はひたすら画面をタップし続ける。1分程経過しただろうか。小さな芽はごく普通のタンポポの姿になった。
「植物が完全に育ちました。収穫しますか?」
画面にそう文字が表示される。
「…収穫だと?」
収穫可能という文字と共に、画面にタンポポをスワイプするようなモーションが表示される。指示に従いつつ大助がタンポポをスワイプした。すると、回収完了という文字と共にタンポポがどこかに消えてしまう。
「あれ? 俺のタンポポはどこに行ったんだ?」
そして画面が自動的に切り替わる。その新しい画面の右上には「倉庫」と表示されていた。
「倉庫メニューが解禁されました。収穫された物はここに自動的に収納されます」
「ふむ…倉庫か……」
(これはつまり、育てた植物を備蓄できるってことだな。中々本格的じゃないか)
「収納された物は「現実世界」に取り出すことができます。取り出しますか?」
「……何だって?」
聞き逃す事など出来ないその言葉に大助が反応する。
「取り出しだと?…どういう事だ?」
(現実ってのはいったい…いや、つまりそういう事なのか?)
その疑問に関して既に大助は答えを持っていた。彼がプレイしていたゲームの中にもその手のジャンルのゲームはあったのだ。
「現実ってのはつまり、現金とかギフトカードとかに交換できるってことだろうな…それとも……」
「いや、まさかな…」
「……」
大助の心臓の心拍数が上がっていく。
「…物は試しとも言うしな。試して見るか」
大助が取り出しを選択し、その選択を確定させる為に指を動かす。
「……」
(…妙な気分だ)
ボタンを押す。これはただそれだけの行為。だというのに、何故、これ程までに大助の心はかつて無いほど踊り狂っているのか。あるいはもうこの時点で大助は理解していたのかもしれない。そのアプリに宿った魔性の力を。
___大助の指が「取り出し」ボタンを確かにタップする。
___そして、目の前のスマートフォンから「何か」が飛び出してきた。
「……え?」
反射的に掴んでいたその物体を大助は注意深く観察する。
「…タンポポ…だよな」
大助が手元のタンポポと思わしき雑草を何度も何度も触り感触を確かめる。大助の目も、その指先も。その草が確かに「存在」している事を確信していた。
「間違いない。これは、本物のタンポポだ」
大助の心臓がバクバクと鳴り始める。ゾワゾワとした高揚感が全身を包み始めた。
大助は確信していた。これは始まりだと。大助が待ち望んでいた「退屈」からの脱却。その足掛かりは今、間違いなくその手の中にある。
「チュートリアル「偉大なる一歩」を達成。経験値を獲得しました」
「おめでとうございます。栽培レベルが2に上がりました。栽培可能メニューに「異世界の植物」が追加されます」
「……」
画面に次々とメッセージが表示される。そして最後に自動的にチュートリアルメッセージが起動した。
「…もう分かってると思うけど、このアプリは普通のゲームじゃない。この力をどう使うかは全てあなた次第よ。…あなたがこの瞬間を楽しんでくれている事を祈るわ。それじゃまた縁があれば会いましょう」
ブッ!という音と共にメッセージが終了し、画面は何もない地面に切り替わった。
「あ~……」
大助はしばらくその場から動くことができなかった。そして3分後、ようやく彼の脳味噌がこの現実に適応を始める。その口から吐き出される絶叫と共にだ。
「素晴らしい!!間違いなく俺は楽しんでるぜ!!今!この瞬間を!!」
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